街へのお出かけ編 《四日目》

第38話 出かける前に1

 翌日、街へ行くことが決まったため、その日は最低限の情報をまとめて早々そうそうに寝ることしようと思った。けれど……!!

 どうしても気になることがあったため、こっそり図書室まで行って、前に借りた本を返しがてら軽く蔵書ぞうしょの確認をさせて貰った。


 お目当てはもちろん大精霊様とのやり取りで浮上した謎、1000年前の出来事が書いてありそうなカストリヤの歴史系の本と、一件と間違いなく関わりがあるだろうクリスハルト様関連の本だ。

 運がいいことに、それらしい本がすぐに見つかったためその何冊かをまた借りて帰った。

 大丈夫、今は無断だけど借りたことは後で報告するので問題ない……!!


 部屋に戻ってからすぐに読んでしまおうかと思ったが、明日は早くに起きる必要があると分かっていたため素直に寝ることにした。

 だってちょうど夜ふかしで、やらかしたばっかりだもの……流石に連続で大精霊様が出てくるようなことは嫌だからね……!?


 というわけで寝るぞー。

 おやすみなさい!!




―――――――――――――――――――――――――――……




 そして翌朝、私は予定時間より早く起床した。


 うん、悪くない早起きはいいことだからねー。上々上々。


 あっ今なら時間がありそうだし適当な時間まで、借りてきた本に目を通して置こうかな?


 1000年前の出来事、特にクリスハルト様が亡くなった前後の数年前の辺りにしぼった内容の本とクリスハルト様の本。

 クリスハルト様の本の方が情報量が少なそうだし、まずはそちらから……。


 欲しい情報はクリスハルト様の亡くなる直前の行動と、当時の周辺関係なんだけど分かるかな……?


 まぁとりあえず読んでみるか……。




―――――――――――――――――――――――――――……




 うーん、酷い……それというのもクリスハルト様の本の記述は、どれも大戦での功績こうせきまでは詳細に書かれているんだけど、その後の情報はほとんどなくて、どの本でも最後の一文は判を押したように決まって。


【王国の為に尽力じんりょくしたがこころざし半ばで不運にも流行り病をわずらい病死。】


 この一文で締めくくられていた。

 え……めてるの?

 いやいやいや、尽力したその内容を書いてよ!!

 数冊読んで流石に、そこだけ全部同じっておかしいよね……!?

 この国の法律でそうしないとダメとでも決まってるの!?


 そして周辺関係のほうを調べた結果なんだけど、クリスハルトにはどうやら兄王子がいたらしい。

 うん…………なんか物凄く揉めそう。

 王族の兄弟間で後継者争いってよくある話ですよねー。


 基本的には先に生まれた者の王位継承権が高いはずなんだけど、かたや世界の危機を救った大英雄。

 こうなるとクリスハルト様を王にという声が有っても不思議じゃない、むしろ多くてもおかしくないくらいだ。


 特に彼の人柄は元々庶民からの人気を集めていたようだし、彼が英雄になったのならばより強くクリスハルト様を自分達の王にと望むのが自然だろうね……。仮に実際の政治能力は兄王子の方が優れていたとしても、それを政治知識のない彼らに判断しろというのは酷だろうし。


 果たしてクリスハルト様本人が、王位や彼らからの支持を望んだかどうかは分からないけどね……。



 一番数の多い庶民層からの厚い支持を集めている英雄の弟……王位を望むのであれば兄王子にとって、これ以上無いほど邪魔な存在だろうな。

 それはもういっそ消してしまおうと思うほどに……。


 とはいっても、まだ何一つ確証はない。

 あくまで全て私の推測すいそくだ……。


 いや、でもそれが一番可能性としてありそうなんだよな……身内なら大精霊様の裏切られた発言にも当てはまるような気がするし……。



 しかし、うーん。



 私が考え込んでいると、部屋の扉がノックされた。


 ん?


「おーい、リア起きているか?一応もうそろそろ昨日決めた時間なのだが」


 え、もうそんな時間!?

 せっかく早めに起きたと思っていたのに……。


「はい、起きてますよー。すぐに出るのでお待ちくださいー!」


 バタバタと本を閉じて椅子を立ち上がり、外出するのに必要なモノを手早く準備して扉まで向う。

 急なことには慣れてるから自慢じゃないけど、この手の支度は早いんだよねー。

 本当に自慢にならないけど……。


 そして取っ手に手を掛け、扉を開けるとそこにはアルフォンス様が立っていた。


「お待たせいたしました」


「いや、大丈夫だ」


 そういうアルフォンス様の表情は何故かほっとしているように見えた。

 え、もしかして私がガッツリ寝坊しているとでも思ったのだろうか……むむそれは心外だ。


事後申告じごしんこくで申し訳ありませんが実は昨晩、図書室から本を借りておりまして、早めに起きたのにそれを読みふけっていたらすっかり時間が経ってしまっていたんです」


 せめてもの悪あがきで、本を借りたことの報告と一緒に私はそんなことを言った。

 だけどこれって逆に、時間考えないで本を読んでしまうお馬鹿さんですって言ってることになるんじゃないかと後から気付いた……。

 あれ、どっちにしても私がダメだっていう印象だけは動かないね……!?


「……そうだったのか、いや本のことは問題ない図書室も好きに使ってくれ」


 しかし予想してたコイツ馬鹿だ的な呆れた反応は特になく、オマケに図書室を好きに使っていいとまで言って貰えた……!!

 はい、図書室の利用許可を正式に頂きました!!

 やったー!! これは素直に嬉しいし助かる。


「そういえばアルフォンス様はクリスハルト様が大戦後に何をなさっていたかご存知ですか?」


 調子に乗った私は何気なくアルフォンス様に、そんなことを聞いてみた。

 ほらだって、同じカストリヤの王族のアルフォンス様ならばこそ、何かもっと詳しく知っている部分もあるんじゃないかなーってね?


「確か……王国の為に尽力したが志し半ばで不運にも流行り病をわずらい病死したと……聞いてるが」


 ………………。

 で、出た!? さっきの歴史書と同じ定型文……!!


「えーと、それ以外に何かありませんかねー?」


「それ以外には聞かないな……」


「そうですかー」


 アルフォンス様ですら、これだとすると選んだ本がたまたま全部ハズレだったわけじゃなくて、本当にお決まりだったみたいだね。

 しかし部外者に言えない決まりがあるから隠した可能性もある。まぁ、この状況でわざわざそんな規則を守る可能性は低そうだとは思うけど……。

 けど、そうだねぇ……。


「実はアルフォンス様も仰った『王国の為に尽力したが志し半ばで不運にも流行り病をわずらい病死』って一文、どの歴史書でも全く一緒に書かれていて、それ以上がないのがちょっと不自然だと思ったんですよねー」


 本当はこういうことは好きじゃないんだけど、念の為にカマを掛けてみる。


「そうだったのか、役に立てず申し訳ないが私もそれ以上は知らないんだ……もしかすると王国が直接所有する文書や資料になら何かしら残っているかも知れないが」


「いえ、そこまでは大丈夫です」


 うん、これは本当にご存知ないみたいだね?

 大丈夫と言ったけど正直な話、王国の文書や資料は見せてもらえるものならみせて欲しい……!! だけど半ば見捨てられている今のアルフォンス様に、それを要求するのは残酷だろう。そもそも10年放置されている時点で、ほぼ間違いなく請求も通らないだろうし……。


 うん、だからこれ以上は余計なことを言わないでおこう。そういう線引きって大事だよね。


「しかしなんで急にクリスハルトのことなんて……」


 あっやっぱり、そこ疑問に思っちゃいますか?


「ふふっ実は独自調査を経て、私は新しい情報を得たんですよ……」


「な、なんだとそれは一体!?」


 あっ、なかなかいい反応……!!

 こういう台詞や、やりとりって推理小説の主人公っぽくて好きだな。あとは『謎は全て解けました』とか言ってみたいね!! ……今のところ全然解けてない謎だらけだけどね。


「それについてはまだお答え出来ません……説明するには足りない情報がありますので」


 具体的にいうと、アルフォンス様の一件と関係しているという確証が足らないのだ……。

 うん、致命的ちめいてき過ぎて言えないね!!

 そしてこの台詞もお気に入りの推理小説で似たようなの物があったなー。そうそう、あの小説のトリックはドラゴンを使った斬新なもので結構好きなんだよねー!!


「そうか分かった……待とう」


「ご理解頂けて嬉しいです」


 とりあえずアルフォンスに納得して頂けたようでよかった。

 そして私はこのやりとりを通して、くだんの小説の読み返しを決めたのだった。

 ほら、だって今回の推理の参考になるかも知れないからね?

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