魔術少女と呪われた魔獣 ~彼と彼女と大精霊と錆びついた古き記憶の中の英雄~
朝霧 陽月
嵐の出会い編 《一日目》
第1話 嵐は突然に 1
私は
カッコよさを考えると流離いも捨てがたいんだけどね……って今は、そんなどうでもいいことを考えて現実逃避してる場合じゃないんだよな……!!
「ああ、失敗したな」
意味ないことは分かっていてもぼやかなければやってられない程度に、私は後悔していた。
走りながらぎゅっと杖を持つ手に力を込めて、私は思い返す。
冷静に考えれば近道だという理由だけで
その証拠に森に住む魔獣が群れを成して引っ切りなしに襲いかかってきたのだった。
魔獣たちにとって私はご馳走にみえたのだろうな……まぁ襲いかかってきたお馬鹿さん達は全員あの世にいってもらったけれどもね!!
やったね、もう二度と空腹に悩まされることはないから安心してねー。
まぁ
森に入る前に私は『運が良ければ早めに街へ着いて野宿を避けられるよね』と楽観的に考え夕暮れ時の森へと入っていった。
そう、森に入ったのは夕暮れ時……。
それでは問題です。今は何時でしょうか?
正解は…………ハッキリとは分からないけど、森に入ってから何時間かは経ったし真っ暗なので確実に夜中でしたー。
更に言うと迷ってますねー!!
襲いかかってくる魔獣を魔術で撃退することを繰り返してるうちに、私はちょこっと調子に乗ってしまったのだ。
いつの間にか暗い森の中で自分の居場所が分からなくなってしまう程度にね……!!
仕方ないじゃない、普段はここまで派手な魔術をバンバン気持ちよく使える環境じゃないんだから。
元々が日があっても
そこへトドメとばかりに猛烈な雨と風が吹き荒ぶ天候、いわゆる嵐というやつになってしまっていた。
いやー、私の日頃のおこないってそんなに悪かったかな?
……完全に否定しきれないのが悲しいね。
この天候になってしまってからは流石に先程のように魔獣が襲いかかってくることは無くなったが、代わりに雨と風にドンドンと体温を奪われていくのを感じる。
雨だけでなく、風が吹いているところが特にツラい。しかも強風、お陰でぶつかってくる雨水が痛い。
「とにかく何処か雨風をしのげる場所を探さないとなぁ……」
なるべく魔獣に追いつかれないようにと小走りで森の移動を続けてきたことに加え、魔術の連続使用と天候のせいで、私の疲労はもはや頂点に達していた。
どうしよう、なんとなく進み続けているけど森に入る前に荷物の奥にしまい込んで以来全く見てない地図を確認した方が良いかな……。
でもあの地図ボロッちいから、普通に取り出すと今の雨風で私より先に力尽きる気がするんだよね……おやっ?
考えながら足を進めていたところ突然、木々の少ない開けた土地に出た。
「おおっ……?」
その様子に呆けたような声を出し、立ち止まり辺りを見回した。
雨風を遮る木々がなくなった割に、雨も風も勢いがあまり変わらない……?
ってそんなこと今はどうでもいいか……っと雨のせいでハッキリとは見えないけど少し先に大きな建物の影がっ!!
あそこだ、あそこしかない!!
思うが早いか、僅かに残った力を絞り全力で駆けだした。
どうか屋根がありますように、と祈るような気持ちで駆け寄った建物は古びた様子だけどかなり立派なものだった。どうやら
幸い跳ね橋や城壁にある門は開いたため難なく城壁内には入れた。
よし、なかなか運がいいぞ。
森で迷ったり、嵐に遭わなきゃもっとよかったけどもね……!!
私は意気揚々と玄関扉の前まで歩いて行ってからふと思った。
よく考えてなかったけど、ここって人はいるのかな……?
無人なら早い話で勝手に上がり込んで、嵐が過ぎるまで待てば良い。
しかし人がいる城の場合勝手に上がり込むのはマズいだろう……。
少し抜けたところのある私でも、その程度の判断は付くからね!
とりあえず人がいる体でいくことにしよう。雨よけのローブを着ているとは言え、暴力的に体を叩きつけてくる雨水と吹きすさぶ風で体温が下がっている。
万が一、中の人の機嫌を損ねて建物に入れてもらえないなんていうことだけは避けねばならない……!!
「そうだ、あと正体隠しの魔術は解いておかないと……」
女子の一人旅は危険だと思って、念の為に他人からの認識が
あっ今更、気付いたんだけどこの術を応用するとそもそも魔獣に認識されないようにすることも出来た気が……いや、違う私はあえて魔獣程度には使わなかったんだ。そういうことにしよう、うん。
そのように利便性の高い術であるが、他人に頼み事をするときに正体を隠しているというのは誠意がなくてよくないだろう。何より得体の知れない人物は建物に入れてもらえる確率がグッと低くなる。
術を解いた私は一呼吸置いて、錆び付いたドアノッカーに手を掛けた。
コンコンッ
扉を叩きじっと様子を見ているが扉の向こうは静まりかえっている。
もう夜とはいえ寝るには少し早い時間の筈だ……たぶん。
もしかしたら無人なのかも知れないと、思いつつも念の為もう一度確認しようとドアノッカーに手を掛けたところで、ゆっくりと扉が開いた。
人がいたことに驚きつつも失礼の無いように慌てて居住まいを正し、扉を開いた人物に目を向けた。
随分とガタイがいいようで、大きく顔を上げてようやく目が合った。
その目は獣のようで金色に輝いていて……獣のようというか全身が深い金色に覆われてて、その姿も獣そのものだった。
獅子に羊の角を付けたような二本足で立つ服を着た獣が扉を開きコチラを見つめていた。
に、人間じゃない……!?
口や表情に出さないように努めたが、想定外の事態に驚愕する私の背後では雷が落ちて地を揺さぶるような轟音と激しい閃光が視界に映る全てを一瞬で白く染め上げた。
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