第80話 時間のあれこれ(2)

 緊急事態宣言の延長。

 人の命には代えられないとはいえ、政府による営業自粛要請による経済的な打撃は大きく、倒産する中小企業も少なくありません。


 そんな厳しい社会情勢とは割かし縁のない私の勤め先ですが、その内情は普通に赤字財政だったりします。


 なので、前年度より黒字化するための新たな企業方針が掲げられました。

 内容はシンプル。収入を増やし、支出を減らす。

 前者は直接的には私の仕事ではないにしても、後者については正職員の数を減らし、パートを中心に雇用することで人件費を下げるという流れ。


 これ自体は別に間違いではないと思います。やっぱり事業運営において人件費の値は大きいですし。


 ……しかし、ですよ。

 現場の主戦力がパート。これがいただけない。

 そもそもがパートタイムの募集に来るような人ですから、拘束時間、仕事内容、そして賃金のバランスで選びます。よって、情熱や理念、そして専門スキルを持つ若い人材は皆無。業種に対する知識ゼロ、経験ゼロの年配の方が配属されるのがしょっちゅうです。


 なので、まずはパートさんの根本的な教育から入ります。

 育てきるまでは正社員の労力は変わりません。おおむね三ヵ月。ようやっと現場を任せられるまでに完成し、今年の三月より私はこれまでの多忙を返上するかのような休暇を獲得しました。


 ――んが。

 そのパートさんの一人が先日、辞められました。


 生活が苦しいそうで、より給料の高い方に行くとのこと。

 そりゃあパートですもんね。より条件のいい雇用先が見つかれば、そちらに行くのは道理です。生活と天秤に掛けられたら、残ってなんて言えやしない。黒字化を目的に人件費を下げようとしているんだから、こっちだって待遇改善なんて簡単にはしてあげられないし。


 そう、現状方針のいただけないところはこれです。

 結局、パートという待遇では固定戦力にまで昇華できない。せっかく育っても、ちょっとした理由で簡単に去っていく。おまけに年配の方がほとんどですから、どのみち数年で退職する。上はすぐに新しいパート募集をかけたそうですが、新しく人員が補充されても、成長しきるまで――当然、その皺寄せは正社員に回ってきます。


 そして、たとえ育てきったとしても……同じような理由で辞めていくのは想像に難くない。それを思うと、ちょっと上に物申したくなる。とはいえ、会社経営はある種の冷徹さがなければ成り立ちませんから、理想だけ言ってもしょうがないのもわかってはいるんですがね。


 そんなわけで、5月後半からまた忙しくなることが確定した私。

 こうなるとわかっていたら、もうちょっと自由な時間を創作に当てればよかったなぁ……と猛省してしまいます。


 でもリースが!

 私の初恋のリースが!

 一緒に冒険したいって見つめてくるんやぁぁぁ!


 時間は大事。

 昨日までと同じ状況が、明日も続くとは限らないのだ。

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