ススキノに行けない新井さん1

最後に人工芝にぶつけた足は痛かったが、試合には勝ったから、よっしゃよっしゃ。夜の札幌を楽しむぜいと、帰ったホテルから外出しようとしたところで、広報の宮森ちゃんが立ちふさがった。



「試合が終わった直後はあんなに痛がっていたじゃないでしょう?何か大怪我をしていたらどうするんですか!?そんな状態で外に遊びに行くなんて私が許しません!野球選手としての自覚というものを持って下さい!」


彼女は両手を腰に当てて、まるで俺の保護者かのような態度と口調で俺の前に立ちはだかる。


こう言っては少し悪いが、どうしてチームスタッフの一員に過ぎない彼女に、今日の試合の殊勲者である俺のプライベートな外出を制限されるのか理解出来ない。


彼女はコンディショニングコーチとか、チームマネージャーの立場ならば、まあ渋々承諾するが。



どうやら様子を伺うと、監督やコーチから俺を目付するように言われているようで。



俺を外出させないのはもちろん、飯行って風呂行ったら、トレーナーに患部を見てもらいながらストレッチを行うなんて予定が勝手に立てられているようで。


どこかすら知らん大卒のぽっと出の小娘が何をでしゃばってんだと、俺からすればそんな感じだ。


「とにかく、今日の外出は許可しません。どうせあなたはドラフト10位のルーキーなんですから、大人しくホテルで休んで下さい。明日からは、東北との3連戦ですよ!!」


ドラフトの順位は関係ないやろがい!




なんやねん。ドラフト1位や2位だったら、外出してええんかい!


ほんなら、いってもうたろかい!


そんな気迫を見せても、彼女の首は縦には動かず、俺を睨み付けただけだった。


別にさ、ススキノ行くからって、いかがわしいお店に行くわけじゃないのよ。キャバクラとかも行かないし、多分お酒も飲むつもりもなかった。


ただ、北海道なんて初めてだったから、みのりんとか、3人娘にちょっとお土産買って、美味しい味噌ラーメンを食べたらすぐ帰ってこようとしただけなのに。


まるで俺がソープにでも行くかのトーンでストップかけてくるから、名前も知らないこの子は。


だったらそのかわり、今晩はお姉ちゃんがたっぷりと俺の相手してくれや。


そう俺は切り出した。


すると彼女は………。


「分かりました! そこまで言うなら仕方ありませんね! でも、お腹すいたんで、とりあえずご飯食べに行きましょう!」


彼女はそう言って、俺の腕をぐいぐい引っ張って、レストランに向かって歩き出した。







昨日、一昨日と同じように、ホテルのレストランはバイキングスタイルだが、何故だか当たり前のように彼女はだいぶヘルシーな料理を俺のお盆に乗せていく。


魚料理や煮物。サラダ、玄米ご飯と。


逆にレストランに失礼なんじゃないかと思ってしまうくらいのチョイスで俺のお盆はいっぱいになってしまう。


それに引き換え。


「これとー、これとー。私、これも食べます」


豚カツや青椒肉絲とか。餃子とか。


俺だって脂っこいのを腹いっぱい食べたいのに。


まあそうは言っても、まだまだぷよぷよお腹の俺が偉そうに言える立場ではないが。


「新井さん、あそこに座りますよ」


彼女に案内されるまま、適当なテーブルに着いて食事を始める。


よほどお腹がすいていたのか、すごい勢いでバクバクと料理を平らげていく。


飯が食えるならたくさん食った方がいいさ。



「やっぱりここの料理はおいしーですね、新井さん!」


「そうだね」



ちくしょう、ススキノ大作戦が………。

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