第290話 拉致

 

明けましておめでとうございます!

2021年も宜しくお願い致します。

新年一発目の投稿です。

それではお楽しみください。どうぞ!

(2021/1/1 作者:クローン人間)


=============================


 親龍祭八日目の朝―――それは突然の出来事だった。


 バーンッ!


「やっほー! 来ちゃった!」


 ノックも無しに壊れそうな勢いで扉を開け、まるで彼氏の家に突撃した彼女のような可愛らしい声を出した美人の女性。

 人懐っこい笑顔を浮かべて、全員が呆気に取られている間にズカズカと室内に入ってきた。

 垂れたウサミミがゆっさゆっさとご機嫌に揺れ、エロスを感じる腰の辺りにぴょこんと生えたウサギの尻尾がぴょこぴょこ動いている。


「みんなおっはよー!」

「「「「「 ………… 」」」」」


 俺、ジャスミン、リリアーネ、エリカ、ヒースの五人は彼女のテンションについて行けずに無言。あんぐりと口を開けて固まっている。

 彼女は納得いかなかったのか、太陽のような眩しく輝く笑顔でもう一回挨拶。


「みんなぁ~! おっはよぉー!」

「「「「「 お、おはようございます…… 」」」」」


 ハッと我に返った俺たちは一斉に美女に朝の挨拶。しかし、彼女はまだ納得しない。


「元気ないね~! もっと元気に! おっはよぉ~!」

「「「「「 おはようございます! 」」」」」


 うむ、よろしい、と美女は腰に手を当て満足げな表情。頷く動作で巨乳がバインと跳ねる。

 女性陣の目が美女の胸に釘付けに。そして、フェアリア皇国組がジトーッと俺を呆れた眼差しで見つめる。また女か、と言いたげな表情。

 俺はブンブンと首を横に振って否定する。


「ち、違うからな! 絶対に違うからな!」

「……本当ですか、シラン様?」

「……女性関係について旦那様は信用できません。諦めてはいますけれど……」

「この人は絶対に違うから!」

「シランちゃんったら私とは遊びだったの? 何度も一緒にお風呂に入った仲じゃん! ぶちゅーって濃厚なキスをして、一緒のベッドで抱き合って寝たのに、酷い! ウサギは寂しいと泣いちゃうんだよ」


 パッチリ二重と長い睫毛に縁取られた綺麗な瞳がウルウルと潤み、びえーん、とわざとらしい泣き真似をするウサミミ美女。ジト目が酷くなる妖精の二人。

 二人に見えない角度でニンマリと美女の口が笑っている。

 俺は頭を抱えて深いため息をついた。


「揶揄うのもいい加減にしてくださいよ……」

「だって楽しいんだもん! でも、実際のことだよ?」

「俺が覚えてないくらい昔のことを言われても困ります!」

「うぅ……シランちゃんはあんなに可愛かったのに、こんなに可愛い女の子とイチャラブするくらい大きくなっちゃって……」


 隙あり、とウサミミ美女の姿が掻き消える。次の瞬間には、油断していたジャスミンとリリアーネの背後に出現し、二人を抱き寄せ頬擦りし始める。


「はぅ! なんて可愛い子なの! さっすがシランちゃん! 見る目あるね!」

「ちょっ……!」

「あ、あの……!」


 ジャスミンとリリアーネは勢いに気圧されて何もできない。思う存分頬擦りすると、また姿が掻き消え、今度はエリカとヒースを抱きしめていた。

 豊満な胸に二人の顔が埋まっている。


「あぁもう可愛い! ねぇねぇ! 夜の生活のほうはどう? シランちゃんはすっごいって噂を聞いたんだけど、どれくらいすごい? 教えて教えて!」


 朝から下ネタを繰り出し、興味津々で夜の生活を聞き出そうとする。目は血走り、鼻息が荒い。

 誰かこの美女をどうにかして、と全員が心の中で願ったその時、救世主が現れる。



「―――朝っぱらから盛って他人に迷惑をかけるんじゃないよ、このバカウサギ!」



 ゴッチーン!



「みぎゃっ!?」


 頭が割れそうな音が響き渡り、ウサミミ美女が床をのたうち回る。

 ウサミミ美女に全力の拳骨を叩き込んだのは、これまた美女だった、豊満な胸を持つ見た目は四十代くらいの威厳を漂わせた美しい女性。ちなみに、お肌は二十代前半くらいにピッチピチ。

 室内に勢いよく飛び込んできた彼女は、勢いそのままでウサミミ頭に拳を叩き込んだのだ。

 あれは痛いだろう。そして何故か、全ての動きが熟練していた。何十年も磨き上げられた技のように。


「くぅぉぉおおおおおおおおおー! 頭が割れるぅー!」

「割れちまいな!」

「カルちゃん酷い!?」


 ギャーギャーと言い争う美女二人。勢いに呑まれて俺たちはどうしたらいいのかわからない。

 その時、三人目の美しい声が響きわたる。


「二人が申し訳ありませんね。うるさいでしょう?」

「うおっ!? 一体いつの間に?」

「結構前からです」


 いつの間にかソファに座って優雅に読書をしていた三人目の女性。

 女性陣も誰も気づいていなかった様子。俺と同時にビクッと身体を震わせてビックリしていた。


「ポンペイア、カルプルニア。そろそろやめなさい」

「ちょうどお仕置きが終わったとこさね」

「むぐぅ~! ふぐぅ~!」


 ぷっくらと頭に大きなたんこぶを作ったウサミミ美女、ポンペイアお婆様が、縄で全身グルグル巻きにされている。口には猿轡。縄の先はもう一人の美女、カルプルニアお婆様が握っている。


「すまないね、コレがうるさくして」

「ふがぁ~!」

「お黙り!」

「きゅぅ……」


 カルプルニアお婆様の一喝でしょんぼりとするポンペイアお婆様。コルネリアお婆様は慣れた様子で一瞥すらせずに本を読み続けている。

 厳しい表情を浮かべていたカルプルニアお婆様が、ふっと表情を和らげた。優しい笑みだ。


「ジャスミンは何度も顔を合わせているが、他の三人は昨夜一度だけ会ったくらいだったね。改めて自己紹介を。私は、ドラゴニア王国先代国王カエサル・ドラゴニアの妻のカルプルニア」

「同じくコルネリアです」

「そして、コレがポンペイアさね」

「ふきゅっ!」


 コレ扱いされたポンペイアお婆様は縛られたままでチョコンとウインクする。全く反省している様子はない。

 ……これで元第一王妃なんだぞ。いろいろな意味ですごいよな……。

 ハッと我に返った女性陣は立ち上がって優雅に一礼。


「ご、ご挨拶が遅れました。フェアリア皇国皇王オベイロン・フェアリアの娘、ヒース・フェアリアと申します」

「フェアリア皇国大公家セロシア・ウィスプの娘、エリカ・ウィスプと申します」

「ドラゴニア王国公爵家ストリクト・ヴェリタスの娘、リリアーネと申します」

「お久しぶりです、ポンペイア様、カルプルニア様、コルネリア様。ジャスミン・グロリアです」


 身分の高い順に挨拶。唯一お婆様と交流があるジャスミンだけ多少崩した挨拶だ。ジャスミン以外の三人は緊張気味。

 三人のお婆様たちは満足げな表情で、うんうん、と頷いている。


「良い子たちですね、貴女たちなら問題ないでしょう」

「こんなお馬鹿なウサギやエロ猿がいると大変だからねぇ」

「でも、シランちゃんはエロ猿の血を受け継いでいそうだけどね! ところで、お馬鹿なウサギって誰のこと?」

「アンタさね!」


 うきゅ、と可愛らしく首をかしげるポンペイアお婆様……一体いつの間に縄から抜け出したんだ。全然気づかなかったぞ。


「突然押しかけてごめんね~! 女子会が楽しみすぎて迎えに来ちゃった! さあさあ! 性欲旺盛なえっちい伴侶を持つ者同士、えっろい猥談で盛り上がろっ! そして、私たちが長年培った男を喜ばせる技術テクを教えちゃうぞ! キャハッ!」

「……コル」

「は~い。《水蛇》」

「もががっ!? もががががっ!?」


 頭を抱えたカルプルニアお婆様の呟きにコルネリアお婆様が応える。コルネリアお婆様は慣れた様子で立てた人差し指を一振り。

 魔法が発動し、水でできた数匹の蛇がカルプルニアお婆様の豊満な身体を縛り上げる。

 バランスを崩したお婆様は、ビッターンと床に倒れ込んだ。

 うわぁ……痛そう。顔面をぶつけなかったか? 大丈夫?

 えぇ、とドン引きする俺たち。心配もせず、どうでもよさげに無視するお婆様二人。


「というわけさね。私たちも楽しみにしてたのさ。バカウサギは待ちきれなかったみたいだが」

「少し早いですが、女子会を始めませんか?」

「「「「 は、はい! 」」」」


 カチコチとぎこちない動きで着替えなど準備を始めようとする女性陣。その動きを防ぐ人物がいた。

 鼻が少し赤くなったウサギの美女、ポンペイアお婆様だ。鼻が赤いのは床でぶつけたせいだろう。

 ……って、一体いつの間に!?


「別に準備をする必要はないって! そのままで十分だよぉ~! 私の私室でするんだし、ほらほらレッツゴォ~!」

「えっ?」

「あ、あれっ?」


 フェアリア皇国組のヒースとエリカは腕を組まれて引っ張られる。二人が呆然としている間にポンペイアお婆様に連れられて部屋を出て行った。


「私たちも行きますよ」

「えっ? あ、はい!」


 同じく、いつの間にかコルネリアお婆様に腕を組まれて、リリアーネも連れ去られる。

 コルネリアお婆様も表には出さないが内心でとても楽しみにしていたのだろう。珍しく強引だった。

 残ったカルプルニアお婆様は頭を抱えている。


「はぁ……すまないね」

「あはは。お婆様たちらしいですね。賑やかです」

「あれはうるさいって言うんだよ。はぁ……シラン、彼女たちを借りて行くよ」

「はい」

「それじゃあジャスミン。私たちも行くさね」

「はい。シラン、行って来るわね」

「おう。行ってらっしゃい。楽しんでなー!」


 苦労人のお婆様はジャスミンを連れて部屋を出ていく。

 あれだけ騒がしかった部屋の中は彼女たちが出て行った途端、とても静かで寂しく感じる。

 なんだろう、この孤独感は。


「女性陣はしばらく戻って来ないし、屋敷に帰ろうかな……」


 寂しくなった俺は独り言をぼそりと呟いた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る