第245話 三つまとめて

 直接表現はありませんが、犯罪描写があります。苦手な方は即バック。


***************


 縛り上げた有象無象は邪魔なので、一箇所にまとめて結界を張り、逃げられないようにしておいた。


 ついでに泣きわめく声が大きいので、遮音結界も張ってある。見えない壁に阻まれて、口をパクパクさせているむさ苦しい男共。なかなかシュールだわ。


「あれ、あのままでいいの?」

「平気。一日くらいなら、離れても消えないし」


 念入りに張ったからね。さて、村に入ってみましょうか。




 カストルによると、男は全員こっちに来ていたらしく、漁村には女性しかいないってさ。


「ですが、こちらにも指名手配犯がおりますので、ご注意ください。特に男性陣は」


 最後の一言で、どういう罪を犯したかわかった気がする。そして、どんな攻撃を仕掛けてくるかも。


 ここはやはり、私が前に出ましょう!


「こら、何でお前が前に出る?」

「後ろにいろって」

「こういうのは、我々に任せておけ」


 ルイ兄、ロイド兄ちゃん、ヴィル様、三人とも、疑いたくないけど、色仕掛けしてくる女を見たいとか、そういう事じゃないよね?


 ジト目で見ていたら、三人仲良く首を傾げてるよ。この脳筋共め。


 カストルは意味がわかっているようで、笑っている。


「大丈夫ですよ。手練手管で男を籠絡するようですが、魅了系の術が使える訳ではありませんし、薬物使用もないようです」


 つまり、欲がなければ負けないと?


「余所の男性ならどうかはわかりませんが、こちらの方々ですと、さすがの百戦錬磨の女とて、白旗を揚げるでしょうよ」


 ……褒められているのか、貶されているか、微妙な評価だな、それ。


「要は、この三人は鈍い、という事?」

「レラ……」

「その評価は酷い」

「お前は我々を何だと思ってるんだ?」

「え? 脳筋」


 それ以外にないでしょうが。あ、ユーインは疑っていない。彼は腕輪で押さえているとはいえ、相手の感情が混ざり込んだ魔力を匂いで感知する人だから。


 こっちを欺そうとしている相手なんて、臭くて近寄りたくもないってさ。 あーだこーだ言い合ったけど、三人が意見を取り下げない為、リラが割って入る事になった。


「ともかく、あんたは後ろ! もし間違って男性陣が魅了されたら、後ろからぶったたいて正気に戻せばいいでしょ?」

「なるほど」


 このやり取りに、ルイ兄とロイド兄ちゃんが噴き出した。


「ヴィルの嫁は、なかなかのやり手だな」

「そうですね。これなら、アスプザットも安泰だ」

「いや、家を継ぐのはロクスだからな? 忘れるなよ?」


 ロイド兄ちゃんの言葉に反論するヴィル様が、ちょっと弱々しく感じるのは、気のせいかな?


 まあ、今から尻に敷かれておくといいと思うよ。




 漁村の中は、閑散としている。人影がないね。


「家に籠もってますね。声を掛けますか?」


 さすがに家を壊す訳にはいかないもんね。


「カストル、指名手配の女性の居場所、わかる?」

「奥の一番大きな家に、集まってますよ」

「んじゃ、そこに行こう」


 村の奥、ちょうど門とは反対側の位置にある高台にある家。そこに、指名手配の女性達がいるらしい。


「かんぬきかけられてたら、どうしよう?」

「扉を破壊しますか?」

「いや、そこはかんぬきだけにしようよ!」


 ちょっと! ヴィル様達は何でカストルの意見に頷いているの!?


「手っ取り早くていいじゃないか」

「レラの執事は有能だなあ」

「大きさはあるが、ボロ屋だな。いっそ壊すか?」


 この脳筋共。どうしてくれようかと思っていたら、背後のリラがぽつりとこぼす。


「……あんたの根っこを見た気がするわ」

「それどういう意味!?」

「だって、ああいう中で育ったんでしょ? 環境って大事よね」


 否定出来ないいいいいいい。


 家の前であれこれ言っていたのが聞こえたのか、中にいた女性達が外に出て来た。


「あらあ、いい男達じゃなあい」

「お兄さん達がここにいるって事は、ザヤーさん達、負けちゃったのー?」

「だらしないわねえ」


 出てきた女性は五人。それぞれ、露出高めな服を着ている。それ、昼日中から着るのはどうかと思うよ? 完全に夜の装いだし。


 にしても、どんな妖艶な美女が出てくるのかとちょっと期待していたのになあ。


「シーラ様しか勝たん」

「ジルベイラ様もなかなか」

「だよねー」


 知ってるうちの、二大お色気美人の名前を出してみました。あ、ヴィル様達がちょっと複雑そう。


 ヴィル様にとっては母親だし、ルイ兄にとっては義理の叔母、ロイド兄ちゃんにとっては元本家のお嬢様だ。


 ジルベイラの場合は、小さい頃から知っている、親戚のお姉さん、ってところ? ともかく、あの二人に比べると、目の前の女性達は色気も美貌も足りていない。それに、品もないしなあ。


「主様、どうしますか?」

「賞金がかかってるなら、捕縛。後に外に転がしている連中と一緒に王都へ売り飛ばす」


 あ、間違えた。突き出すだ。でも、身柄と引き換えに賞金がもらえるんだから、売り飛ばすと言っても間違ってはいないと思うんだ。


 私の言葉に不利を悟ったのか、女性達はこちらの男性陣にすり寄ろうとした。


「ちょ、ちょっとお、何怖い事言ってるのよ」

「私達、悪い事なんてしていないのよ?」

「あの怖い盗賊達に、囚われていたんだから」


 嘘だな。家から出て来た時は、自信満々だったじゃない。あの山猿達が負けても、自分達が男共をたらし込んで逃げられるとでも思ってたんでしょうよ。


 だが残念だったな! 普段から極上の美と色気を見ているから、四人のうち三人は耐性があるのだよ。


 ユーインの場合は、嗅覚がね。カストルに関しては、人間じゃないのでノーカンです。


「主様、最近、我々の扱いが酷くはありませんか?」


 気のせいだよ。




 色仕掛けが通用しない相手にはお手上げらしく、女達はおとなしく縄で縛られていた。


 さて、他にも捕まえないといけないような連中、いるのかな?


「少なくとも、指名手配犯はいません」


 ふむ。なら。


「ここに、あなた達以外で罪を犯した女性はいるかしら?」


 縛られた女性のうち、一人に自白魔法を使う。


「他の……女達は、普通の女達よ。元々この村にいた子や、余所から連れてこられた子達だから」


 何か、今とんでもないワードが出てこなかった?


「連れてこられたって、どこから?」

「知らない……多分、近隣の村からじゃないかと思うわ……」


 大変だ。カストルが村を見回し、少ししてから口を開く。


「……漁村の半数の女性が、連れ去りの被害者です」


 ぎゃー。あの山猿共、何て事しやがる!!


 結局、漁村の家に立てこもっていた女性達全員に出て来てもらい、名前と出身などを聞いた。


 カストルが言っていたように、半数はこの村出身ではなく、隣領の村などから攫われてきたという。


 幸い……と言っていいのか、全員自分の出身地は言えたので、後日実家に返すと告げると、全員が暗い表情に。


 これ、戻ってもろくな事にならないパターンか……


 攫われてここに連れてこられた理由は、身代金目的ではない。そういう理由で攫われた女性は、実家に戻っても嫁ぎ先もなく、生きて行くのが難しいそうだ。


 売られた訳ではないけれど、親ともぎくしゃくするだろうしなあ。


「なら、ここに残って働く? 怖い連中はもういないから」

「で、でも、働くって、何をすれば……」

「実はね」


 これからやろうと思っている事を、簡単に説明する。彼女達にやってほしいのは、日々の記録と出荷の手続きだ。


「今は聞いてもぴんとこないと思うけど、実際に始まればわかると思う。まだ始めるまで時間はあるから、とりあえずお勉強からやってみない?」


 女性達の顔が、明るくなってきた。




 詳しい説明はまた後日として、当面必要な物資を聞き取りする。これはリラに任せた。


「さて、では残りの二つの漁村も、見ておきましょうか」

「そっちにも盗賊がいたら厄介だしな」

「いっそ賞金首がもう少し増えてもいいんじゃないかと」

「ルイ、ロイド、あまり気負いすぎるなよ。腕が鈍るぞ」


 またこの三人は。そういや、今は冬。魔の森にも雪が降る頃だ。この時期、あまり奥まで行けないんだよなあ。


 だからか? 力が有り余っているんだな!? この脳筋共め。


「二つの漁村には、ここからの道がありません。将来的に造るとして、今回は海上から向かうしか手はありませんね」


 船かあ。小さいと揺れるんだよね。乗り物酔いはあまりしない方だけど、船の揺れは独特だからなー。


「問題ありません。魔法で浮かせればいいのです」


 ああ、なるほど。


 とはいえ、既に夕暮れ時。これから余所の漁村まで行くってのもなあ。


 一応、何があってもいいように、人数分の宿泊セットは持ってきてるけど。


 村の外に、縛り上げた男達を転がしたままなんだよなあ。これに、女五人も加えるでしょ?


「カストル、賞金首だけ、王都に運搬したいんだけど」

「それでしたら、先にポルックスを王都邸に送りましょう。彼に説明を任せて、受け入れ態勢を取ってもらいます」

「よろしく」


 いやあ、有能執事がいると、便利だねえ。


 ポルックスはすぐに行動してくれて、あっという間に受け入れ態勢を整えてくれた。


 後は、こちらから移動陣で送るだけ。あれこれ見られるのも嫌なので、捕縛した連中は全員催眠光線で眠らせた。


「賞金首は王都で、残りはデュバルへ送ればいいんだね」

「はい。後ほど調き……教育を施してから、現場に入れますので」


 今、調教って言わなかった? 大丈夫?


 ともかく、犯罪者共は全て片付けた。残る漁村はまた明日!




 持ち込んだ宿泊セットを使い、爽やかな朝を迎えた。いやあ、これ持っておくと、本当に便利。


 しかも、魔の森で普通に使われているものより一回り大きく造った特別製だから、お風呂もシャワーだけじゃなく足が伸ばせるバスタブ付きだ。


 長旅の疲れを取るには、お風呂だよねえ。いや、振動が殆どないせいで、あんまり疲れていないけど。


 カストルが用意した朝食を食べて、船に乗って出発。ちなみに、あの朝食はデュバルの領主館から移動魔法で取り寄せたらしいよ。何でもありだな。


 港から湾を出てまずは北へ。最初に行った漁村は、三つの村のうち丁度真ん中にあったんだね。


 船は猛スピードで海上を行く。これ、モーターボートじゃね?


「速さがモーターボート……」


 あ、リラも同じ事考えてた。船体が持つといいんだけど。この船、盗賊達がいた漁村で借りてきたものなんだよ。


 移動速度が速かったからか、あっという間に隣の漁村に到着した。


「こちらにも、盗賊がいますね。特に指名手配はされていないようです」

「なら、生かしたまま捕縛して強制労働コースで」

「承知いたしました」


 今回、ヴィル様達は出番がないかもね。




 そんな考えがフラグになるとは。


「この女の命が惜しけりゃ、ザヤーさん達を解放しろ!!」


 ただいま、北の漁村で盗賊達と対峙しています。連中の元には女性が一人人質になっている。


 カストルによると、この漁村の網元のお嬢さんだとか。こんな小さい村なのに、いるんだ網元。


 それはともかく、人質なら助けなきゃね。面倒だから、盗賊は全員おねんねしてもらいましょう。


「食らえ! 催眠光線!」


 人質まで寝てしまうのが、玉に瑕かな。


「レラ……」

「相変わらず容赦ないな」

「あれ、いつもニエールに使ってるやつだよな? 大丈夫か?」


 別に、人体に悪影響が出るような術式じゃありませんよー。ただ、かなり強力に対象を眠らせるってだけで。


 これで盗賊を一発で無力化。あ、お嬢さんはちゃんと覚醒魔法で起こしましたよ。これは催眠光線と対になる術式のやつ。前にニエールが使ってた、危ない方じゃない。


 盗賊達が倒れた途端、周囲からは拍手喝采。どうやら、奴らに長い事苦しめられていたみたい。


「ある日、いきなりやってきて、村の男達を殺して回ったんです……」


 そう教えてくれたのは、ついさっき助けた人質のお嬢さんのお爺さん。つまり、この村の網元。


 どうやら、先程捕まえた連中は、隣村で捕まえた山猿を頂点とする大人数の盗賊団にいた連中だそうだ。


 あの山猿、自分は真ん中の村に陣取って、手下を北と南のそれぞれの村に送って支配していたんだとか。盗賊にしちゃあ、頭使ったな。


「領主に助けを求めなかったの?」


 網元は、疲れた様子で首を横に振った。


「ここらの村は、陸からの出入りが難しい土地です。そのせいか、代官様も滅多にいらっしゃらず……」


 助けを呼ぼうにも、呼べなかったのか……あれ? じゃあ、税金はどうしてたんだろう?


 とはいえ、ろくに領主関係の人間が来ないんじゃ、徴税も殆どされなかったのかな。その分、ほったらかしにされていた、と。


 これ、南の漁村でも同じ事があるのかー。


『そちらは、私が一人で行ってきましょうか?』


 いや、やっぱり自分の目で見ておきたいから、行く。こういうのは、間接じゃなく直接じゃないとね。


 厄介な盗賊も退治したし、これからはこの村にも領主の手が入ると伝えたら、網元が喜んでいた。


「どうか、どうかお願いします。働き手である男衆がいないので、うちの村はこの先どうなる事やら」


 泣きつくのは別にいいんだけどさ。何でその相手がユーインなの? 確かに、四人いる男性陣の中では、一番仕立てのいい服を着てるけどさ。


 他三人は、戦闘をするのが前提の格好だからね。ここについてきたのも、それが目当てだもんね!


 戦闘相手が漁師でなく盗賊に代わっただけだもんね!!


「訴えるのは、いいが、ここの新しい領主は私ではないぞ?」

「え!? で、ではそちらのどなたかで?」

「いや、彼女だ」

「え? ……ええええええええ!?」


 待って、そこ、そんなに驚くところ? さっき盗賊を倒したの、見たよね? ああ、魔法で倒したから、よくわからなかったのかー。


 がっくり肩を落としつつ、ここでもリラに不足物資を聞いてもらう。後で届けさせないと。


 諸々が終わって、近いうちに人を送る事を約束し、再び船へ。


「ここに来させるのは、男性の方がいいね」


 こういった場所だと、力が全てになりやすいから男尊女卑が進むんだよなあ。すっかり忘れてたわ。


「では、レネートを送りましょうか」

「……大丈夫かね?」


 ただでさえ荒くれ者しか見てこなかった漁村の女性陣が、一斉に彼に惚れ込んだりして。いや、冗談事でなく。


「その程度捌けないようでは、この先やっていけませんよ。これを機に、躱す方法も覚えてもらいましょう」


 やだ、カストルがスパルタ。




 南の漁村では、北の漁村と同じ事が起こった。君達、示し合わせてでもいるのかね?


 まあ、こっちも一撃で眠らせたけどさ。村人は魔法を見た事がなかったらしく、凄く驚かれた。


 そして、ここでも魔法を使ったのは男性陣だと思われていましたー。もういいよ、ふんだ。


 そして、周囲から男性陣に送られる熱い視線。忘れがちだけど、ヴィル様もルイ兄もロイド兄ちゃんも、イケメンに分類される人達なんだよね。


 カストル? あれは人外だからノーカン。ユーイン? 彼は私の婚約者なので数には含みません。


 ヴィル様はリラの婚約者だけど、どういう扱いにするかはリラが決める事であって、私じゃないからねー。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る