スタメン勝ち取る新井さん1

「横浜ベイエトワールズ。本日の先発ピッチャーは、井之上。背番号15」


1回表、相手先発のマウンドには、右投手。日焼けした肌がいかにも2軍で頑張ってきました感がある投手。


今日の試合からまた先発投手としてチャンスが与えられた長身の男がマウンドに上がった。




「6位北関東ビクトリーズとの3連戦。その初戦のマウンドに井之上が上がりました。ここまで今シーズンは4試合に登板して、0勝3敗。防御率も5点台。4月21日。北海道戦で3回途中6失点で降板して以来の先発マウンド。先週の2軍戦であります、北関東戦で5回無失点と好投しています」



「まあ、2軍のビクトリーズとはいえ、いいイメージがあるでしょうからね。立ち上がりからしっかり投げていきたいですね、井之上としては」





相手ピッチャーが横浜スタジアムのまっさらなマウンドに向かい、滑り止めのロージンを手に取り、足場をならす。


そして、8割くらいの力で、7球の投球練習を開始する。


俺は打席に入る準備をして、柴ちゃんと一緒にグラウンドへ出る。


「柴ちゃん。あのピッチャー、初球はストレートでくるから、それ狙っときなよ」


「え? ストレートですか?」


「ああ、あのピッチャー、コントロールはあんましよくないけど、初回の初球はだいたい甘い真っ直ぐだから。それをぶっ叩いてきて。ヒットにするなら、ツーベース以上ね。俺がバントしなくちゃいけないから」



「あははっ! 分かりました」






「1回表、北関東ビクトリーズの攻撃は、1番、センター、柴崎」


相手投手の投球練習が終わり、最後の7球目をキャッチャーが2塁へ送球し、そのボールを内野陣がボール回しする。


アナウンスされた柴ちゃんが左バッターボックスへ。


ピッチャーの様子を伺いながら、軽くスパイクの裏で左打席に足場を作り、ホームベースにバットの先を当てる。


「大事な大事な井之上の立ち上がりです。バッターボックスには、ビクトリーズの切り込み隊長、ルーキーの柴崎が入ります。ここ3試合、埼玉とのカードではヒットがありませんでした」


「やはり先頭打者ですねー。井之上は、負けた3試合はとにかく回の先頭打者を打ち取れなかったですから、なにがなんでもアウトにしないとね。変化球でもいいんで、ストライク先行しつつ、慎重に入りたいですね」



バッターの柴ちゃんは最近ヒットが出ていない。開幕したてでがむしゃらにプレーしてた頃は、積極的にいいバッティングしてんだけどなあ。


今はこうしっかりボールを見極めて、しっかりボールを見極めて、みたいに大事にやりすぎているんですよ。


そんなんじゃダメ。


うちはダントツの最下位なんだから。そんな消極的な思考じゃダメよ。


もっと前向きにいかないと。




「ゆっくり大きく振りかぶって、井之上、第1球目を投げました!」


相手ピッチャーがこれ以上ないくらいのオーバースローで腕を振り下ろす。


角度のついた真っ白のボールがスーッとホームベースに向かう。


高さはベルト、コースは真ん中。振ればもうヒットになるような甘いボールに見えたネクスト視点。


そして次の瞬間にはキャッチャーミットにボールが収まる音が聞こえた。


「ストライーク!」


そして審判の決めポーズが炸裂。


それを見て、思わず持っていたバットを投げ出しそうになった。


だから言ったじゃんて。


ストレート来るって言ったじゃん。あなた、分かりましたって言ったじゃん。


どうして打たないのよ。1、2、の3で打ったら長打になりそうなくらい甘いボールだったじゃないの。


と思ったら…………。


「2球目なげました。…………低めワンバウンド。………ハーフスイング。………キャッチャーが3塁の塁審にリクエスト。………スイングを取りました! これで2ストライク」


あー。どうしてそんなボールを振ってしまうのよ、柴ちゃん。ストライクを見逃して、ボール球を振っちゃうなんて。ピッチャーを助けてどうすんのよ。


と思ったら………。



「ボール!」




「ボール」




「ボール」




「ボール!!」




結果フォアボールだったね。

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