第15話 魔女の狂想
「つまり、君は死ぬことでスキルを入れ替えることが出来るってわけだね。
それはとても強力な事だと思うけど、入れ替えちゃうと同じ場所には戻れないし、連続で同じスキルを選べないのはなかなか悩ましいね」
ハヤマさんも転生者なのだけれど、この世界に転生してから一度も死亡したことが無いらしい。
自分が最前線に立ったとしても、周囲の魔法使いがハヤマさんの命を完璧に守り続けてきたのと、強化の度合いが強すぎてしまって、敵対勢力がほぼ何も出来ずに敗走してしまう事が多かったからだそうだ。
この世界での魔法は相変わらず強力なのだけれど、触媒が無いとその人が持つ魔力のほとんどを代償にしてしまうので、使い勝手が著しく悪いようだった。
中には魔力を多くため込むことが出来る人達もいたのだけれど、そのような物は極僅かに存在するのみで、ほとんどの魔法使いは一度魔法を使うとほぼ何も出来なくなってしまう事が普通だった。
僕が知っている三人の魔女は強大な魔力を秘めているが強力な魔法を使っているわけではなく、極めて限定的な魔法のみを極めていると言った印象でしかなかった。
攻撃的な魔法を使うと相手に致命傷を与えることが出来るようではあるのだけれど、すぐに反撃にあって魔法使いは何も出来ずに散ってしまう事になるらしい。
魔法を一度使うと回復に時間がかかる魔法使いは切り札としては優秀ではあるのだけれど、恒常的な戦力としてみると、一般的な兵士の数に比べて貴重すぎるほど少数のため、部隊に投入するよりも防衛拠点に配備することが一般的のようだった。
そんな魔法使いの弱点を補って余りある能力を持っているのがハヤマさんで、ハヤマさんが強化した魔法使いが三人いればどんな戦力でも確実に無力化することが出来、魔力の回復力も強化してしまえば魔法の乱発も可能になるようだ。
しかし、そんな強力すぎる能力も信頼出来る魔法使いがいることによって初めて役に立つようで、今のところはハヤマさんが心から信頼出来る魔法使いに出会ったことが無いらしい。
結果的に、皇都内の魔法使いたちを強化して結界を張り巡らせていって、皇帝以外の者は攻撃手段を持てない空間を作り出すことになっていった。
「でもさ、どうにかして別の場所にいる死神君を見つけてここに呼べるようになったら良いのかな? 例えば、魔女の誰かの魔力と死神君の命をリンクさせて場所を特定してみるとか」
「そうだな、ハヤマの言う通り死神殿と繋がっておれば、そのへんはなんとかなるだろう」
「ミコはユカタウンの資源を回収するのと守るのに欠かせないし、ミズキの魔法は皇帝陛下が皇都での決戦の時に必要になってしまうし、アイカの魔法は使い勝手が良すぎるからなぁ。
魔女の力と死神君の命を繋げるとしても、一番良いのはアイカの魔力かもね。
あの『空間』を自由自在に使いこなせるようになったら、死神君もこっちに簡単にやってこられるし、君が持っている物騒な武器もしまっておけるんじゃないかな?」
「死神殿にとっても悪い話ではないと思うのだが、魔女と繋がるのはやはり抵抗感が拭えぬか?」
「えっと、僕にはその魔力と命を繋げるって意味がよくわからないんですけど」
「簡単に言うと、転生者に魔法使いの能力なり魔力を上乗せする事だね。
上乗せと言っても魔法使いの魔力が消えてしまうわけではなくて、単純に魔法使いの力がコピーされて転生者の空いている場所にペーストされるって感じかな。
これだけ聞くとメリットしかないと思うかもしれないけれど、魔法使いの方にはデメリットがあって、コピーされた時点での魔力がその人の限界になってしまうのと、転生者が死ぬたびに心身ともに深刻なダメージを負ってしまうんだよね。
でも、魔女クラスになると成長する余地もないだろうし、心身に負うダメージもそこまで負担にはならないと思うよ。
それと、リンクが解除される条件は魔法使いが死んだ時なんで君からは解除できないと思うよ。
君が解除することで得られるメリットなんてないんだし、繋がったままでも損はしないと思うんだよね。
ま、ほとんどの魔法使いはリンクを嫌がると思うし、それを出来る人間も限られているってのもあって、今までリンクした人を見たことがあるのは皇帝陛下だけじゃないかな?」
「余が見たのは今から三百年ほど前だと思うのだが、攻撃的な魔法使いと好戦的な転生者をリンクさせていたのだ。
この時はデメリットの事は知らなかったので、転生者が他国の兵士と戦っている時に魔法を乱発していて、それによって魔力を著しく失った魔法使いは精神を徐々に蝕まれていって、最終的には自分自身に魔法を使って自ら命を絶ってしまったのだ。
ちょうどその時に転生者は怪物討伐に出ていて、怪物の巣に飛び込んでいってものの、戦闘中にリンクが外れてしまい魔法が使えない状態のままなすすべもなく、怪物たちの反撃にあいそのまま四肢を引き裂かれて絶命したらしい。
そんな事があってからというもの、魔力と命を繋げようとする者は存在しなくなってしまったのだ。
しかしだ、死神殿はそのように魔法を乱発しないだろうし、三人の魔女の魔法はお世辞にも攻撃に向いているとは思えないものばかりである。
どうだ、死神殿さえよければ試してみないか?」
二人の提案は僕にはメリットしかないように感じてしまうけれど、魔女の人達には何もメリットが感じられないのが疑問だった。
「僕にはメリットしかないように思えるのですが、魔女の人達にはデメリットしかないんじゃないですかね?」
「捉えようによってはそうかもしれないけれど、転生者と繋がるってことはそれだけ多くの体験と経験を積めるって事なんだよ。
僕はここに居座っているけれど、転生者ってのは本来なら旅をして目的を果たすものだろ?
僕はもうすでに、その目的を果たす為の勇気は残っていないんだけれど、こうして皇帝陛下と皇都を守り続けているだけで成長もないのだけれど、君は死んでスキルを変えて他の場所に転生してごらんよ。
そんな体験は他の誰も味わう事の出来ない貴重なものになっていくんだよ。
魔力自体の成長は止まったとしても、その経験を次の世代に繋ぐことは出来ると思う。
それが次の世代へと繋いでいくものの責任なんじゃないかと思っているさ」
「ところで、繋がるためにはどうしたらいいんですか?」
「単純に体が繋がるってのは違うんだけど、先代の魔女の中にこの世界に存在するどんな魔法でも知っている人がいるので、その人に一番いい方法を聞いてみるといいよ」
「その人はどこに居るんですか?」
「さあね、その人がどこに居るかは誰も知らんのだよ。少なくとも、皇都にいない事は確かだと思うね」
結局のところ僕が得た情報は、魔女と繋がって自分の力とは別に魔女の魔法を使うことが出来るようになると言った、モノによってはそれだけですべてが終わってしまうようなとんでもない力を手に入れられる可能性があるという事だった。
「魔女の事なら魔女に聞いてみるのが一番ではないか? ハヤマは魔女と上手くやっていけないと思うので、死神殿がその辺を上手にやっていただけるとありがたい」
「僕もそんなに仲が良いというわけではないのですが、出来るだけ良い方向に向かっていくように努力いたします」
僕が知っている魔女のうち二人はこの皇都にいるのだけれど、二人が先代の魔女とどのような関りがあるのかがわからないので、その辺から探っていくことにしよう。
と言っても、二人がどこに居るのかも見当がつかないので、二人が良そうな場所をしらみつぶしに探してみた。
食堂を始め、他にも二人が行きそうな場所を手当たり次第に探してみたのだけれど、どこを探しても見つけることが出来なかった。
皇都の中で一人になった僕はリンネに呼び掛けてみたのだけれど、結界が張り巡らされている影響なのかリンネが出てくることは無かった。
誰にも会えずに居場所を探していた僕の前に、突然一人の少女が現れた。
正確に言うと、誰もいないはずの空間から目を話して戻した時にはそこに少女が立っていた。
長く伸ばした前髪のせいで目元は見えないのだけれど、鼻と口元を見ただけでも美少女と呼ぶにふさわしい外見をしているように思えた。
透き通るような白い肌と驚くほど綺麗な金色の髪の毛が少女の真っ赤な唇を一際目立たせてはいたのだけれど、前髪の隙間から一瞬だけ見える鈍く輝いている真紅の瞳の方が僕の心から離れなかった。
僕の前にはどこまでも続いていそうな廊下があるのだけれど、近くに隠れるような場所もなかったので、この少女がどこから出てきたのかが疑問であった。
前髪に隠れていて目は直接見えないのだけれど、何となく目が合っているような気がしていて、少しだけ気まずさを感じていると、少女は僕の方へとゆっくり歩みを進めてきた。
「お兄さんが今の魔女と仲良くしてる転生者なんでしょ?」
その質問に頷くと、少女は僕のすぐ前まで来て僕の顔を真っすぐに見上げていた。
「よかった、お兄さんが仲間じゃなかったら殺すところだったんだけど、ちゃんと確認しておいてよかったよかった」
少女の口から出てきた過激な言葉に驚いていると、僕の手をとって手の甲に何かを描いているようだった。
「お兄さんって変わっているよね。普通の転生者の人とは違う体験をしているみたいだし、他の転生者の人をたくさん殺してきているよね。私は直接殺したのは少ないけれど、ちゃんと殺してる数はお兄さんより多いはずだよ」
再び可憐な口から物騒な言葉が出てきているのだけれど、ちゃんと殺しているっていうのはどういう事なんだろう?
「そっか、お兄さんは転生者の殺し方を知らないんだね。方法はいくつかあるんだけれど、一番簡単なのは復活するたびに殺して心を折る事だよ。そうしたら転生者の人が魔王になる事は無いんだよね。でも、私一人じゃ限界があるし、殺すよりも新しく増える方がペース早いから魔王を全滅させられないんだよね」
「あの、君も転生者なの?」
「私は転生者じゃないけど、君たちの事はそれなりに知っているよ。君とは違う転生者の人と一緒に冒険したこともあるし、戦ったこともあるからね。君も色々な人と戦ってきたみたいだけれど、これからはもっと大変なことになるかもしれないね」
そう言い終わった少女は僕が瞬きをしている間にどこかへと消えていた。
結界の中では皇帝のみ魔法やスキルを使えるようなのだけれど、あの少女はいったい何者なのだろうか?
どこかであった事があるような気がしているけれど、記憶の隅の方にあるのか思い出すことが出来ないでいた。
そのまま廊下を歩いていると、食堂のような場所に辿り着いていた。
食堂の中は見覚えのない兵士たちで溢れていたのだけれど、その中の一人が席を一つ開けて僕に紅茶を勧めてくれた。
「自分は直接死神殿の活躍は拝見したことが無いのですが、噂は耳にタコができるほど聞いております。我が帝国に牙を剥く魔王の軍勢をたったお一人で壊滅させているとの事、心より感服いたす次第であります。これからも帝国のためにご活躍を期待しておりますが、自分も力になれるように努力いたします」
いつの間にか僕の周りは兵士たちに囲まれていたのだけれど、誰一人として僕に敵意を向けている人はいなかったのが新鮮に感じていた。
僕に紅茶を勧めてくれた兵士と握手を交わすと、周りで見ていた兵士たちも握手をしたいと言って列を形成し始めていた。
こんな所でも規律が守られているのはさすがだなと感心したのだけれど、これだけの人数と握手をするのも大変なんだろうなと思いながら長蛇の列を眺めていた。
何人の握手を交わしたのか覚えていないのだけれど、全員と握手をし終えて再び紅茶をいただいていると、先ほどの少女が僕の隣に立っていた。
「ねえ、私にも紅茶を一杯頂けないかしら?」
少女は僕にそう言うと、相変わらず真紅の瞳を鈍く輝かせながら僕を真っすぐに見つめていた。
僕に紅茶を淹れてくれた兵士も気付いているはずなのに、少女の事を無視しているのか紅茶を出す様子はなかった。
「あの、もう一杯紅茶を貰ってもいいですか?」
「おお、死神殿は自分の紅茶を気に入ってくださったのですね、では今度は違う茶葉をお楽しみくださいませ」
もしかすると、この少女は僕にしか見えていないのかもしれないと思っていたのだけれど、その予感は的中していたようだった。
「お兄さんは相変わらず優しいね。
昔あった時も優しかったけれど、今も変わらず優しいままでよかったよ。
私は前にもお兄さんに会っているんだけれど、そんなにちゃんと会話らしい会話をしていないんで覚えているわけないよね。
でも、お兄さんが頑張っている姿はたくさん見てきたよ。
うん、お兄さんにこれから先に幸運がたくさん訪れるように願いたいんだけれど、この世界には願いを聞いてくれるような神様はいないんだよね。
だから、私が神様になった時にはお兄さんを幸せにしてあげるね。
そのためにも、私のために頑張ってくれたら嬉しいな。
まずは、私って猫舌だから飲みかけの紅茶をいただくね。
お兄さんの分は新しい紅茶がもらえると思うからさ」
少女は僕の上に座ると、飲みかけの紅茶を一口で飲み干していた。
不思議なことに僕の太ももと膝は少女の重みを感じることが無かったのだけれど、新しい紅茶が運ばれてきたときには少女の姿は消えていた。
「それにしても、死神殿に紅茶を淹れることが出来た事でも自慢できるというのに、おかわりまでしていただけるなんて光栄でございます」
僕は新しく運ばれてきた紅茶を一口啜ると、ほのかに感じる優しい甘さをゆっくりと味わっていた。
紅茶を飲み終えると、僕はどこに行ったらいいのかを兵士に尋ねてみたのだけれど、僕がいるべき場所は誰もわからないようだった。
二人の魔女がいる場所を尋ねると、一人の兵士がそこまで案内してくれることになった。
僕が来た道を戻っていたのだけれど、先ほどは直線で部屋も無い廊下だったはずなのに、食堂から出ると左右に無数の扉が付いていて、その多くの部屋の中から話し声も聞こえていた。
食堂の出口は一つだけなので間違えようもないと思うのだけれど、僕が歩いていた廊下はいったいどこだったのか、皆目見当もつかなかった。
二人の魔女がいる部屋に案内してもらうと、兵士はすぐにその場から離れていってしまった。
扉の前に立ってノックしようとすると同時に扉が開いて、中からアイカさんが出てきた。
アイカさんに手を引かれて部屋の中へ入っていくと、そこにはアイカさんとミズキさんが僕を迎え入れてくれていた。
「おかえりなさい。皇帝陛下とハヤマさんとの会合はどうだったかな? 私とミズキは帝国の魔女なんである程度の事はわかるんだけれど、本当に大切なことは教えてもらえないんだよねぇ」
「そうなんだよな。私達は信頼はされているんだろうけど、肝心なことはいつも後から聞かされることが多いね。ミコは違うんだろうけど、私とアイカはそうだったりするのさ」
二人がなぜか僕の体に顔を近付けているのが気になってはいたのだけれど、少しドキドキしていたのでその時間を楽しむことにした。
「ねえ、死神君の体からいつもと違うにおいがしているよねぇ?」
「確かに、ほのかに甘い匂いがしているけど、その奥にはほのかに死臭がしているような気がする」
「そう言われると、そんな気がしてきたかも。ねえ? 誰かと一緒にいた?」
僕は金髪の少女とあった事を二人に話すと、二人はしばらく目を見合わせて何かを相談しているようだった。
「確認なんだけど、その少女って真っ赤な唇と真っ赤な目をしていたのかな?」
「それと、その少女ってあんた以外の人も気付いていたかい?」
二人の質問に答えると、二人は奥の部屋へと消えてしまった。
僕はどうしたらいいのかわからずに、その場でただ待っていたのだけれど、二人はしばらく待っていても出てくる気配が感じられなかった。
そのまましばらく待っていると、二人は部屋着ではなく皇帝に会っていた時の衣装に着替えていた。
「あのね、死神君が会っていた人は私たちの先輩にあたる人だと思うんだよね。だから、もう一度ここに呼んでもらってもいいかなぁ?」
「僕が呼んだんじゃなくて、気付いたら目の前にいただけなんだよね」
そう言って視線を外した先に、その少女が立っていた。
「呼ばれたような気がしたから来ちゃったけど、大丈夫だったかな?」
少女はそう言って僕の方を見ていたのだけれど、僕は大丈夫だよと頷いていた。
「わぁ、本当に出てきてもらえたぁ。私たちは今の魔女をやらせてもらっています。本当はもう一人いるんだけど、今日はここに来てません」
「初めまして、私も魔女をやらせていただいています。よろしければ、色々とお話をお聞かせ願えませんでしょうか?」
二人にも少女が見えているようなので僕は少し安心したのだけれど、少女は僕の体の後ろに隠れて警戒しているようだった。
「あの、三人の魔女の事は知ってます。
近付くと気付かれそうなので会いに行ったことは無いけれど、噂話はよく聞いてますよ。
やっぱり魔女だと私の姿が見えちゃうんですよね?
本来なら私が見せたい人にしか姿が見えないはずなのに、皇帝の近くにいる人も何となく見えているっぽいし、恥ずかしいかも。
でも、お兄さん以外の人と話をするのは緊張しちゃうかも。
そう言えば、なんで私の事がわかったのかな?」
少女の質問にアイカさんが答えていた。
「それなんですけど、もう一人の魔女が皇都にいる時に何度か目撃していたみたいです。
ハッキリと見たわけではないと言っていたんですけど、歴代の魔女の肖像画を見ていた時にそうなんじゃないかって思ったらしいです。
透き通るような白い肌に鮮やかな金髪で目と口が赤くて綺麗だって言ってましたぁ」
「そうそう、そいつはミコって言うんですけど、そのミコが歴代の魔女にも可愛い女の子がいたって騒いでましたからね」
二人の勢いに気圧されたのか少女は僕の背中に完全に隠れているようで、二人からは姿が見えないのだろう。
僕は背中に少女の吐息を微かに感じながら、少女の気持ちが落ち着くのを待っていた。
「えっと、私は見た目は小さいけど昔の魔女なんで、お姉さん達よりは年上だと思います。
だから、あんまりイジメないでくださいね。
あと、お姉さん達も自分から魔法を使ったりできないんですか?」
「はい、私達も一般的な魔法は使えません。歴代の魔女もそうだったと聞いていますので、先輩もそうなんですかぁ?」
「うん、お姉さん達が使える魔法は結構特殊だよね。
私もそうなんだけど、お姉さん達よりも実用的じゃないし、私一人じゃ何もできないんだよね」
「ミコが皇都に来たときは先輩の事を調べたりしていたみたいなんですけど、先々代くらいの魔女からしか詳細が記載されていなかったので、調べられなかったみたいです」
「私は魔法が一切使えません。
でも、魔法の知識なら誰にも負けない自信があります。
そんなわけで、私は魔法の先生をやっていました。
今もそうだと思うんだけど、魔法を普通に使うにはリスクが高すぎるので知識ばっかりになっちゃったんだけど、それでも生徒たちは頑張ってくれていたんだよね。
そんな事の積み重ねで私はいつの間にか魔女って呼ばれてて、いつからかわからないけれど、今みたいに幽霊っぽい感じになっちゃいました」
「私達に魔法の使い方を教えてもらえたら魔法が使えるようになりますかね?」
「使えるようになるとは思うけれど、今使っているその魔法は使えなくなっちゃうかもしれないよ?」
帝国の魔女は今の三人で何代目なのかわからないけれど、他の魔法使いのように戦闘に加わって戦う事は代々なかったようだった。
「私はあなた方以上に戦闘に向いていないと思います。
直接戦闘には参加したことが無いんですけど、最前線で指揮を執ったことはあるんです。
数えるくらいしか指揮を執っていないんですけど、怪我人を出したりせずに済んでました。
でも、魔女としての役割が固まってくると、戦闘に参加することは無くなっていました。
そんな中で私の教え子たちを戦いの場に送り出すことは心が痛かったです。
これから先はお兄ちゃんと協力して、闘いのない世界を作れるように努力していく予定だよ」
「え? 死神君は帝国のために魔王を根絶やしにするんだよ?」
「戦う必要が無くなったら根絶やしにしなくても大丈夫だと思います。
お兄ちゃんはそれが出来る人だと思うから、私も力を貸すよ」
少女は僕の横に出てくると、二人をじっと見つめていた。
「二人と戦っても意味が無いと思うし、いつになるかわからないけれど、闘いのない世界を作るからお兄ちゃんを譲ってください」
「どれくらい時間がかかるかわからないとしても、その頃には死神君はこの世界にいないと思うよぉ。死神君が死んで別の場所に行っちゃったらどうするのかな?」
「その点は大丈夫です。詳しくは言えないけれど、心を繋げる魔法があるのでそれを使ってもらう予定です。
明日には私のお姉ちゃんも来ると思うし、そうなったら私とお兄ちゃんの心を繋いでもらうからね。
そして、二人で争いのない平和な世界を築いていかなくちゃね。
お兄ちゃんが別の時間の別の国に行ったとしても、この世界にいる限りは私が見つけてあげるからね。
最終的にはお兄ちゃんと私が世界を支配して誰もが笑って暮らせる世界を構築しなくちゃ。
そうなったとしたら、私達は神様と女神様になっちゃうのかな?
この世界はもうダメだと思うし、お兄ちゃんと心が繋がったらすぐに死んでもらわないとね。
お兄ちゃんもそれを望んでいるだろうし、今の魔女には悪いけれど、他の強い人を探してね」
「ちょっと待ってください、言っていることが全然これっぽっちも理解できません」
「うーん、あなた達に理解してもらわなくても大丈夫だから。
私とお兄ちゃんが二人で力を合わせてこの世界を解放してあげなくちゃいけないんだよ?
お姉ちゃんたちは自分たちの事を一生懸命頑張ってくれたらそれでいいと思うよ」
僕の意見は聞いてもらえないんだろうけど、この三人の中で僕を奪い合っているのが少しだけモテている気がして嬉しかった。
「あの、お姉さんも赤い目をしているんですか?」
「私のお姉ちゃんは赤い目じゃないよ」
「じゃあ、先輩だけ赤い目なんですか?」
「私の目が赤い? どういうこと?」
少女の姿は鏡にも映らないようで、自分の目が赤い事に気付いていないようだった。
「お姉ちゃんは優秀な魔法使いだからきっと治してくれるはず。お兄さんも困ったことがあったらお姉ちゃんを頼っていいんだからね」
アイカさんとミズキさんが僕の事を心配そうに見つめていたのだけれど、少女も少しだけ不安そうに僕を見つめていた。
「お兄ちゃんは思い出してくれないみたいだから言うけど、私の事忘れているのかな?」
少女は僕の頬を両手で掴んで顔を近付けてきた。
間近で顔を見ると、どこか見覚えのあるような気がしていて、遠い記憶をたどっていくと一人の女性に似ているような気がしてきた。
目の色も身長も何もかも違うはずなのに、僕は思わず名前を呼んでいた。
「アリス?」
少女は満面の笑みを浮かべて僕に抱き着いていた。
「思い出してくれて嬉しいよ。私はずっとお兄ちゃんを探していたんだからね」
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