消えゆく咲の敵
あの日以来、翔は怪しいと思われる女を次々と罠に落としていった。
それ故(ゆえ)、密かに噂は広まっていた。
無論、翔本人の耳にも嫌でも入って来る。
けれど、翔は何一つ動じる事はなかった。
咲は突然泉に「ねぇ、赤井君何やってるの?変な噂立ってるよ?」と言われたが、咲が知る由もなかった。
「何が?噂ってなぁに?」
「咲は知らないかぁ~。ま、当たり前だとは思うけどさ。このままだと赤井君退学になっちゃうかもよ?」
「えっ?退学?」
退学と聞いて、咲は今翔が大変な事をしているのではないか、と、不安になった。
あの日。
翔君とその友達は、一体何の相談をしていたのだろう?
そして、それは全て咲を守る為なのだ。
咲が責任を感じない筈がない。
「あたし、翔君のとこ行って来る」
「えっ、ち、ちょっと待ちなよ、咲。ひとりじゃ危ないよ」
教室を飛び出す寸前で、翔が咲の教室に入って来た。
「いたっ……翔君……?」
「あ~、ちょうど良かったよ赤井君。もう少しで咲ひとりで教室飛び出すとこだったんだ」
泉が叫んだ。
「咲?何をそんなに慌ててるの?」
「翔君が退学になるかも知れないって泉が言うから、あたし何があったのかと思って……」
「その事かぁ、大丈夫だよ。別に俺は何もやってないからね。まぁ、俺と関係のある女が何かの事件に巻き込まれたんだろ?」
「え?翔君知ってるの?」
「そりゃあ自分の事だし、こうなる予想もついてたしね」
「だ、大丈夫なの?退学になったりしない?」咲は不安で仕方なかった。
「言ったろ?俺は何もしてない。被害者とたまたま知り合いだっただけだって」
そう言って翔はにっこり笑った。
その翔の余裕の笑みを見て咲は気付いた。
そうか!だからあの時みんなは任せろって言ってたんだね。
こうなる事も全部計算通りだったんだ。
でも……。
翔君今確かに『被害者』って言ったよ。
「ねぇ、翔君、被害者って言ってたけど何の被害者なの?」
「えっ?さ、さぁ……?俺はそこまでは知らないんだ」
その翔の様子を見ていた泉はピン!と来た。
成る程……。
この連続暴行事件の裏には赤井君が係わってるって訳だね。
さすが赤井君。
伊達(だて)に市内で番を張ってた訳じゃないんだね。
咲を守る為ならそこまでするんだ。
でもこの真実を咲が知ったら、驚くだけじゃ済まない気がするけどな。
しかし……。
敵に回したら怖い人だね、赤井君。
でも、あたしは咲を守ってくれればそれでいいよ。
「咲、赤井君も困ってるじゃん。きっと赤井君は関係ないんだと思うよ?」
「へ?泉随分翔君の肩持つんだね?そんな泉初めて見たよ」
「そりゃあ赤井君は約束通りに咲を守ってくれてる訳だし。赤井君なら、安心して咲を頼めるからね」
「ほら、泉先輩もああ言ってる事だし、間違っても俺が退学、なんて事にはならないよ」
「本当……?」
咲は納得いかない様子で、翔の顔を覗き込む。
「何?俺が信じられない?」
「そんな事はないけど、でも何かしっくり来ないなぁ」
翔はそんな咲の様子を見て、泉に視線を合わせた。
成る程、助け舟を出せ、って訳か。
「咲、好きになった人は信じるものだよ。例え何があってもね」
泉に言われて咲は考える。
「そりゃああたしも翔君の事は信じてるけど、退学なんて噂が広まるなんてよっぽどの事だから……怖くて」
「あぁ、それが心配なんだね。大丈夫、俺はここは絶対に退学にならないんだよ、咲」
翔のその自信はどこから来るのか、咲には理解出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます