第6-5話

「これからあきらと横浜に行くのですが、一姫さんはどうしますか?」


 そろそろ出発しないと、船の調査に間に合わない。


「横浜って、伊勢の宇治土さんに会うの?」


 一姫は顔を曇らせる。


「ええ、お願いしたい事があったのですが、調査協力もすることになりました」


「別に来なくていいぞ」


 あきらはからかうように横から口を出した。


「いく」


 一姫はあきらの言葉には取り合わず、すました顔で短くきっぱりと答えた。


「おいおい、本気か?」


「じゃなきゃ、私が来た意味がないじゃない」


 二人の掛け合いはまだ続きそうだったので、みつるは一旦自分の机へ戻ることにした。


 衝立ついたての横を抜け三人の視界から外れると、聞こえないように小さく息を吐いた。


 資料を机に置き椅子の背を引くと、みつるは糸が切れたように力なく腰掛けた。


 どこのオフィスにもあるような安物の椅子がきしみ、抗議の音を立てる。


 両肘りょうひじを着き、両手を目の高さで組んだ。親指をひたいに当てるようにして、少しうつむきき頭を支える。


 そばにいれば、守れるだけまだ良いかもしれない。


 そう考えた自分の傲慢ごうまんさに気付き、組んだ手で額を一度叩いた。


 みつるは両腕を左右にだらりとらすと、椅子の背に寄りかかり、天井を見上げた。



 おそらくここにいる誰よりも、彼女は強い。

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