閑話  手を繋ぐ話-別視点-

《第81話のすぐ後のこと》

 一通りリアの反応を楽しんだ後に、俺は『そうだ』と思い出して、すっと手を差し出す。

 それを見たリアが不思議そうに首を傾げるものだから、俺は続けてこう説明した。


「移動中はお前が逃げたり、勝手にどっか行かないように手をつないでおくからな」


 そう、こいつには目を離すと危なっかしい行動をする部分がある。

 だから多少過剰に思えようとも、しっかり自分の側に置いておこうと思ったわけだ。


「えー、別にそんなことはしないよ?」


「あと、お前は興味本位と思い付きで動いて迷いそうだし」


「そ、そんなことナイヨ……」

(※一話参照)


「急に歯切れが悪くなったな……まぁいいから手を出せ」


 俺がそう促すと、ようやくリアが手を差し出して来たので、それをしっかりと握った。

 よし、これでまず見失うようなことはないはず……ん?


 そこでふとリアの様子を見たところ、何やら急にもじもじし出して明らかにどこか不自然だった。


「おい、どうかしたのか?」


「いや、なんかこうやって手を繋いだりするのが久しぶりだから……ちょっと照れるなって」


 珍しくやや伏し目気味で、そう答えたリアは「えへへ」と少し照れくさそうに笑う。

 …………何を言ってるんだ、コイツは。


「……別に、こんなの大したことじゃねぇよ」


「うん、まぁ……そうなんだけどね……」


 そう言うリアは、まだちょっと照れくさそうというか、恥しそうな様子だった。

 いや、いや、いやいやいや……。


「別にこれくらい、いつでもいくらでもできるからな……? むしろ、お前がそうしたいなら、いつでも手くらい繫いでやってもいいけど?」


「うん、そうだよね、いつでも…………ん、え、待って、別にそんな話しはしてないよね?」


 あ……。

 リアからそう言われた瞬間、俺の頭の中は真っ白になった。そうして一度思考が停止した後に、自分が口に出した言葉を思い返して、脳内でガンガンと警鐘を鳴らし始めた。

 ま、ま、ま、マズイ、マズイ、マズイ……!!


「い……いや、してたが!? つまり俺が言いたいのは、別に全然特別なことじゃないのに、お前が照れるとか言い出すから、気を使ってやったわけだっ!! ほら、分かったか!?」


 俺は混乱した勢いのままに、そう言い切ってびしっとリアに指をさす。

 一方で指をさされたリアは、俺の言動に呆気にとられた様子で目を白黒させていた。


 …………いや、分かったかじゃねーよ!? 何を言ってるんだ俺は……!!

 ああ、軽く思い返しただけでも色々おかしい……完全にやらかした。


 くっ、これも全てリアのやつが珍しく、普通に可愛いことを言い出したせいだ。

 そう、それが全部悪い……!!


 だから、急に「照れるね」とか言ってくるなよ、バーカー!!

 心の準備が出来てないだろうがぁ!?


 そもそも、さっき優しく気を使ってやった時には、まともに取り合いもせずボケてたくせに、なんで今更そういうことをするんだよ!?

 絶対におかしいだろっ!! だろっっっ!?


 …………いや、違うな。

 こんなのは全部、照れ隠しに失敗した俺の八つ当たりだ。

 実際のところリアは悪くない……そんなの分かってる。

 ああ、つくづく俺ってやつは……。


 心の中で、俺が大きなため息をついていると「えぇーと」というリアの声が聞こえてきて、俺は思わずそちらを見た。


「それじゃあ、さっきのは気を使ってくれたんだ? それなら、ありがとうカイくん」


 ああ、リアは変なところで素直だから、さっきの俺の言葉を真に受けて……。


 っっあーもう、お前ってやつはそうやって、いつもいつも……!!


「……バーカ」


 色々と耐えきれなくなった俺は、リアから視線をそらしてそう口にした。


「えっ」


「バーカー、バーカー」


「なんで!?」


 ああ、本当にバカだ……コイツ以上に俺自身がな。



 ▼△▼△▼△▼△▼△▼△



 その後のリア「ば、バカじゃないもん……バカじゃないもん……(小声の震え声)」



 ―――――――――――――――――――――――――――……


【オマケ】

《手を繋ぐ話し もしもアルフォンスの場合には》


「こうやって手を繋ぐと、なんだか照れますね」


「っっ!?」


(えっ、手を繋いで照れるって可愛い過ぎないか……? まずリアはいつでも可愛いが、そんな風に少し恥しそうな笑顔を浮かべるとか最高では? あー、いや、もう本当に好き、可愛い……愛してる……)


「ああ……生まれてきてくれて、ありがとう……」


「……んん?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る