第43話 現場調査④

「咲太君!」


 森の切れ目を抜けて道路に出ると海さんが車を停めて待っていた。


「あれ? 海さん? 何でここが分かったんですか?」

 

 なんで俺が出てくる所が分かったんだろ?


「あぁ~これだよ」


 そう言って、海さんは俺にスマホの液晶を向ける。そこには、地図が映っており赤い点が点滅していた。


「なんですか? これ?」

「この赤い点が咲太君。これは恵美ちゃんが作ってくれた六課専用のGPSアプリで、これでみんなの居場所が分かるんだ。咲太君も後で入れておくといいよ」

「いや……それって、プライバシーの侵害じゃ……」

「あはは。それも含めての契約だよ? まぁ、その代わり必要最低限で使用するのが暗黙のルールだけどね」

「はは……そうなんですね」


 みんなの良心を信じる事にしよう。

 あれ? そう言えば……星さんは?


「海さん、ここら辺で男の人を見ませんでしたか? 星辰巳さんって言うんですけど」

「いや? 見てないよ。ここで待っている間、車が数台通り過ぎた位だけど。その星さんがどうしたの?」

「『憑依者』に襲われているところを助けて、俺が周辺の捜査をしている間、海さんと合流して貰おうと思ったんですが、見当たらなくて」

「そうなんだね。でも、会ってないんだよね」

「そうですか……。まぁ、ここら辺の人のようでしたので、家に帰ったかもですね」

「そうかもね。それにしても早速『憑依者』に出会うなんてさすがだね」


 さすがって……俺は『憑依者』ホイホイか何かですか!!


「たまたまですよ。そろそろ、移動しませんか? 星さんがいたのを見ると少し行くと人里に出るんじゃないんですかね?」

「そうだね。近くに手森村っていう村があるよ。僕達の目的地でもあるね。出発しようか」

 

 俺と海さんは車に乗り込む。


「まったく君は。割り箸を未だに握り締めているなんて」


「え? あ……」右手に視線を移すと俺は割り箸を握ったままだった。

「ほら、食べかけだったでしょ?」


 海さんは俺の食べかけの弁当を手渡してくれた。


「あ、ありがとうございます!」

「その代わりこぼさないようにね? こぼしたらお仕置きだからね?」


 海さんのお仕置きって……怖いから聞けない!


「ははは……気をつけます」


 俺は、米粒一つ落とさないように細心の注意を払って弁当を平らげた。



 手森村に辿りつくまでにそこまで時間は掛からなかった。

 青々と生い茂った稲が天に向かって伸びている田んぼが辺り一面に敷き詰められたのどかな農村を俺達はゆっくりと進んで行った。

 所々に流れている小川の、その透き通った水の流れに一瞬心を奪われそうになる。


「いい所ですね! 川の水も凄く透き通ってて、あんなのテレビでしか見た事ないです!」

「そうだね。老後は、こういう所で余生を満喫したいよね~」


 先ほど『憑依者』の首を吹き飛ばしたとは思えないほど、俺は海さんとほのぼのとした会話を交えながら情報収集のため村役場に向かった。


 村役場についた俺達は、受付で村長との面談を要請するのだが、思ったよりすんなりと応接室に通された。


「村長の山田はすぐに参りますので、お掛けになってお待ち下さい」


 受付の女性はそう言って、俺達の前にお茶を置いて退室する。


「案外すんなりと通されるもんなんですね?」

「そんな訳ないじゃん。小さい村だとしても、その村の代表だよ? 事前にこっちから連絡を入れていたのさ、課長の名でね」


 おぉ! さすが国家権力!


「それと、実際に被害が出てるんだから、村長としても早く解決したいんだろうね。無償で相談に乗ると言ったら食いついてきたよ。ふふふ」


「そ、そうなんですね……」と海さんの黒い笑みに少し引き気味になる。


 コンコンコンと小刻み良くドアをノックする音が聞こえ、一拍置いて「失礼します」と声がしたと同時にドアが開かれた。


 そこに現れたのは、三十路手前のスラッとした好青年だった。

 俺と海さんはソファーから立ち上がる。


「手森村村長の山田と申します」


 そう言って、村長は俺と海さんと名刺交換をする。俺も名刺作って貰ってたんだよね。


「どうぞ、お掛けになって下さい」

「「はい」」

「本日は遠路はるばるご足労いただき、ありがとうございます」

「いえ、こちらこそ。ご多忙の中お時間をいただき、ありがとうございます」


 俺は、海さんの言葉に合わせてペコッと頭を下げる。

 もっと年配の人を想像していたけど、想像以上に若い村長さんだな…


「あの……私の顔に何か?」

「咲太君、人様の顔をじっと見るなんて失礼だよ?」

「あ、すみません! その、想像していたより若い村長さんだなと」

「あはは。正直な方ですね。正直この村は年配の方が多くて、少しでも若い力をこの村に、と思って立候補したのですよ」


 山田さんは、爽やかな顔で俺にそう答えた。


「では、早速本題に入りましょう。ここ数週間、農家で飼っている家畜や山の中の野生動物が何かに食い散らかっているという事件が多数発生しています。当初は、熊か何かが人里に下りてきて、と思ったのですが、あの動画………を見て違うモノが犯人だと分かったのです」

「僕達はコレの存在を知っています。実は、つい先程、森の中でコレに襲われていたこの村の住人らしき男性をここにいる服部が助けました」

「なんと!? そうなんですか?」

「えぇ、その男性の名前は星辰巳さんと言ってました」


「辰巳がですか!?」と村長は驚いた様子で腰掛けていたソファーから立ち上がった。どうやら顔見知りらしい。


「お知り合いですか?」

「小学校から高校までクラスメートで友人です。まぁ、子供が少ないためクラスが1つなので、同年代はみんなクラスメートですけどね、あはは。

 そうですか……辰巳を。服部さん、友人を助けていただき、ありがとうございました。祖母の面倒を見るために戻ってきたので、もし、何かあったら辰巳自身も辰巳の祖母も浮かばれない」

「そうだったんですね。ただ、一緒に村に行こうと思ったのですが途中で居なくなってしまって」

「そうですか、祖母が心配で急いで戻ったかも知れませんね。そうだ、もしよろしければ、このあと彼の家に寄ってみてはいかがでしょうか? 住所渡しますので」

「助かります」

「彼が戻ってきてくれて嬉しいですよ。ただでさえ若い住民がすくないので」


 俺達と村長はその半刻ほど面談を続け、帰り際に星さんの住所をもらい村役場をあとにした。

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