第19話 ちーちゃん

 巣穴に到着したのだが、話を聞く前に一応自己紹介をして名前を聞いておこう。

 向こうはアリア様に聞いたのか、なぜか俺の名前を知っているようだけど、こっちは何も知らないからね。


「ここが俺が生まれた巣穴で、入り口が狭くて他の捕食者は入れないようになっているので一応安全です。俺の名前は八重樫 八雲(やえがし やくも)、生前は16歳で県立高校の1年生です。良かったらあなたの名前を教えてください」


「16歳なんだ……私は戎吉 智穂(えびよし ちほ)私も16歳です。私立の女子高に通っていました。同じく一年ですね」


 同い年の女子高生と聞いて、一気に俺の緊張が高まった。女子は苦手だ……できればこのままお引取り願いたい。


 俺が急に挙動不審になったのを、どうやら敏感に気付かれてしまったようだ。


「アリア様の事前情報と一致していますね……成程」

「何のこと?」


「先に言っておきます。私を置いて逃げたりしないでくださいね! あなたに見捨てられると、すぐ死んじゃいます! 私に攻撃手段はないそうです。あなたに寄生するしかないので、絶対逃がしてはいけないとアリア様から事前に厳重注意をされています……ですが、アリア様に騙された気がします」


「ひょっとして、転生先が海洋生物って教えられていなかった?」

「そうです! 何ですか! このGのような気持ち悪い体は! フナムシですか? 私、フナムシにされたのですか!?」


 ここに戻る前に、自分の姿が分かってなさそうだったので、彼女に生まれてきた兄妹を見るように言ったのだ。


「そっか……俺と同じように、無理やり転生させられたんだ。多分フナムシじゃなくて、カニとかエビの幼生体だと思う。甲殻類は何度か脱皮して成体の姿になるから、最初はそんな感じのプランクトンみたいな姿なんだよ」


「そうなのですか? フナムシは嫌ですので、カニとかならまだマシでしょうか? それと質問です! さっき、どうして黙って去ろうとしていたのですか? 正直に教えてください。先に言っておきますね……私、嘘吐く人は嫌いです」


 また先に釘を刺された……この娘、気が強いのかな? しゃべり口調はそんな感じじゃないんだけど、要所ではしっかりと自己主張してくる。


「見た目がGっぽくてキモかったから、知らん顔して去ろうとしました……正直、頭に載せるのも凄く嫌だった! タコなのに鳥肌が立った!」

「うううっ、本当に正直に言いましたね! でももう少しオブラートに包んでください! 凄く傷つきました!」


『♪ うふふ、なかなか賑やかな娘ですね。とても良い娘で安心しました。生前はちーちゃんと呼ばれていたようですね』


『ちーちゃんね。あ、そうだ……彼女、攻撃手段がないとか言ってたけど、それだとどうやってレベルを上げるんだ?』


『♪ 最初は食事しかないですね。レベル1になれば、マスターのパーティーに加入できるので、経験値を均等配分に設定しておけば彼女のレベルも上がります』


『マジでパラサイトだね……正直要らないよね?』

『♪ 何を言っているのですか! ヒーラーの重要性をマスターは十分知っているでしょう? ああ、そういうことですか……ヘタレマスター』


『うっ! だって同い年の女の子と一緒に旅とか緊張するよ』

『♪ 見た目があんなGでもですか? マスターは変です。『16歳の女子高生』という言葉だけで緊張しているのですよ? ちゃんと目を開いて彼女を見てください。緊張する要素がどこにあるのですか?』


 ナビーに言われて彼女を見る。


「やっぱキモッ!」

「あんまりです! 2度も言わなくて良いじゃないですか! 私だってこんなゴキブリみたいな姿、嫌ですよ!」


 あ、言っちゃった……Gという言い回しに留めておいたのに。

 でもさっきのは俺の失言だったね、つい口に出ちゃってた……ごめんなさい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る