やらかした柴ちゃん5

「シェパード、粘りましたが空振り三振、ゲームセット! やはり最後は得意のツーシームでした!!横浜は連敗ストップ! そして、先発の井之上は嬉しい嬉しい今シーズン初勝利です」


最後のバッターになってしまったシェパードのバットが空を切り、試合終了。その瞬間、地面ギリギリで投球を掴んだキャッチャーが右手でガッツポーズ。スタンドからも大歓声が上がった。


シェパードちゃんは、いつもの大振りスイングながら相手の守護神ピッチャー相手になんとか食らいついて、ファウルファウルで粘ってはいたものの、最後は外角低めいっぱいに沈むツーシーム。


連敗中だった横浜相手に3連戦のアタマを落としてしまった。


負けてしまったということは、今日の外出と飲酒は禁止。


ホテルから出られません。部屋でお酒も禁止です。


残念。


今日の俺は4打数2安打。本当は3安打だったようなものだけど、例外なくチームの決まりで試合で負けたらその日の外出は、例えホテルの目の前のコンビニだろうと許されない。


勝てば外出オッケー、門限はナイトゲームの時は1時までとそんな感じなのだが。


横浜だから、中華街に行ったり、飲み屋さんに行ったりしたかったのだけどね。


まあ、仕方ない今日は諦めてさっさとホテルに行きましょう。


切り替え、切り替え。





北関東 000 000 000 0


横浜  000 000 20× 2


勝 井之上1勝3敗 負 森魚 1勝1敗 S 康崎 1勝1敗11S


本塁打 なし


横浜スタジアム 27655人


横浜が連敗を4で止めた。横浜は0ー0で迎えた7回、筒薫のタイムリーツーベースと崎宮のタイムリーで2点を先制し均衡を破る。先発の井之上が7回無失点の好投でようやく今シーズン初勝利を上げた。


敗れた北関東は投手陣が踏ん張りを見せるも、2つの走塁ミスで得点機を逸すなど、先発森魚を援護出来ず、打線が繋がりを欠き、最後まで1点が遠かった。


今シーズン初勝利の井之上の談話。


「今日は全体的にコントロールがよかった。ここまでチームに迷惑を掛け続けてしまったので、これからの登板で挽回したい」



決勝タイムリーの筒薫の談話。


「なんとか1つ仕事が出来てよかった。井之上さんをなんとか楽させて上げたかったという思いだけだった」



敗れた北関東ビクトリーズ薮井監督の談話。


「今日は痛いミスがいくつか出た。ミスが多いチームが負けるのか仕方ない。せっかく森魚がいいピッチングをしていたので勝ちに繋げたかった。明日は多少打線のテコ入れをするかもしれない」








試合に負けたから、外出出来ないとはいえ、中級ホテルの美味いバイキング飯とデカイ風呂は楽しみで仕方がない。


部屋に荷物を置いてチームジャージに着替えて、メシ、メシィ!試合でも出さないスーパーダッシュ。


他のお客さんや準備するホテルの従業員やチームスタッフでガヤガヤするレストランにヘッドスライディングで突入するも、絨毯のあまり滑らない素材に俺の太ももは悲鳴を上げた。


涙目の俺ではあったが、カウンターやテーブルの上に並べられた、和洋中たくさんの料理を見て、テンションは最高潮に。



トレイ、仕切りのついたお皿を並べてたくさんある料理を吟味、とりあえず肉だな。


ステーキとー、ローストビーフとー、豚の角煮もいいねー。


油淋鶏もあるじゃない。おっ、蒸したての肉まんや小籠包もあるやん。さすが横浜。


いいね、いいね!


という感じで調子よく料理を皿に移していってたのに。


「新井さん、何をやっているんですか!そんなに肉料理ばかり取って!」


突然背後から、俺と同じビクトリーズのチームジャージを着た女性が立っていた。


赤縁の眼鏡をかけた黒いショートヘアの少し小柄な女性。


1軍に来たばかりの俺にとっては何の役割の人か、名前も知らない女性。


しかし見るからになんだか怒っている様子で、片方のほっぺたを膨らませながら、口をむっとさせて、俺の顔と皿の料理を交互に睨み付けている。

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