今だから言えること

今だから言えること。


今だから?

なにが今やねん。

…とも思うので、「今だから言いたいこと」にしましょうか。

それなら間違いがない。


言いたかったのは、これです。



昨年5月、第4回カクヨムコン、キャラクター文芸部門で特別賞をいただき、『雲神様の箱』という受賞作が、なんと先月、角川文庫さまより発売となりました。


スゲーーー!!!!

しかも、角川文庫!

やったよ、硬派な物語書きの皆さん!!

カクヨムコンからも角川文庫で本を出していただける可能性があるようですよ!

そして、歴史ジャンルの皆様!

このジャンルでも受賞の可能性はありましたよ!


しかし。

一年前の私はこんな未来が訪れるなんて知りません。

カクヨムコンには応募していましたが、中間選考を突破できるとも知りません。

当時すでに完結済みだったので、更新もない作品です。

更新しないので宣伝も一切していません。

完全なる記念応募でした。


その頃のわたしが何を考えていたかというと、カクヨムからの退会でした。

アカウントを削除しようと思っていました。


何度もあちこちで書いていますが、わたしは誰かに読まれたくてお話を書いていたわけではなくて、書きたかったから書いていました。

書きたいのはわたし、読みたいのもわたし。

だから、自分が求める物語が書ければ満足!

公開しなくても満足なのです。

でも、読んでくださる方からの要望にはめっぽう弱いです。

自分でいうのもなんですが、お人よし…というか、お調子者なのです。


わたしが初めて書いた大長編は『クマシロ』という話です。

でも、長い話にするつもりはなく、1話にあたる部分を集英社のコバルト文庫の賞に送っていて三次選考まで残してもらったので、「せっかくそこまで残ったんだし…」と公開したのでした。

公開したところ、「続きが読みたいです」というコメントをいただきました。

たぶん、はじめてもらった感想か、それに近い時期のコメントだったと思います。

だから、嬉しくて、「わかりました」と書き続けたのでした。

続けたら、「もっと読みたい」と言ってくださる方がまた増えました。

結局、思う存分連載させてもらって、気づけば100万字を超えていました。


『雲神様の箱』にも同じことが起きました。同じ…というか、逆かもしれないですが。

本来、『雲神様の箱』は100万字程度を予定して書きはじめました。

でも、2話を書いている頃に、ひどいスランプに陥りました。

スランプって単語にするとたったの4文字で、「フーン、そんなこともあるのね」的な言葉なんですが、本当に書けなくなったんです。

いま公開中の2話にあたる部分をどうにか書き上げた後は、もう創作はやめようと思いました。

でも、やっぱりその時に「続きを読みたい」といってくださる方が何人もいて、「わかりました」と書き続けたのでした。

途中でやめるのは、公開をはじめた以上は読んでくださる方に失礼だと思ってて。


でも、当時のわたしは大スランプです。

どうやったら理想のクオリティに近い状態で書けるのか。

わたしは、ものすごく考えました。

その結果、それまでは感情の赴くままに子どもの遊びのようにお話を書いていましたが、『雲神様』3話以降は、頭で考えて同じクオリティを目指すことにしました。

子どもの書き方から、大人の書き方に変わった感じでした。

頭で考えて書けるようになったので、その後はわたしの物語支配率がぐんとあがりました。

キャラに書かされていた話が、書き手が誘導する話に変わったんです。

…すごいね。書き方にも成長期があるんだね。と、今なら思います。


ただ、またいつ書けなくなるかわからない…と、とにかくエネルギーが切れないうちに完結させねば…と、3話を書きはじめる前に、プロットをかなり整理したのでした。

『雲神様の箱』はもともとは100万字予定で、全6話の予定でした。

でも、完結するために必要な最小限だけを残して、ほかのエピソードは削除の上、3話、4話のストーリーを組み直しました。

(削除した部分の一部は、その後で書いた番外編に混ぜ込んであります。はじめの予定では、難波や四国を舞台にしたエピソードが3話の前に入るはずでした)


と、わたしは「読んでくださった方に申し訳ないから、最後まで楽しんでほしいから」という理由で、ずっと公開を続けてきましたが、完結という形でお礼をした後は、カクヨムのアカウントを削除して、公開中だった物語も非公開にしようと思っていました。


でも、読んでくださった方にはお礼がしたい。

それも、すべての皆様に。


わたしは、ふだんから弱い立場の人を応援する物語を書いています。

わたし自身も古い時代が好きだったり、少数派の立場になることが多いからです。

声が大きいだけで採用されていく世界が苦手です。

だから、お礼はどれだけ声が小さくてもすべての方に――と、リクエスト企画を実施しました。

『雲神様の箱』の最後から60話分くらいはすべて、リクエストに応えた話です。

お題は「いただいたリクエストにはすべて応えます」という約束で募集しましたが、どうしても書けなかった1つを除いて、果たしました。

書き終えるのに1年かかりましたが、「さようならみんな、ありがとう!」のつもりでした。


でも。なぜか。

最後の最後、アカウント削除前の記念応募をしたカクヨムコンで、受賞させていただきました。

正直なところ、お知らせをいただいた時に脳裏に浮かんだ言葉はこれでした。


「お前はずっとそうして一人で飛んでいろって言われた気がしたがね」

『紅の豚』のポルコ・ロッソのセリフです。


わたしがまだ飛んでいられるのは、運と、奇跡と、声をかけてくださった皆様のおかげです。

何度も何度もわたしは「ちょっと疲れちゃったしなぁ~」と隠れる隙をうかがっていましたが、「まだ頑張れ~」「大丈夫、面白いぞ~」という声が、わたしを今の場所に居させてくれています。

それどころか、角川文庫さまからの書籍化という、とんでもない空へと連れていってくれました。


だから、ぜひとも言いたいのはこれです。


応援したい作品、人がいたら、ぜひとも、ためらわずに声をかけてあげてください。

その人は、あなたの言葉ひとつで連載を延長して、さらに延長して、あなたのリクエスト通りの作品を仕上げて、なんと、あなたが応援した作品が本として書店に並ぶ日がくるかもしれません。

すくなくともわたしは、「続きが気になります」の一言のためにずっと書き続けてきました。


声をかけてくださった皆様――掲載場所を転々としているので、きっとカクヨムでは探しきれないと思いますが、ありがとうございました。

その方々のありがたい一言のおかげで、わたしはまだお話を書いて、公開して、本を出させていただきました。

感謝!

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