ハンバーガー食べる新井さん

「ハンバーガーですか………。まあ、仕方ないですね」


依然として、体作りを厳命されている奴が、休みの日にハンバーガー?


と、宮森ちゃんは言いたいのだろうが、他に寄れるところもなさそうなので、 彼女は仕方なくそのハンバーガーショップのドライブスルーゾーンへとハンドルを切った。



「ねえ。こういうのって経費で落ちるの?」


一応聞いてみた。


今日は、ゲーム会社からの正式なオファーを、球団が2つ返事了承したせいで。


特別フラグが立ちそうもない小うるさいだけのぺーぺー広報と移動日の月曜日を共にしているのだから、途中の食事代は球団が払ってくれるのだろうかと、念のため球団本部側の人間に聞いてみた所存である。


「どうなんでしょうね。私も今日みたいなのは初めてで、どこかの定食屋さんとかお蕎麦屋さんとかなら間違いなく領収書切れますけど………。ファストフードはさすがに……。チーズバーガーとコーラの領収書を経理部に持っていったら、それは意識が低いぞと怒られそうですけど。


とはいえ、他の皆さんが休んでいる中、新井さんはこうしてお仕事しているんですから、大丈夫でしょう。これからもたくさんヒットを打ってくれれば、誰も文句は言いません」


宮森ちゃんは、前の車に合わせてゆっくりとアクセルを踏みながら、そう答えた。




まあ、そーよねー。プロ野球選手がハンバーガー食べたんで経費で落として下さいって言ったら怒られるよね。


逆の立場だったら、俺も怒っちゃいますわ。



でも、普段から軽度ながらも食事制限をしていると、たまの休みにはハンバーガーだの、フライドチキンだのカップラーメンなんかを食べたくなるものだ。



俺はそう自分を正当化しながら、ケツポッケに入れていた二つ折りの財布を取り出し、みのりん………じゃねえや。


宮森ちゃんに1000円札をとりあえず2枚差し出した。


「ここは俺が払っておくから、宮森ちゃんも好きなの頼んで」


「いえいえ! そんな!今日は新井さんにお願いして撮影に行ってもらってるのに!」


宮森ちゃんがピンと背中を伸ばすようにして断る。


「だって、宮森ちゃんだって、本当は今日休みだったんでしょ? それこそ休み返上で働いているのは、宮森ちゃんの方なんだから」


「そんな気を使わなくても大丈夫ですよ、私なんて。………ほら! さっき美味しい焼肉弁当頂きましたから、お腹いっぱ………」


そう言っている途中に………。



ぐ〜………。



お約束な展開が訪れる。


「どこがお腹いっぱいなんだよ。お腹の怪獣が鳴いてるぞ」



「あら、これはお恥ずかしいですね。とりあえず私はメガてりやきバーガーと……」


こうなると宮森ちゃんは素早く態度を切り替え、俺が出したお金をしっかり受け取り、ウィーンとドアウインドウを下ろした。






翌日。


火曜日の今日は、ホームのビクトリーズスタジアムで北海道フライヤーズを迎えての2連戦が始まる。


昨日はなんやかんやありましたけども。


ここ6試合ノーヒット。24打席ほどヒットの出ていない俺は、さすがにまずいと思い、早めにスタジアム入りして、室内練習場でマシン相手にバットを振り込んでいた。


そんな俺の行動は、打撃コーチに筒抜けだったようで、他の選手は誰もいない室内練習場でコーチと2人きりだ。


ボンッ! と破裂するような音がして、マシンからボールが飛んで来る。


設定した通りの真ん中低めの130キロほどのボール。


俺はそのボールをきっちりと引き付けて、右方向へと打ち返す。


ボールを呼び込む際のバットの位置。足の上げ幅。スイングの軌道。


入念にチェックしながら、右方向のネットに向かって飛ぶボールを最後まで確認する。



カアンッ!


セカンドの頭の上を越えていきそうなライナー。



それを見たコーチが手を叩く。


「今のはいいぞ。しっかり腰が回って、頭が後ろに残っていたな。さっき打ち上げたのは、上半身がボールを迎えに行っていたからな。そこは気をつけろ」


コーチの言葉を一応耳に入れながら、50球70球100球と、今日こそはヒットが出るように、黙々とマシンのボールを打ち返した。





「2番、レフト、新井」


1回ウラ、北関東ビクトリーズの攻撃。


1番の柴ちゃんはあえなく三振に倒れ、1アウトで2番の俺。



俺は試合前の打ち込みで得た感覚を思い起こしながら、まずは大事に打席に入る。


相手ピッチャーは外国人助っ人マン。右のオーバーハンド。150キロオーバーのまっすぐに、ツーシーム系のボールとナックルカーブがメインの持ち球。


191センチの高さを生かして、マウンド上から投げ下ろすようにどんどん速いボールを投げ込んでくる。


しかし、コントロールはわりとアバウトなタイプで、真ん中付近に2球来たのだが、どちらも球威に押される形でファウルボール。


なかなか最初の打席ではタイミングを合わしきれない。


2ナッシングと追い込まれたところで、3球目はアウトコースのナックルカーブ。


これもストライクゾーンをちょうど半分に割るような甘めのコースだったのだが、俺の振り出したバットはボールの上っ面を叩き、平凡なセカンドゴロになってしまった。


俺はアウトになりながら1塁を駆け抜けて、がっかりしながらLEDビジョンのリプレイを見る。


写し出された俺は、ナックルカーブの軌道に合わせるようにして、上半身が明らかに突っ込んでいた。ボールを迎えにいってしまっている。


打つ瞬間には顔が地面を向いているようにブレッブレのスイング。せっかくのイケメンフェイスも台無し。


これじゃ打てるはずがない。




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