ノーノーを阻止する新井さん

「さあ、試合はこれから6回裏北関東ビクトリーズの攻撃です………。札幌、仙台の北日本遠征6連戦から、1日移動日を挟みまして、フランチャイズであります宇都宮に帰ってきました我らビクトリーズですが、今日は打線に元気がありません。


埼玉ブルーライトレオンズ先発左腕、桜池の前に5回を終わっていまだノーヒット。出塁は初回、新井が選んだフォアボールのみと、完全に抑え込まれています」



「前の対戦でいいピッチングをした桜池がビクトリーズ相手に負け投手になりましたからね。今日は気合いが違いますよ。ストレートは走っていますし、コントロールもいいです。これはなかなか攻略するのは難しいですねえ」




「カウント2ストライクから打ちましたが、詰まった打球、セカンド豊田が掴みました。1番バッター柴崎が倒れまして、この回もあっという間に2アウトです」



「2番、レフト、新井」




「そしてバッターボックスには新井が入ります。1打席目はフォアボール。2打席目はいい当たりのショートゴロでした」



「前の対戦もそうでしたが、唯一新井だけですねえ、タイミングが合っているのは。ここで1本出ないようだと、本当にノーヒットノーランされますよ」





非常に空気が重くるしい。


相手は埼玉のエース左腕。一応は前回対戦で勝利した相手だが、今日は目の色が違う。まあその前回対戦も1点しか取れなかったけど。


軽く150キロを越えるストレートでグイグイ押し、決め球はキレ味鋭いスライダー。


そして時には、カーブやチェンジアップで目先を変えながら、きっちりとストライクを取ってくる。


ピッチングに隙がない。12球団1と言われるうちの貧打線では、ここまでノーヒットなのが必然的である展開だ。



しかし、それでもなんとかしなければならない。


このまま唇を噛みながら、相手ピッチャーの躍動を許すわけにはいかない。


俺はそんな感情でゆっくりとバッターボックスに向かい、今日までの2打席の結果を思い出す。


1打席目はフォアボール。


初回の立ち上がり、相手ピッチャーはだいぶ球が上ずっていたが、コントロールが定まっていないというよりかは、なんだか俺を意識しているように見えた。


恐らくはインコースに構えられたボールが高めに外れ、外の低めにコントロールしようとした変化球が2球ワンバウンド。他のバッターの時には見られない少し力んだピッチング。


あっさりフォアボールをもらったのだ。



そして2打席目。以前にギャル美も初球をヒットにしないとうるさかったので、その初球を打ってやった。


低めのストレートだった。


打順一回りを完璧に抑えていた相手ピッチャーが、2番の俺相手に下手に変化球から入るとは思えなかった。


読み通りきたストレートをバットの芯で叩けたが、打球はショートの正面。


しかし、悪い当たりではなかったのだ。





アウトになったとはいえ、初球のストレートをいきなりカツーンと打ち返されてたら、次の打席は変化球勝負とはいかないまでも、変化球から入って様子を見るのが定石だろう。


スライダーは決め球に使いたいはずだから、今日はカウント球としても使えているカーブかチェンジアップがくるはすだ。


「新井が打席に入りました。……ここで埼玉守備陣が全体的に右へと守備位置を変えていますね。セカンドが1、2塁間の真ん中、ショートが2塁ベースの少し左。ライト、センターも右寄りです」


「まあ、新井君は徹底して右方向に打ってきますからねえ。そろそろ相手もそういう守り方をしてきますよ。これからさらに活躍しようとしたら、こういう場面でどういうバッティングをするかですねえ」



「ビクトリーズ打線はいまだノーヒット。ルーキーのバットから突破口を開くことが出来るでしょうか。…………振りかぶって第1球、投げました! ………打った、ピッチャーの足元だ!


ショートが2塁ベースに寄っているが……飛び付いて………取れない!センター…前に抜けていきます!ようやく……ようやく、ビクトリーズ、チーム初ヒットです!2番ルーキー新井のセンター前ヒット!」



「いやー、いいバッティングですねえ」

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