12

「仁科、ちゃんと飲んでる?食べてる?」


いつの間にか戻ってきた宗田くんが、私を覗きこんで言う。

一応お菓子をちまちまと食べてましたよ。

しゃべる相手もいないのでね。


「仁科はさ、可愛いんだからもっと笑いなよ?」


宗田くんの言葉に、私は嬉しい気持ちと胸に刺さる気持ちが入り交じって、複雑な気分になった。


私だって笑えるなら笑いたいよ。

可憐ちゃんみたいに愛想よくなりたいし。


黒歴史である過去の恋愛が未だに私の心を蝕んでいて、何だか上手く笑えないんだ。


「そうですよ!真知さん眼鏡取るとめっちゃ可愛いんですよね。私、外したとこ見たことありますもん。黒ぶちメガネで隠しちゃって、もったいないです。」


男性陣に囲まれていた可憐ちゃんが、突然会話に加わってくる。


「そうなんだ。仁科さん、メガネ取ってみてよ。」


可憐ちゃんがこちらの会話に加わったことで、可憐ちゃんの取り巻きたちが一斉にこちらを見て言う。

今まで空気のような存在だった私が、一気に表舞台へ立たされた。


「えっ、嫌です。」


拒否したのに、ほろ酔いの可憐ちゃんにすっとメガネを外される。


「ほら、真知さん。」

「えっ、ちょっ、」


とたんに、恥ずかしさが込み上げてくる。

メガネで素顔を隠していたのに、何てことをしてくれるんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る