第233話 約束の履行
「「「「 きゃー! かわいいー! 」」」」
女性陣の黄色い歓声。猫耳幼女のセレネちゃんを婚約者たちが可愛がっている。
デレッデレの蕩けた笑顔。それでもなお、とても美しいのは反則だ。流石美女たち。
ジャスミンとリリアーネは普段から可愛がっているにも関わらずこの有様。セレネちゃん恐るべし。老若男女問わず誑かす魔性の女。将来が不安だ。
「あまり甘やかしてはいけませんよ」
苦笑しながら優しく注意するのはセレネちゃんの母親であるテイアさん。寂しげに眺めていた俺の隣にいつの間にか寄り添っていた。
そっか。セレネちゃんが成長したら、見た目はテイアさんみたいになるのか。あとは性格次第。ちゃんと育てればセレネちゃんが魔性の女にならなくて済む。
多分大丈夫だろう。テイアさんは厳しいときはとことん厳しいから。あとは俺たちが甘やかしすぎなければ……。
それはそうと、一つだけ気になることがある。
「テイアさん」
「はい、なんですか、シランさん」
「距離が近くありません?」
「そうですか?」
ピトッと肌が触れ合っているんだけど、テイアさんは気にならないのか?
出会った頃は痩せていた彼女も、今はほとんど体重が戻ったらしい。健康体だ。やせ細っていたテイアさんの身体にふっくらと肉がつき、一児の母とは思えないしなやかな体つきが服の上からわかる。
あと、予想以上に大きな胸。
俺も男だからドキドキするんだぞ! 察してくれ!
「これくらい普通ですよ」
テイアさんが嫌がっていないのならまあいいか。
って、うおっ!? びっくりしたぁ。手にそわっと何かが触れたと思ったら、テイアさんの尻尾だった。
楽しそうにクスクス笑わないで欲しい。テイアさんって意外と悪戯っぽいというか茶目っ気たっぷりなんだから。
今度尻尾や耳を撫でまわして揉みしだいてモフモフしてやろうかっ!?
「セレネちゃんみたいな子供が欲しいなぁ……」
「わかります、その気持ち。シラン様、頑張りましょうね」
「シラン様! 私も私も!」
「姫様にはまだ早いです。その前に私が旦那様とのお子を身籠らせていただきます」
おっと。婚約者たちの期待の眼差しが熱い。一人ほど
俺だってセレネちゃんみたいな子供が欲しい。
頑張りましょうね。これは運なので。
「私もあと何人か欲しいですね。セレネもお姉ちゃんになりたいでしょうし」
「みゅっ!? セレネもお姉ちゃんになる!」
テイアさんまで……。お相手は誰かいるのだろうか? テイアさんと俺との関係はあくまで雇用主と従業員。テイアさんのプライベートは自由なので。
まさか相手は俺とか言わないよね? 流石にそれは自信過剰か。
「レナもおねえたんになる!」
「そっか。レナちゃんもお姉ちゃんになるか……って、レナちゃん!?」
いつの間にか俺の手を握っていたのはもう一人の癒しの天使のレナちゃんだった。にぱぁっとニコニコ笑顔を浮かべている。てっきりセレネちゃんかと思った。
そうだよね。セレネちゃんは女性陣に抱っこされてるよね。でも、レナちゃんはどこからやって来たんだ?
「「「「 きゃー! 」」」」
レナちゃんの姿が掻き消えた。女性陣によって即座に捕獲されてしまったのだ。レナちゃんは大丈夫だろうか。
二人の幼女が頬擦りされている。迷惑ならお姉ちゃんたちを拒否しても良いんだぞ。
「なあ、女誑しの兄ちゃん」
「なんだ?」
「女が増えてないか?」
「ヒースとエリカか? フェアリア皇国の女性だからな……って、いつの間に!?」
またもや俺は驚いた。気配を消した孤児院のちびっ子たちが周囲に集まって女性陣を眺めていた。
俺を見上げる瞳には、呆れと蔑みの光が宿っている。
そんな目で俺を見るなぁ! 心に響くから。ひびが入ってしまうからぁ。
「ついさっきだぞ。レナを追いかけてきた」
「いきなり走ると思ったら兄ちゃん目当てか。こんな女誑しのどこが良いんだか」
「子供の話をしてるし……爆発しやがれハーレム野郎!」
ごめんな。ちびっ子たちに聞かせる話じゃなかったよな。孤児院のちびっ子たちはヒース以上にませてるけど。
「なにしてるんだ、こんなところで?」
「何言ってんだ兄ちゃん。オレたちクッキー売ってるのを忘れたのか?」
「あそこで売ってるぞー」
あっ、本当だ。孤児院たちがクッキーを売っているエリアに来ていたらしい。全然気づかなかった。
見た感じ繁盛しているようだ。この子たちはたぶん休憩中。
孤児院の出し物には俺も関わっている。材料などを調達したり、伝手を使っていろいろ便宜したのだ。
「買うよな? 絶対に買うだろ? 買え!」
「おいコラ。命令口調は止めろ。まあ買うけど」
「「「 まいどありー! 」」」
グイグイと引っ張って売り場に案内される。俺たちを特別扱いすることなく、ちゃんと列の最後に並ばせるのがちびっ子たちらしい。順番を守れってことだ。
女性陣は天使の二人に夢中。俺は休憩中のちびっ子たちの相手をしていると、すぐに順番が回ってきた。店員は孤児院の女の子だ。
「いらっしゃいませーって、お兄ちゃんか。ソノラお姉ちゃんのところには行かないの? 今日コンテストだよ」
「知ってる。まだ時間があるから先にこっちに寄ったんだ。繁盛してるか?」
「ぼちぼちかな。クッキーは何人分?」
俺と婚約者が四人と親子。計七人かな。
「七人分お願い」
「はーい。お会計は……」
「えっ? 約束したよな? 無料で献上してくれるって。覚えてる?」
「お兄ちゃんこそ覚えてる? ちゃんと思い出して。私たちはお兄ちゃんの一袋分だけ無料であげるって言ったの。お姉ちゃんたちの分はちゃんと支払ってもらいます。六人分ね」
ビシッと小さな手を差し出してお金を要求してくる女の子。
そうだった。思い出した。俺の分は無料の約束をしたけど、女性陣の分まで無料とは約束していない。
ちゃっかりしてるなぁ。抜け目がない。
俺は女性陣の代金を六人分支払うのだった。
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