第17話 ダンジョン脱出を目指して

 目が覚める。少し汗をかいたのか、肌にベタついた不快感を感じながら昨日の事を思い出し、見張りの交代はどうなったか気になった。




  たしか、交代の順番はシモーネさんの後に僕とフレデリカさんの2人で行うことになっていた。それは、テントが一人用と狭いのでフレデリカさんとシモーネさん2人が休むのは流石に無理だから、フレデリカさんとシモーネさんが交代することに。そして、僕1人だけずっと寝ていて良いと言われたが、流石に僕1人だけ休むのは悪いと思うのでフレデリカさんと2人で見張りをして、シモーネさんにはテントを1人でゆったりと使ってもらう事になっていた。

 だから、交代の時間になったらフレデリカさんと一緒の時間に起こしてくれる事になっていたはずだ。しかし、僕は今自然に目を覚ましが起こされたわけではないので、まだ時間になっていないのだろうか。疑問に思いながら後ろを振り向くと、そこで寝ていたのはフレデリカさんではなくシモーネさんだった。


 


「え?」

「起きた?」

 僕はビックリして声をだしてしまった。僕に向かって一言言って微笑んだシモーネさん。目をつぶって寝ていると思っていたが、僕が振り向いた時に目を開いたので僕よりも先に起きていたのか。


 


「あ、はい。今起きました。でもいつの間に? と言うか、フレデリカさんは?」

「ふふっ、エリオット君はぐっすり眠っていたから見張りは姉さん1人でやっているわ」


 どうやら寝過ごしてしまったようだ。しかも、フレデリカさんが起こされた時に僕は起きなかったようで、今の時間までグッスリと眠ってしまっていたようだった。


 


「ご、ごめんなさい。見張りをすっぽかしてしまって……」

「良いのよ、エリオット君には戦闘とか食事とか休憩に使う道具とか本当に色々助けてもらったから、こんなことぐらいは全然構わないわ。私たちは少しでもエリオット君に受けた恩を返そうと思ってたから休んでいてくれて良かったのよ」


 シモーネさんが微笑みを崩さずに許してくれている。寝過ごしたと分かって、申し訳ない気持ちで一杯だったがシモーネさんの言葉に多少心が落ち着いた。

しかし、2人に比べて時間いっぱい休ませてもらったので後で頑張って活躍してやろうと誓いつつ、僕は寝袋から出た。


 


「おう、起きたか。グッスリだったな」

「すみません、寝過ごしてしまいました」

 テントの前で見張りを続けていたフレデリカさんにも謝る。彼女も特に責めるような言葉は一切なくて、2人はなんて優しい人たちなんだと思った。


 


 僕の後にシモーネさんもテントから出てきたが、彼女は昨日見たフレデリカさんよりもさらに、かなりな部分の肌をさらけ出している格好だったので朝から少しヤラシイ気持ちになってしまった。


 なるべく彼女の姿を直視しないように目を逸らしながら、朝食の準備を始めた。朝食の準備と言っても、魔空間から加工された食品を出して2人に渡すだけ。さすがに、今の場所で火を使って調理するとモンスターが匂いや光に釣られて寄ってくる可能性があるし、時間もかかるので止めておく。


 


 朝食を直ぐに終えて、寝袋とテントなどの野営道具を全て片付けてから今後の事を相談することに。


 


「昨日も言った通り、上の層への階段はドラゴンが居るフロアの向こうにあります。どうやら、ダンジョンは1日経ってもあの場所を動かなかったので、ドラゴンがあの場所から去るのを待つのは無駄だと思います」


 僕は2人が聞いているのを確認しながら、話を続ける。


「他に迂回する道も探してみましたが、見当たりませんでした。上の層へ行くならば、ドラゴンと再び向かい合う必要があります」

 先ほどもう一度、念のためにと探索魔法を使って今居るフロアを調べ直して道を探してみたが、どうやってもドラゴンの居るフロアを通らなければ上の層へと続く階段へ辿り着く経路は見つからなかった。


 


「だけど、今居る場所がわからないのなら上へ向かう事が最善とは限らないわ」

 シモーネさんの考える通り僕達のいる場所が判明していないので、この場所が塔のような建物だったとしたら下に出入り口がある可能性もある。ただ、今居るフロアから外を確認するための窓が無いために地下だと判断している。


 


「それなら、下へ向かう階段を降りたほうが良いのか?」

「もしも、今居る場所が従来通りのダンジョンならば下へ向かえば向かうほど敵が強力になっていく事が問題です。僕達はまだ、このダンジョンのモンスターの強さを知りませんから」

 今居るフロアにドラゴンという強力なモンスターが鎮座している事を考えると、下で待っているモンスターは更に強力な可能性がある。


「あの、一応提案なんですけど僕1人でドラゴンに挑戦させてもらえませんか?」

「なにっ!?」「危ないわ」

 案の定、考えを言ってみると反発された。しかし、説得を試みる。


 


「僕の魔法ならば遠距離からでも攻撃できますし、万が一何か有っても逃げきれる自信があります」

「しかし、もしも何かあってエリオットが怪我をするような事があったら後が無くなるだろう? それに女の私が男の後ろで隠れていることなんて出来ない」

 フレデリカさんが頑なに1人で戦うことを許可してくれない。理由の一つはやはり、女が男を守るべきという考えがあるから。もう一つの理由も納得できる。うぬぼれでもなく、魔法使いという便利屋として様々な活躍している僕が死んでしまったら、2人の生還は絶望的だと思う。


 


「それに、ドラゴンには魔法が効きにくいんでしょう? 魔法使いが苦手としているモンスターとして有名なのに勝てる見込みはあるの? それがないなら、許可できないわ」

 確かに今の僕の鈍った状態では100%勝てるという保証はできない。多少賭けの部分があるという考えを見ぬかれたのか、シモーネさんもドラゴンと僕との戦いに反対。


 


 頭に浮かんだもう1つの方法は、昨日使った時間操作の魔法で一気に突っ切ること。1日休んで魔力も大分回復したので、試してみる価値はありそうだと思ったが直ぐに頭のなかで却下する。実行に移さない理由は2つあった。


 1つは、この時間操作の魔法は非常に集中力が必要であるということ。昨日は危機的状況に陥っていて、今思い出すと驚くぐらいに集中していたために逃げ切るまで魔法が解けることがなかった。しかし、同じ事をやれと言われても出来るかどうかは疑問だった。ドラゴンを突っ切る途中で魔法が解けてしまうという危険がある。


 そしてもう一方の問題は、時間操作の魔法を使うために異常な量の魔力と体力を使うこと。一度発動させてしまうと非常に魔力を消費する事になるこの時間操作の魔法、止めている時間が長くなるにつれて魔力はどんどん消費されていき、時止めで発生する異常な空間によって体力も奪われていく。あのドラゴンが居る場所の向こう側に行こうと思うと、昨日と同じように全魔力と体力を消耗するだろう。


 昨日は一か八かで全魔力と体力を消費して逃げたが、魔力と体力が全部無くしてしまうと僕は何もできなくなってしまう。通路の向こう側にモンスターは居ないことは調べてるが、罠や、調べた中で見逃したモンスター、新たに発生したモンスターが待ち構えていたならば対処できない。

 少し神経質になっているためか嫌な想像が思い浮かんで、魔力体力を全部使いきってしまうという思い切った危険な賭けに出ることを避けたいと考えていた。だから、可能性があって時間は掛かりそうだが安全そうな道を選びたかった。もしかしたら、時間をかけている間に考えたら良いアイデアが浮かぶかもしれないという思いもあった。


「それじゃあ、やっぱり下の層へ向かって進んでみましょうか。もしかしたら、出口が見つかるかもしれませんし、出口とは別の外へ出る方法が見つかるかもしれません。それに、出現するモンスターによっては倒して経験値を稼いでドラゴンと再戦するという手段もあります」

 とにかくココで止まっていても何も始まらない。外へ出るために、僕達3人のパーティーは下の層へ進むことで決まり、動き出すこととなった。

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