ヒーローインタビューをしたい新井さん7
「状況変わりました。1アウト1塁となりまして、打順はトップに返りましてルーキーの柴崎に回ります。ここまで4打数1安打です。なんとか繋いで、2番新井、3番阿久津というバッターに回したいところですが……ここは俊足が武器の柴崎です。1点取ればサヨナラです。送りバント、はたまたセーフティバントはあるでしょうか」
「バントするなら、ノーアウトの浜出君ところだったでしょうからねえ。強行で一気にチャンスを広げたいところだったですから、1アウトからの送りバントはやらないでしょうね。本人の判断でセーフティなら早いカウントでやるかもしれませんが」
柴ちゃんがゆっくりとバッターボックスに向かい、3塁コーチャーからのサインを見る。
萩山監督は、俺にサヨナラの夢を託して柴ちゃんに送りバントのサインを出してくれないかなと思ったが、普通にノーサインだった。
そのノーサインを確認した柴ちゃんがバッターボックスに入る。
足場をならしてバットの先を見つめて、グリップいっぱいに握って、構える。
そして、球種のサイン交換を終えたピッチャーがセットポジションに入り、投球モーションに入る。
ピッチャーが大きく足を踏み込んで、ボールをリリースすると、なんと柴ちゃんがバントの構え。
そのままコツンと3塁線にバントをした。
「あっと! 柴崎が3塁線へバントをしました! セーフティ気味!いいところに転がった!サードが前進して、2塁は見ただけ。1塁へ送球、アウトになりました。柴崎、送りバント成功で2アウトランナー2塁に変わります」
「バントしてきましねえ。ベンチからのサインではないと思いますが………」
柴ちゃま!なんてこと。バントのサインなんて出ていなかったのに。自分の判断でコツンとやってランナーを進めるなんて。
強引に打ってしょーもないポップフライをあげるんだろうなと思っていたから。
少し唖然としていた俺に向かって、ベンチに戻りながらの柴ちゃまは、突き出した左の拳を見せる。
まるで、新井さんがサヨナラを決めて下さいよと言わんばかりに微笑みながら、駆け足でベンチに戻っていった。
うわあ、マジか。柴ちゃまは俺にこの場面を託したということか。
思わず涙が出そうになった。こんなこと始めてだから。ぎゅっと目を瞑りながら、打席に向かう。
「2番、レフト、新井時人!!」
「「ワワァァーー!!!」」
俺の名前がコールされると、スタンドが沸き、歓声が上がる。
バッターボックスに入り、ふと見た1塁側のスタンド。北関東ビクトリーズのチームカラーであるピンク色に染まったスタンドが、俺を見つめている。
胸が高揚し、体が沸き立つ感覚が握ったバットに伝わっていく気がした。
「2アウト2塁で、打席には2番の新井が入ります。ここまで今シーズンの打率が20打数13安打。打率は驚異の6割5分。得点圏打率は2打数2安打というバッターボックスの新井です」
「スカイスターズとしては新井を敬遠して、1、2塁と守りやすくしたいですけどねえ。バッターがルーキーの新井ですからねえ。首位を走るチームが、最下位チームのドラフト10位のルーキーを敬遠出来ますかね」
まさか敬遠なんてしないよねえ。
スカイスターズさんよ。
俺はそう思って半ば半信半疑で打席に入り初球を様子見た。
「……ボール!!」
ボール球であったが、アウトコースいっぱいのストレートだった。
恐らく、アウトコースのボールは俺の好きなところというデータくらいはそろそろ相手チームにもあり、その付近のボール球で誘いきたんだろうが。
まだまだよ。そう簡単に俺のことが分かってたまるかね。
狙うは変化球。それをピッチャーの足元。当たりがよければセカンド、ショートの頭を越えるような打球が理想的。
そこに打球が飛べばサヨナラだ。ヒーローインタビューだ。
「2球目投げました! 打った、ピッチャー返し!」
あっ! ピッチャーゴロだ!
と、思ったが、投げ終わったピッチャーの反応が悪く、打球はピッチャーのグラブをかすめるようにしてセカンドベース上へ飛んだ。
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