第9話 肩もみ

「お姉ちゃん、お疲れ様。疲れてるみたいだから肩もんであげるよ」



「ほんとに!近江ほんとなのね!やったー」




 そんなに喜ぶほどのことかな?まあいいや、これが栗なら「さっさともんでよ」

くらい言われるんだから喜んでくれるほうが僕もうれしい。




 僕がソファに座ると、お姉ちゃんも隣に腰かけてきた。まっすぐこっちを見つめている。



僕はそれが当たり前と言わんばかりにお姉ちゃんに向かい合って肩をもむ。




 お姉ちゃんや栗の肩をもんであげるときは、いつもこの態勢だったから母さんの肩をもんであげたときはずいぶんビックリされたものだ。「ふつうは後ろを向かせて肩をもむのよ」と言われて、初めてこの態勢が普通じゃないということを知った。




 でもまぁ、今までずっとこの態勢だったし、お姉ちゃんも栗も何も言わないから今更変えようとも思わないけど。



 ただいっつも思うんだけど、肩をもむときお姉ちゃんとっても近いんだよなぁ。



鼻頭がこすれるくらい近い。あんまりにも近いもんだから、今まで何回か唇が触れ合うこともあったけど、お姉ちゃんは気にしてないみたいだったし、僕もお姉ちゃんを意識しているなんて思われたらいやだから何も言わない。




「あー気持ちいい。近江は大学行かなくても将来安泰だね。マッサージ師になれるよ」



「いやいや、僕なんかほんと素人だよ」



「そんなことないって。近江がマッサージ店開いたら毎週通うレベルだわ」




 お姉ちゃんの吐息が顔にかかってくすぐったい。こうやってお姉ちゃんはお世辞でもほめてくれるから、何かやってあげようという気になる。



 栗はしてもらって当然みたいな顔するからムカつくよ。そりゃあ僕はお兄ちゃんだから、お姉ちゃんにやってあげることは栗にもやってあげるが、感謝の一つくらいほしいものだ。




 マッサージをしていると、お姉ちゃんがコテンと僕のほうに倒れ掛かってきた。唇が触れ合う。



眠いのだろう。僕のほうが早く起きているが、お姉ちゃんは毎朝満員のバスに揺られて学校に行くのだ。僕より疲れているのだろう。




 しばらく肩をもんであげていると、炊飯器からご飯が炊けた音がした。




「お姉ちゃん、起きて。ご飯にしようか」



「あれ、私寝てたの。近江ありがとう、とっても肩が楽になった!」




 それはよかった。僕は台所に行き冷蔵庫からサラダを出し、ハンバーグを焼いていく。




「栗、ご飯だよ。下りておいで」



「なに、今日のごはん?」



「ハンバーグだよ。栗、好きだろ」



「ウザ、知った風な口きかないで。好きだけど」



「栗、お兄ちゃんにそんな口きかない。せっかく作ってくれたんだから」



「別に私、作ってなんか頼んでないけど」



「二人とも、ご飯の前にケンカしないで。栗、はやく手を洗っておいで」



「「「いただきます」」」



 うん、まずまずの出来だ。悪くないぞ。



全員が食べ終わったあと、後片付けを始める。




 洗い物をしている最中、栗がじっとこちらを見つめてくるので話を聞いてやる。



内容はアトリと美帆のことだ。栗はほんとにこの2人が好きなんだな。




 友達がいない僕としては、栗が友達を大切に思っていることがうれしい。栗にはよくイライラさせられるけど、友達をちゃんと思いやれているところ、僕は誇りに思うよ。


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