第15話 反省
女性2人を連れて何とか通路に逃げ込んだ僕は、息も絶え絶えになって魔力も使い果たしてしまい疲労困憊状態になっていた。
罠で強制的に転移されて飛ばされた先に居たのはドラゴン。かなり危ない状況だったが、3人全員が大きな怪我もなく無事に逃げられたのは幸運だったと思う。
さて、この先どうするべきか。
もしも僕1人だったとしたら、同じように転移した時にはドラゴンとは戦わないように一時離脱してから、改めて戦闘の準備を整えてドラゴンと再戦していただろう。ドラゴンには魔法が効きにくいが、攻撃は結構読みやすい。だから細心の注意を払って攻撃を避けつつ、ドラゴンを倒せるまで魔法で攻撃を繰り返すヒットアンドアウェイの方法が有効だ。だから長期戦に持ち込めば、勝てるモンスターである。過去に何度かドラゴン戦を経験しているので、倒しきる自信もあった。
しかし、今回は2人の女性冒険者がパーティーに居る。2人が僕1人だけでドラゴンと戦うのを良しとするだろうか。この世界の常識では男性は女性が守るものという、僕の感覚とは真逆の考えが根付いていて、男性である僕が1人で戦いに赴く事を許可してもらえないかもしれないという懸念がある。彼女たちは今日出会ったばかりの人たちで、僕の実力の全ては知らないだろうから判断できない。
彼女たちが知っている僕の実力とは、転移される前のダンジョンで戦闘した時に援護攻撃やトドメを刺させてもらうなど支援的な動きで戦闘に加わっていた事。つまり、彼女たちは僕が男性にしては少し魔法の腕が高いというように思っているかもしれないが、僕が伝説級モンスターのドラゴンと戦えるほどの実力を持っているとは考えていないだろう。僕が女性だったら説明しても信じてもらえるかもしれないが、男性である僕がいくら言葉で伝えても理解してもらえないとおもう。それほど男性は弱い生き物であるというのが常識としてあったから。
そしてもう一つ問題があって、僕はドラゴンと対峙した時に危険を察知するのがほんの少し遅かったり、身体が思うようには動かなかったと実感した事。最近はずっと研究所に篭もりきりだったために、想定していた以上に冒険者としての察知能力や身体が鈍っている事がわかった。
思い付きと気分で挑んだダンジョン探索でこんな危機的状況に陥るとは思っておらず、そして危険な状況に陥るまで自分の能力の低下を実感できていなかったので非常に困った。
荒かった息が整いだして、僕は会話が出来るようになった。僕の息が荒くなっていた時にはフレデリカさんと、シモーネさんは武器を収めているが、モンスターの奇襲に警戒を続けていた。
2人は僕の呼吸が落ち着いたのを見て視線を向ける。
「それで、どういう状況か説明してもらえる?」
シモーネさんは真剣な眼差しで僕を見つめて言った。その隣ではフレデリカさんがウンウンと頷いて話を要求していた。
僕は、先ほど転移した所からドラゴンを発見し切り札の魔法を使って逃げたという事を詳しく2人に説明した。
そして、フレデリカさんが何故ドラゴンへ向かっていったのかを聞けた。どうやら、ドラゴンに立ち向かって行ったのは、僕とシモーネさんの2人が炎に包まれたところを見ていて、もうダメだと思ったらしく敵討ちとしてフレデリカさんも死ぬ気でドラゴンに一撃を加えてやろうと特攻していたらしい。
「本当にすまん。私の発動させてしまった罠のせいで……」
フレデリカさんがうなだれて、弱々しい言葉で謝罪する。確かに、この状況になったキッカケはフレデリカさんの発動させてしまった罠だろう。しかし……。
「私は、あんな場所に転移の魔法が仕組まれているなんて思わなかったわ」
シモーネさんが言うには、リーヴァダンジョンの10階層へ行くまでの道中で魔法の罠が仕掛けられている事なんて今までに無かったという。罠が有ったとしても、足を挟んで怪我させるトラバサミや、踏むと矢が飛んで来るスイッチなど物理的な物ばかりで、魔法が使われた罠は更に奥に行かないと存在していなかったらしい。だから、あんな場所に転移の魔法があるなんて誰もが考えていないから仕方がなかったと諦めるしかないとシモーネさんはフレデリカさんを慰めいていた。
今までに無かった事が起こったと聞き、入り口の兵士が言っていた最近モンスターの様子が活発になっているという事を言われたのを思い出した。何か関係があるかもしれないと考えたが、どんな原因や理由があるのかわからない。
「ダンジョンで起きることなんて、誰にも予想することは出来ません。今は、次にどうするべきか考えるほうが良いですよ」
ダンジョンではたびたび不思議な事が起こっている。例えばダンジョン内部の構造が変わったり、先ほど言ったように罠が勝手に設置されたり、ダンジョンの中でモンスターが生命力が無くなると光の粒子になる理由も分かっていない。
そして、反省は大切だが程々にして僕達3人はこれからどうするべきかを話し合う事に。
実は先ほど休んだおかげで僕の魔力は少しだけ回復している。戦闘はまだ全然無理だったが探索魔法で周辺を探ることなら出来る状態になった僕は、今居るフロアが何処なのか手がかりを探すべく魔法を使ってみた。そして、さらに苦しい状況であることが分かった。
「ドラゴンの居るフロアの向こう側の通路へ行かないと、上へのぼる階段が無い?」
僕の調べた情報を聞いて、言葉にしたシモーネさん。彼女の言う通りドラゴンの居るフロアには2つの道を見つけたが、2つしか見当たらなかった。そして、僕が逃げ込んだ通路の奥には下へ降りる階段しか無い。他に道を探してみたが、どうやっても一度ドラゴンの居る部屋を通らなければ上へ向かう階段に辿りつけない事がわかった。
地上へ帰るためにどうするか話を続けていたが、少なくとも今日は3人ともに疲れきってしまい動いて調べ回る事は無理そうな状態だった。そのため、この場所で全員の疲労回復を目的に一夜を過ごすことになった。
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