第18話
しばらくしてリモは目を開けた。
母親は消えていた。
遠くで轟音が聞こえる。
リモは崖にこびり付くように残った空中庭園のテラスの残骸に引っかかるようにいた。
空中庭園は完全に崩落していた。
(陛下は?)
リモは周囲を見回す。崖下を見るとリモの動きが止まった。
目を凝らす。
リモは空中庭園のテラスから飛び降りた。
(どうか。ご無事で!)
器用に崖を飛び移っていく。
◆
旗艦カールの第二マストが吹き飛んだ。
「ヘンリク! 砲撃だ! 敵は何処だ!」
「分かりません! マレクはガレキ同然です! 反撃できるとは思えません!」
「何処だ! 何処から狙って……」
パーシバルは周囲を見回す。
バキンッ!! 大きな音がした。
気付くとヘンリクが消えていた。
ヘンリクが居た辺りの甲板に穴が開いていた。甲板の端はささくれ立っておりものすごい力で垂直方向に穴が穿たれた事が分かった。
パーシバルは恐る恐る穴を覗く。穴は船内部を何処までも続いている。
暗い穴の底でこちらを見上げている男の顔が見えた。
片手が鉄製の義手の大きな男だった。
男は甲板の穴から這いあがってきた。
「奴だ!」
パーシバルは思わず逃げた。
義手の男は甲板に上がると近くの大砲を義手で殴る。殴った瞬間に、銃声と共に義手が数十センチ前方に撃ち出されるようにスライドした。そして義手に設けられた小さな穴から白い煙と共に薬莢が飛ぶ。
「鋼鉄の義手のルガーだ! 生きてたのか!」
大砲が海へ落ちる音がした。
(甲板に義手の男がいる! 殺せ!)
パーシバルの命令で甲板上のエルフの兵たちが剣を抜いて切りかかる。後方では銃に弾を込め狙いを定めるエルフの兵も数人いた。
だがルガーはお構いなしだった。
剣で切られ、銃弾を撃ち込まれても構わず大砲を海へ撃ち落としていく。旗艦カールの甲板の大砲が次々と海へ落とされていく。
(魔法使い共! 甲板だ! 出てこい! 甲板に敵だ! )パーシバルはテレフォノで命令する。
ルガーは構わず、甲板の上の大砲を海に叩き落としていく。
最期の大砲を海に落とすと、ルガーは息をついた。肩には斧がめり込み、腹にも何本も剣が突き刺さっていた。
黒いローブを纏った魔法使い達がキャビンから甲板に出てきた。
ルガーと対峙する。
「回復魔法で治療してくれるようには見えねぇな」
ルガーは笑った。
◆
リモは教会前広場の石畳に降り立った。
すぐに広場に横たわっているザイログを抱き起す。
(陛下! ご無事ですか!)
「ったり……めぇよ。これしき……ガハッ! ゴボッ!」
ザイログは口から血だまりを吐き出す。
(ギャラハット先生の所へ運びます。)
リモはザイログを背中に担いだ。長身のリモに担がれたザイログは子供のようだった。
「ゴボッ! ゴボッ! 戦況は……? 」
(大丈夫です。後はルガーがやってくれます)
◆
ドーーーーーン! という大きな爆発音がして船が揺れた。
パーシバルは船の縁に掴まる。
「今度は何だ!」
すぐ近くで宙に黒いドクロが浮いて見えた。
「何だ、あれは」パーシバルは目を疑う。
ぶっちがいの骨と黒いドクロ。海賊のマークだった。
海賊のマークはまるではためいているように見えた。
「しまった! 船の姿も消していたか!」
何もないように見えた場所にいきなり帆船が現れた。
帆船は旗艦カールの真横に横づけされている。帆船は船体もマストも白く塗られていた。ただ一か所白い帆布に染め抜かれた黒いドクロを除いて。
純白の海賊船は至近距離からカールに向けて砲を放つ。パーシバルの足元でバキバキという破壊音が響く。
ひとしきり砲撃が終わると白い船体から、髭面の汚い男達がわらわらと出てきた。男達は手にマスケット銃を持ち、腰に斧や蛮刀を下げている。
カール号に乗り移ってきた。
先頭に船長帽を被ったひげ面の男がいた。嵐の夜にルガーとリモが捕まえた海賊の船長だった。
「てめぇら! ルガーの旦那を援護しろ! 掛かれ!」
海賊の船長が叫ぶと手下たちはエルフの兵や魔法使い達に襲い掛かった。
陸で戦えば海賊達に勝ち目を無かった。だがここは船上。海賊達のホームグラウンドだった。船の揺れを巧みに利用して海賊はエルフ達は次々と討ち取っていく。
魔法使いは辺り構わず火球を放つ。
火球がルガーに命中する直前、海賊の一人がエルフの兵の死体を盾にしてルガーを守る。死体は蒸発するように消えた。
ルガーは何も無かったように走る。
走る度に傷口からグチャッグチャッという音がする。
ルガーの視界の端で魔法使いの頭に斧が命中するのが見えた。
ルガーはメインマストの根元にパーシバルを追い詰めた。
パーシバルの襟元を掴んで吊し上げる。
「降伏しろ! 兵を引け! 」ルガーが言った。
「おっと待て待て」パーシバルはそう言うと袖口に隠していた小型のフリントロック式の拳銃を取り出しざまに撃った。
ガンッ!
弾はルガーの目に命中して後頭部から抜けていった。
ルガーはパーシバルの頭のすぐ上に鋼鉄のパンチを放つ。
「くそっ!! やっぱり! 人狼か」
「よくもマレクを……王都を……滅茶苦茶にしてくれたな!!」
旗艦カールのシンボルである深紅に塗られたメインマストがピシッと音を立てる。
ルガーはマストの同じ位置にパンチを何度も繰り出す。
ガチャリ! ドンッ! メシッ! ガチャリ! ドンッ! メキッ!
何度も、何度もパッチを繰り出す。
鋼鉄の義手の装填音とマストが軋む音が交互に聞こえた。
パーシバルは目を閉じた。木片がバラバラと頭に降り注いでくるからだった。
頭頂部で火を起こされているように熱い。おまけに股間から足元へも熱い液体が滴り落ちていくのを感じた。
残りのエルフガルド艦隊は砲撃を止めて事態を静観していた。旗艦カールに向けておいそれと砲を放つこともできず、やれることは気の利く艦がカールに横づけされた海賊船の後方へ廻るために移動するくらいだった。
雨音の中、ルガーのパンチの音が響く。甲板にルガーの義手から排出された薬莢がカンカンと音を立てて落ちていく。
バキッバキッバキッバキッ!!!
メインマストが悲鳴を上げた。
張り巡らされたロープをちぎり、深紅に塗られたメインマストがゆっくりと倒れていく。
マストと帆布は海に浸かった。エルフガルドの紋章入りの帆布が海に広がっていく。
「降伏しろ!!」
「し……しまふ……」
それだけ言うとパーシバルは足元の水たまりの中へたり込んだ。
その後パーシバルはテレフォノで降伏を宣言。
エルフガルド艦隊のマストに白旗が翻った。
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