第6-3話

 みつるは資料に目を落とした。


 被害者の症状と連絡先の一覧が載っている。


 ページをぱらぱらとめくり、思わず笑みがこぼれた。


 名前のらんに赤く線が引かれ、小さな文字で『注目!』と書かれていた。


「みつるさん、ちょっとイヤ」


 まだみつるのことを見ていたのか、香那が抑揚よくようのない声でそうとがめた。


「いや……、でしたか」


 確かに今の一連の動作や表情を見ていたら、変な人と思われてもしょうがないかもしれない。


「それより香那さん、あきらを知りませんか?」


 何時の間にかあきらがいなくなっていることに気付き、冷静をよそおいながら尋ねた。


 注意力が散漫さんまんなのは、やはりまだ回復しきれていないということなのだろうか。頭痛はもうしないけれど。


「さっきまで、自分の席にいたみたいだったけど」


 香那は立ちあがると部屋をぐるりと見渡した。


「みつるー。なんかニュースで事故があったと言ってるぞ」


 部屋の奥にある衝立ついたての向こうから、あきらの声が聞こえた。


「テレビを見ていたようですね」


 みつるは苦笑して、香那と顔を見合した。


 二人は並んであきらの居る場所へと移動した。


 香那は胸ポケットからサングラスを取り出して、途中でかけた。


 三人掛けのソファーの中央に座わったあきらが、身を乗り出すようにしてニュースを見ていた。


 みつると香那はソファーの後ろに回り、あきらの背後に立つと、テレビへと視線を向けた。


「繰り返します。神奈川県、高速小和トンネルで、大規模な崩落事故が発生した模様です……」


 現場上空からの映像を背景に、アナウンサーが高速道路で発生した事故の様子を伝えている。


「東京を日干しにでもするつもりか?」


 大手町駅の半分が水没したニュースに移ると、あきらが口を開いた。


「道路まで使えなくなるなんてね」


「関連があるのでしょうか」


 ソファーの背に手を着いて、みつるはつぶやいた。


「東京が干上がることよりも先に、線が切れたことが問題なのよ」


 三人はその声に驚き同時に振り向いた。


 声の主は衝立の右側から、ひょっこりと顔だけを出していた。


 満面の笑みを浮かべている。


「うわっ、なんで一姫かずひがいるんだ!」


「一姫さん、お久しぶりですね」


 あきらとみつるは同時に声を出していた。

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