第88話 言い出しっぺ


 それから数日。


 ホームルームが続いた。


 案は出なかった。


 最終手段。


 セレクトボタン。


 文句封殺のくじ引きになった。


 各々が、やりたい催し物を紙に書き、委員長がクジを引く。


 引いた案件に絶対服従。


 で、


「演劇シンデレラ?」


 折った紙を開いて読む委員長。


 ガツン。私が、机に、額から落っこちた。一応匿名なので、わからないだろうけども、私の案だ。まさかの一本釣り。


「シンデレラ……」


 在る意味、成り上がり恋愛モノの原点。


 その意味で、『文化』ではあろう。


 適当に書いただけなんだけどね。


「では、うちのクラスの出し物はシンデレラの演劇という事で」


「マジ?」


「ガチ?」


「本気?」


 まぁそうなるよね。


 今更、高校生にも成ってシンデレラは。いや、私も引き当てられるとは思ってもみなかったわけで……。


「皆さん頑張っていきましょう」


 委員長は鉄の心臓らしかった。


「となると……」


 しばし考える。


「配役。制作。脚本の執筆。総監督……」


 たしかに演劇なら必要だけどさ。


「ではまず生徒会に提出して、色を見ますので」




 ――とのことで、数日後。




「案件通りました」


 委員長は、見事、出し物を通過させた。


 さすが。


「では各々の役割を決めて行きたいのですけど……」


 デスヨネー。


「まずは脚本ですね。だれか書ける人はいますか?」


 沈黙。


「自薦、他薦、問いませんよ?」


「はい」


 と私が挙手。


「やってくれますか?」


 まぁ言い出しっぺだし。


 匿名だけど。それにしても厄介事に愛されているのは私らしいというのか……何なのか……?


「他薦です」


「誰でしょう?」


「日高先生とかどうでしょう?」


「拙ですか?」


 軽やかにウィンク。


 正確には、凜ちゃんの背後にいるお兄ちゃんだ。シナリオライター。その有用性を論じるならばどう考えてもマストだ。


 私から頼むと、角が立つ。


 その意味するところを、凜ちゃんが把握しないはずもなく。


「いいですよ」


 安請け合いしてくださった。さすがの凜ちゃんクオリティ。こっちの一を十で捉えるのだから舌を巻く。


「では脚本は日高先生に任せて……総監督を必要としますが……」


 これは演劇部の女子が、部長に頼んでくれる事になった。


 後は配役と制作だ。


 私は全くやる気無し。


 小道具造りでも、と思っている。


 まず真っ先に、配役が決められた。


「王子役が誰か?」


 との命題に、多くの女子が、あげつらう。


「小生ですか?」


 金子かねこ五十鈴いすずだ。


 紅茶色の髪の美男子。


 ――なるほど。


 王子役にはピッタリだ。


「是非」


「王子役見たい」


「ちょっと萌え」


 そんな女子の黄色い声。


 男子も反対は出来ないらしい。実際のところ五十鈴がイケメンなのは、今に始まった事でもない。


「ではシンデレラ役は」


 となると、


「「「「「はいはい!」」」」」


 女子がこぞって主張した。


「いいですか?」


 と五十鈴も挙手。


「なんでしょう?」


「他薦したいのですけど」


「リクエストがあると?」


「はい」


 あ。


 スッゲー……ヤな予感。


「小生を王子役にするなら」


 なら、


「シンデレラは……有栖川さんで」


 でしょうよ。


 いや、悪意が無いのは分かるけどさ。それはちょっと横暴じゃございませんか?


 実際にシンデレラって……モブが晴れ舞台に立つ……あれ? そうすると陰キャの私にピッタリなんですか?


 少し勘案する。


「シンデレラが……有栖川さん……」


 司会進行の委員長が困惑する。


 ま、普通に考えればそうだよね。

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