第47話 現場調査 終
「黒幕は、魔王……」
魔王アーノルド・ルートリンゲン、あっちの世界でその名を知らない者はいない。「早く寝ないと、魔王がやってくるぞ」と子供達を寝かしつける際に使われる程有名な存在だ。
もちろん、戦闘奴隷だった俺も知っている。
「うーうー」
辰巳さんの呻き声が聞こえ、彼の元へ近づき口に貼られていたガムテープを剥がし、椅子に括り付けられたロープを力任せに引きちぎる。
「辰巳さん、大丈夫ですか?」
「ふぅふぅ……助かりました! まさかこんな事になるなんて……」
「無事で何よりです!」
辰巳さんは、立ち上がり呆然として座り込んでいる村長の両肩を掴む。
「山田! お前は何て事を企んでいたんだ! この村を活気のある村にしたいって、お年寄りが最期の最期まで笑って過ごせる村にするのが夢だって昔から言ってたじゃないか!」
「くくく、そんな事、本気で信じてたのか? んなわけないだろ? 何で俺がこんな先のない村にそんな事をしなくちゃいけないんだ?」
村長は何か人間味のない不気味な表情を俺達に向ける。
「お、お前……」
「この村の村長になったのも、金の為だよ。俺さ、実は借金まみれでよ、タイミング良く親父が死んでくれた事で俺が跡を就いて親父の遺産で借金を返して、後は好き勝手に贅沢な生活を送ろうと思っていたんだ。だが、実際に蓋を開けてみれば、親父は飲み屋の女に金を使い込んで借金まみれで首が回らない、しかも村の金にも手を出していやがった!」
親子揃ってクズだな……。
「絶望したよ、借金取りは俺を殺す勢いだし、返そうとも当てはないし……そんな時に奴が、リオリルが現れたんだ。そして、奴と取引をした。人体実験の場を与える代わりに、借金問題を解決してくれると! 服部、お前が灰にした奴等は俺と親父の借金を取り立てに来たチンピラ共だ」
「ちっ、村の人にしては人相が悪いと思ってたんだ。そう言うことか……」
「次の段階は年寄りの溜め込んでいる金を巻き上げる事だったんだが、お前達のせいで失敗だよ! クソッ! もう少しで上手くいくハズだったのに! 余計なことしやがって!」
村長は俺達に向けて悪態をつく。
「別に俺達のせいじゃないだろ、全部自業自得じゃないか? お前が最初から借金何かしなければ良かったんだ。責任を擦りつけるんじゃねぇ!」
「うっせーな! そんな事は分かってんだよ! クソッ! クソッ! クソォォッ!」
村長は、叫びながらひたすら壁を蹴る。
「見てらんねーな。お前は然るべき場所で裁かれてもらう」
そんな俺の言葉に「嫌だね」と言いながら村長は懐から拳銃を取り出した。
「や、山田! お前、何でそんなものを!」
辰巳さんは狼狽えながら、村長を咎める様な口調で叫ぶ。
「借金取りが持ってたから拝借したのさ、まさかこんなに早く使う時が来るなんてな……」
村長は銃口を辰巳さんに向ける。
「辞めとけ、そんな物は俺には通じない」
俺に銃は効かない、もし、辰巳さんに銃弾が放たれても俺に掛かれば簡単に対処できる。
「いつ、お前らに使うと言ったよ?」
パーン! バタッ!
「おい、マジかよ!」
「やまだっ!」
村長は俺達に向けた銃口を自分のこめかみに当て引き金を引いた。
恐らく即死だろう、倒れた村長はビクとも動かなかった。
「バカ野郎がッ!」
辰巳さんは、動かなくなった村長の亡骸を抱え罵りつつも涙を流していた。
◇
俺は美也子さんに連絡をして事の顛末を報告した。
美也子さんは、俺の報告を黙って聞き、報告が終わると「ご苦労だった、人を送る」と俺に告げて電話を切った。
『憑依者』関連の案件のため、警察沙汰にはならないのだろう。数時間後にスーツ姿の数名の男達が現れ、俺達はその場をその人達に預け、辰巳さんの祖母の家へと戻った。
「咲太君、お疲れ。美也ちゃんから聞いたよ。大変だったね」
海さんが俺達を出迎えてくれる。
「いえ、俺は何も……」
海さんはそれ以上何も言わなかった。
俺達は、その日、辰巳さんの祖母の家に泊まる事にした。
夕食を用意してもらったが、ご飯の味はしなかった。恐らく辰巳さんも同じだろう。
それから、風呂に入って早々に布団に潜り込んだ。今日という日を一秒でも早く終わらせたかったんだ。だけど、外が明るくなっても俺は眠る事ができなかった。
どうせ眠れないのならと思い、外に出て身体を動かす。
「おはようございます。精が出ますね」
背後から声がしたので振り返ると辰巳さんが立っていた。
「おはようございます! 何か中々眠れなくて、身体動かしていたら何か嫌な事を忘れられる気がして」
「私も全然眠れませんでした。少し世間話でもしませんか?」
俺は、断る理由もないので「はい」と言って頷いた。
「山田とは小学校の時から一緒でした。私は両親を幼い頃に亡くして、東京からこの家に引き取られたのです。山田はこの村でも代々村長を任せている家のせがれで、ここら辺のガキ大将みたいな奴だったんです。私が転校してきたばかりの時は、土地柄か他所から来た事で周りから避けられていて誰も口を利いてくれなかったんです。辛かったですよ、両親を亡くしたばかりで辛いのに誰も相手をしてくれないんですから」
当時の事を思い出しているのか、辰巳さんの表情は少し暗い感じがした。
辰巳さんの話は続く。
「そんな中、僕の事を救ってくれたのが山田なんです。「お前東京から来たって? すげぇな! 話聞かせてくれよ!」
彼が私を救ってくれた言葉です。
それから、高校まで彼とは一緒でした。彼はいつも私にこの村の村長になったら自分がここを都会にするだとか、若者が離れられないくらい楽しい場所にするだとか、年寄りがその命が尽きるまで笑って過ごせる素晴らしい故郷にするんだとこの村の将来について彼の夢を語ってくれました」
「残念です。そんな彼が……」
「えぇ。ただ、彼のあの時の言葉は決して嘘ではなかったと思います。彼のあのキラキラと希望に満ち溢れていた瞳は……。高校を卒業して進学の為に都会に出て彼とは別れたのですが、そこで変わってしまったんでしょうね」
俺はただその彼の言葉に耳を傾けるしかなかった。
「一晩寝ずに考えました。そして、決めました」
辰巳さんは一回言葉を飲み込み、強い決意を込めた顔で、
「私が、この村の村長になって、彼の夢を叶えたいと思います」
「辰巳さん……」
「結局、彼は最後はああなってしまったのですが、この村に対する愛情は本物だったと思います、彼の夢も。だから、私がそれを受け継ぎたいと思います!」
辰巳さんの言葉に熱を感じる。
「辰巳さんの覚悟は分かりました。俺に手伝える事があったらいつでも連絡して下さい! 飛んできますので! 」
「ははは、ありがとうございます! 助けてもらってばかりで申し訳ないですが……頼りにしています! ちゃんと私にも恩返しさせてくださいね?」
「何を言ってるんですか? 寝床とご飯で相殺です! あはは」
「まったく、貴方という人は! ははは」
俺と辰巳さんは二人で大声で笑いあった。
その後に、辰巳さんの祖母が用意してくれた朝食は格別に旨かった!
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