終わったゲーム世界で、今日も俺達は生き返る
猫田猫丸
始まりの死
「貴方の来世はゲームの世界です」
「……は?」
突如、俺の目の前に現れた謎の美女が、そういった。
「貴方の来世は、だいぶ前にサービスの終了した、オープンワールド型MMOの世界です」
「あ、いや、詳しく知りたかったわけではなくて、ですね、来世ってなんの事ですかって、疑問なのですが。そもそも今生が終わった覚えもないですし。いや、それ以前に、ここはどこで、あなたはどなたですか? さっきまで自宅でゲームをしていた、お…僕は何故ここに?」
問いかけながら、視線を周囲にめぐらす。
そこはカウンターを挟んで座っている女性と、プライバシー保護のためと思われる左右の衝立があり、どこかの受付カウンターに思えた。
もっとも、先が見えない所まで、ず~とカウンターが続いているし、それ以外は白く霞んだ空間なので、明らかに普通の空間ではないと思える。
そして女性の後ろには、こちらに背を向けて座る犬と、その対面に座る犬。
…犬?
俺は目を擦り、犬っぽいものを見る。
うん、間違いなく犬…だな?
二匹の犬が、椅子に座り話をしているように見える。
改めて周囲を見回せば、衝立の隙間から様々な動物の一部が見えた。
「ここは、…閻魔様が…の数が多くなってから……です」
「え? あ、す、すみません。ちょっと周囲に気を取られていて……」
俺が犬やら何やらに気を取られている間に、女性が何かの説明をしてくれていたようだ。
「ここは、死後の世界の転生受付所、昔は閻魔様がお一人で、対応されていましたが、死者の数が多くなってからは、このように多数の窓口を設けて、対応しています。死者は人に限らず全ての生物が、この場所で転生の手続きを行います。私は、貴方の担当になりました鈴木です」
目の前の女性は、話を聞いていなかった俺に怒るわけでもなく、淡々と説明をしてくれた。
…怒っていないというより、無表情と言った方が正しい気もするけど。
というか。
「鈴木さん?」
「はい、鈴木です。人間で最初の死者であらせる閻魔大王様と違い、私が死した時代には、誰にでも苗字がありました。そして、私は役職付きという訳でもありませんので、普通に苗字を名乗っています」
「なるほど……言われてみれば確かに。ところで死者というのは天国や地獄へ行くか、記憶をすべて失い輪廻転生するものでは無いのですか?」
「一般的にはその通りですが、絶対にそうなるという訳ではありません。貴方の場合はお名前が私の琴線に触れましたので。昔から『名は体を表す』と言いますでしょう」
「…もしかして、馬鹿にされています?」
しかもアンタの私的判断かよ。
職権乱用じゃねえか、上司の閻魔は何やっているんだよ。
「嫌でしたら八大地獄巡りの刑にしましょうか。それとも問題のある亡者として、今この場で滅される事を望みますか。私の裁量でどちらも可能ですよ」
「……是非転生でお願いします」
怖い、地獄怖い。人の常識なんて全く通用しないよ。
「そうですか、では話を続けます。世界航(せかいわたる)さんには、異世界に渡っていただきます」
『ボソ(つまン)』
「地ご」
「転生楽しみです!」
「…まあ良いでしょう」
横暴す…いえ、何でもありません。
「あの、僕の死因を教えていただいても良いですか」
「貴方はゲームのために2日連続徹夜したあと、階段を踏み外して首の骨を折って、亡くなりました」
「それはちょっと恥ずかしい…」
「大丈夫です、世界を見れば貴方以外にも、ゲームを長時間しすぎて過労死したケースや、エコノミー症候群で死亡したケースもあります。貴方だけではないので、安心してください。まあ貴方と違って、ご両親やご兄妹は周囲からの視線もあって、大分恥ずかしい思いをされていますけどね」
「ぐはっ」
父さん母さん兄さん妹よ、馬鹿な死に方でごめん。
「……それでは、ゲーム世界とは?」
「地球は生物が増えすぎて、魂の数が飽和に達しようとしています。ですから、増え過ぎた魂を異世界に送り込もうかと。暫く前に、運営が破綻して破棄されたオープンワールド型のゲームがありましたので、利用するのにちょうどよかったのです」
「ゲーム世界が現実になるのですか?」
「ゲームであろうと、小説であろうと、そこにつぎ込まれたエネルギーが、一定水準に達せば、現実の異世界として成立します。現実ですから、ゲーム的すぎる要素は薄くなっていますが、地球とは違う生態系や、魔法などは残るでしょう。貴方はゲーム好きですから、これはもう転生する以外ありませんよね」
「え、そんな理由で」
「不満ですか?」
鈴木さんが鋭い視線を向けてくる。
気温が一気に下がった気がして、歓喜じゃなくて寒気に身震いする。
「い、いえ、転生が良いです。ゲーム世界最高、異世界転生も男子の夢ですよね」
「…まあいいでしょう。納得いただけたようですので、転生していただきます。貴方はゲーム内にある、全てのスキルと魔法を習得可能です。加えて特別なスキルをさしあげますから、異世界のために頑張ってください。おまけとして、貴方だけは自動で蘇生可能にしてあげます。老衰の場合は無理ですけどね。では、話すことも話しましたので、速やかに転生してください」
そう言って立ち上がった鈴木さんが、巨大なハンマーを振りかぶる。
「え、何それ。ちょっとまって」
「では、良き来世を」
「まって~~~」
俺の制止もどこ吹く風、無情にもハンマーが俺の脳天に振り下ろされる。
魂の叫びもむなしく、俺は名も知らぬゲーム世界に転生する事になった。
俺がやっていたゲームは、ストラテジーゲームで、モン狩るみたいな剣や魔法を使うのや、オープンワールドとかじゃなかったのに……。
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