第17話 内側の密告者
自宅。
早朝に帰宅したディミトリは祖母に悟られないようにコッソリと自室に戻った。
そして、パジャマに着替えてベッドに寝転んだ。
(何故、あの車が彼処にいたんだ?)
釈然としない気分で自問自答する。自分としては部屋に居る風を装っていたつもりだ。
いつもどおりに夕方のランニングを終え、自宅に戻ってから外には出かけなかった。
そして、彼らに見つからないように裏の家から通りに出た。
(何もおかしな点は無いよな……)
今日一日の行動を思い返してみて不審点を考えてみた。
(もう一台。監視用の車が居たのか……)
だが、通りには車は居なかったはずだ。それは確認していたから間違い無い。
そして移動中も警戒を怠らなかったつもりだ。元々、何か異変を感じたらそこで中止してしまうつもりだったのだ。
これは不審車だけでは無い、警察車両の警らも警戒しているためだ。
中学生がフラフラと出歩いて良い時間でない。それを知っているので注意しているのだ。
(車が居なくても人員を配置していた可能性もある……)
通りには雑居ビルもあったし、マンションなども建っている。
その中で監視されていたらディミトリには分からない。
(う~ん……)
定点的な観測所を設けるのなら、車を増やした方が使い勝手が良いはずだ。
自分だったらそうする。
(何らかの手段で確認する必要があるな……)
ディミトリが分からない手段で監視されているとしたら問題だ。行動の自由が無くなるのを意味している。
それでは金を都合して自分の身体を探すことが難しくなるからだ。
(ええい、クソッたれな連中めっ!)
ディミトリは毒づいてから布団を頭まで被った。考えがまとまらないせいだ。
少しウトウトしてから学校に行くために再び着替えた。日常を演じる事で無関係を装うつもりだ。
もっとも、謎の組織の監視下にあるので意味が薄いかもしれない。
学校を普通に終えたディミトリは早速着替えた。夕方のランニングを装う為だ。
だが、途中でコースを変更して目的地を変更するつもりだった。
毎日、ランニングの最中にストレッチ体操をする公園を横切ってバスに乗車した。
ランニングコースからバス通りに出るには、公園を大回りしなければならない。
ここで不審車の視界から消えてなくなる筈だ。
「ふふふっ……」
不審車に載る二人組の慌てぶりが目に浮かぶようで思わず笑みがこぼれた。
しばらくバスに乗って目的の場所付近で降りたディミトリはある家に向かった。
ディミトリが居るのは『大の仲良し』の大串の家の前。
彼は迷わず家のチャイムを鳴らし大串を呼び出した。
「え?」
いきなりの訪問に大串は困惑していた。何しろ喧嘩で躊躇することなく目玉を取りに来る男だ。
彼も関わり合いになりたくないと考えていたのが顔に表れている。
「な、何しに来たんだよ……」
「やあ、大串君。 約束通り来たよ! さあ、試験勉強始めようか!」
ディミトリは家人に聞こえるように大声で言うと、大串の肩を抱いて彼の部屋に向かった。
家人から見れば真面目そうに見えるディミトリは歓迎されるだろう。
此の家のことを調べられても平気なように振る舞うつもりだ。
「し、試験勉強って何だよ……」
部屋に入ると大串の取り巻きたちが居た。彼らもディミトリの登場にびっくりしているようだ。
彼らが大串の家に来ることは、学校の様子で分かっていた。だから、来たのだ。
不審車の二人組が警察関係者なら、大串たちのことを調べるはずだ。
何が出るわけでは無いが、学校の友人ということで丸く収まるだろう。
「ちょっと、待てよ……」
「なんで、ソイツが来るんだ……」
「何で、俺の部屋を知ってるんだよ……」
ディミトリの異常性を知っている大串たちは涙目だ。彼らの拠り所である男の強さとは次元が違うからだ。
「俺は何でも知ってるよ……」
先ほどとは打って変わったように静かに返事した。
「まあ、大人しく座っていれば、今回は目玉は抉らないよ……」
そう言うとニッコリと笑った。
「……」
ディミトリは彼らを無視して部屋を横切った、そして、窓にから外を双眼鏡で覗き始めた。
担いできたディバッグに入っているのは勉強道具では無い。
双眼鏡や着替えなどを持ってきているのだ。
「アイツは何やってるんだ?」
「覗き?」
「近所にお姉ちゃんが居る家なんかねぇよ……」
「じゃあ、何やってんだよ……」
「関わりたいのか? おまえ……」
「……」
「……」
大串たちが何かヒソヒソ話をしているのを無視して監視を続けた。彼らがディミトリの事をどう思うが知った事では無いからだ。
そして十五分もしない内に、件の不審車がやってくるのを見ていた。
(やはり、そう来るか……)
黒い不審車はブロック向こうの通りに停まっていた。
これでディミトリは確信した。
(尾行じゃないな……)
黒い不審車を睨みつけながら、これまでの事を思い返していた。
ディミトリの顔がみるみる内に歪んでいく。
(追跡されているのかっ!)
ディミトリは不審車の行動の謎が何となく分かった。裏を掻いたつもりだったが、追跡装置があれば意味がない。
日中しか監視しないのは行動観察のためだ。居場所は分かっているので夜間は見張る必要が無かったからだ。
先日の詐欺グループのガサ入れも彼らの入れ知恵であろう。
「クソッたれ共め…… 何を考えていやがる……」
思わずディミトリが呟いた。
「?」
「?」
「なんだよアレ……」
「お前が聞いてみろよ」
「いやいや、大串を訪ねてきたんだろ」
「ざけんなよ。 俺は知らんよ……」
「俺も無理っす……」
そんなディミトリの呟きを大串たちは不思議そうに見ていた。
いきなりやってきて何かを話するわけでもなく、双眼鏡で外を覗いてイキナリ怒り出す同級生だ。
正直、関わりたくないタイプだと全員が思っていた。
(まあ、半分予想はしてた、仕組みがわかればどうってことは無いさ……)
ディミトリは背負っていたディバッグから着替えを取り出して着替えはじめた。
自宅でティーシャツに糊でアルミホイルを貼り付けたものだ。少しゴワゴワする。
追跡装置は電波で位置情報を出しているはずだ。それを遮断するために持ってきたのだ。
(これで誤魔化す事が出来るはず……)
恐らく体内の何処かに追跡装置が埋め込まれている。
上半身にあるのか下半身にあるのか不明だが、コレで大体の場所が絞り込めるはずだ。
ディミトリは事故に遭った際に、アチコチ手術を受けているのだ。その時にやられたのだろう。
場所が特定できれば、後は取り出せば良い。
(もし、追跡装置ならそんなに大きくないはずだ……)
取り出しは自分でやる羽目になる。痛みを我慢する訓練はしているので何とかなるだろう。
何よりも見ず知らずの他人に、自分の運命を弄ばれるのがディミトリには我慢成らないのだ。
痛み程度凌げる自信はあった。
「ジャマしたな……」
そう言い残すと部屋を出て行った。
後は此の家からソッと抜け出し、適当なところでシャツを脱げば位置情報が発信されるはずだ。
それで彼らがやってくれば発振器は上半身の何処かということになる。
そうならずに追跡されるようなら下半身の何処かだ。
(すぐに分かるさ……)
ディミトリは大串家の裏庭の塀を乗り越えて去っていった。
残された大串たちは訳が分からずポカンとしているだけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます