やらかした柴ちゃん2
人工芝の上を這うような打球が向かってくる。
俺はそれに対して出来る限りのスピードで前進していき、向かってくる打球にタイミングを合わせながら近付き、バックホームのイメージを持つ。
打球が小さく速く、ワンバウンド、ツーバウンド。
ツーバウンドの終わりで俺は左手のグローブを下に下げて、右足を前にして打球を掴んだ。
そして体を起こして送球体制に入った瞬間に、2塁ランナーが3塁を回って、ホームに突入するのが見えた。
グローブからボールを右手に持ちかえながら、左足の1ステップで素早く送球動作へ。
なるべく、ボールをしっかりと握った右腕をなるべく小さく速く回し、前進してきた勢いも上手く使って、体全体を投げ出すようにして、ボールを投げる。
ホームベースを狙って。これ以上点をやれるかと。俺の守備力だからって迷わずホームに突入しやがって。
目に物を見せてやる。そんな気持ちだった。
「ショート赤月飛び付く! 抜けたー!! 打球はレフト前へ! 3塁ランナーホームイン!2塁ランナーの筒薫は3塁を………回った、回った!
レフトの新井からバックホームだ!!! ワンバウンド、ツーバウンドでホームにボールが返ってきた! 筒薫滑り込む!キャッチャー鶴石ボールを掴んでタッチする!! 判定は…………アウトだー!」
「2塁ランナーの筒薫は本塁憤死!さらなる追加点とはなりませんでしたが、横浜この回筒薫と崎宮のタイムリーで2点を先制しました! 2ー0!ベイエトワールズが2点をリードです!」
ふーっ、なんとかなったぁ。まさか本当に俺のバックホームでアウトに出来るとは。ちょっとボールが引っ掛かってツーバウンド送球なりましたけれど。
「新井、ナイス返球!やるな!」
「なかなかいいプレーだったぞ」
「はい、どーも、どーも」
チェンジとなってグラウンドから3塁側のベンチへと戻る。
ベンチに控えていた選手がグラウンドに足を踏み入れながら、俺を誉めハイタッチをする手を差し出してくる。
そんなチームメイト達の後ろから……。
「新井」
「はい?」
「いい守備だ」
「どうも」
ヘルメットをかぶって1塁コーチャーズボックスへ向かう守備・走塁コーチのおじさんが右手の拳を俺に向かって差し出した。
何かお菓子でもくれるのかなと、下に手を広げる小ボケを挟みながらグータッチ。
1軍に来てからは何かと守備のアドバイスをくれるおじさんからしてみれば、俺が補殺を決めたことがなんとなく嬉しいのだろう。
2点は取られたが、1塁コーチャーのおじさんは少し嬉しそうにファウルグラウンドを走っていく。
そして、8回表、点を取られた直後のウチの攻撃。
9番ピッチャーから始まる打順。
そこでは代打が起用されるようだ。
うちが代打の選手を送り出すと、横浜さんも動きを見せる。勝ちパターンのセットアッパーを繰り出すようだ。
2点を追うチームとそれを守ろうとする試合終盤の攻防に突入する。
「いい当たりだ! 抜けていった!ビクトリーズ、8回表ノーアウトのランナーが出ました。代打川田のヒットです」
相手ピッチャーは、先発の井之上から、外国人助っ人のバートンがマウンドに上がった。
長身の真っ白い顔をしたアメリカ人が投げ下ろした直球を代打の川田がしぶとく食らいついてセンター前へ。
横浜ファンからはため息が漏れ、北関東ファンから歓声が上がる。
打順はトップに返って、この男である。
「1番、センター、柴崎」
「北関東の打順は1番に返って柴崎です。さあ、2点差ですから、送りバントはないでしょうか」
「柴崎はさっきの走塁がありますからね、本人もここで打って取り返したいでしょうね。つないでランナーを貯めていきたいですねえ」
柴ちゃんが左足だけをバッターボックスに入れて、3塁コーチャーのサインを確認する。
…………。
特にサインはない。
自由に打っていい場面だ。
そしてカウントは1ボール1ストライクとなり、3球目。
バートンの沈む変化球を柴ちゃんが捉える。
打球はいい当たり。しかし、セカンドの守備範囲だった。
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