第6-1話

 莫耶エネルギー研究所の休憩室に、白館みつるの姿があった。


 部屋の大きさは二十畳くらい。入り口のすぐ左の壁には、自販機が三台設置されている。


 背の高い一本足の丸テーブルが等間隔に並び、カウンターに置いてあるような背の高い椅子が、テーブル毎に二脚ずつ置かれている。


 みつるは窓に近いテーブルを選び、紙コップに入ったホットコーヒーを飲んでいた。味は普通に美味しいけれど、香が少し足りないように感じられた。


 そろそろ仕事に戻ろうと、残っていたコーヒーを一息に飲み干したとき、コップでふさがれた視界のすみ弓波水智ゆみなみみずちの姿が見えた。


 休憩室に入ってきた水智と目が合うと、嬉しそうに一直線に走り寄り、向い側の椅子に飛び乗るようにして腰掛けた。


「みつる! さぼり?」


 青年というにはまだ幼く、少年というには少し大人びた水智が無邪気むじゃきに挨拶した。


 フードとボンボンが付いたブルーのパーカーに、ハーフデニムのパンツ、暖かそうなブラウンのムートンブーツという格好かっこうをしている。


「こんにちは、水智さん。内緒にしておいて下さいね」


 みつるは笑顔で挨拶を返した。


「こちらには慣れましたか?」


「仕事ならとっくに慣れたよ。単純な作業ばかりだし」


 水智は口をとがらせた。


「室長は同じことしか言わないし、すぐに怒るし、つまらない仕事ばかりで退屈だよう」


 足をぶらぶらとさせながら、愚痴ぐちをこぼした。


「まだ一週間でしたよね。それで管理室の仕事に慣れた、というのは凄いことですよ」


 みつるはなだめるように言った。


「ここに来る前、筑波ではなにをされていたのですか?」


「うん? なにをって、そりゃもういろいろ」


 直前までねていた水智の顔が、得意気な顔に変わる。


「莫耶のCSIRTシーサートに所属されていたのですよね?」


「うん、そうだよ。メンバー登録されたままだから、過去形じゃないけどね」


 答えながら水智は、みつるの前に置かれた紙コップへと手を伸ばした。


「セキュリティ監視や調査がメインだから、メンバーにはセキュリティセンターの人が多かったよ。なんだ空じゃん」


 紙コップの中をのぞくと、残念そうにテーブルへ置いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る