第192話 呪われた魔女

 

 大量の水が包み、雷撃が貫き、氷に閉じ込め、風が斬り裂き、炎が燃やし、土が押し潰す。閃光が煌めき、熱と光と神聖な力が闇の穢れを祓う。

 しかし、髑髏スカル呪魂カースは倒れない。憎悪を増して、力が強くなる。ダメージを与えれば与えるほど強くなるモンスター。実に厄介だ。

 極大の魔法で怯んでいる隙に、俺は剣で斬りかかる。

 直接触れてはダメだ。身体を構成する呪いの闇が纏わりつき、引きずり込もうとしてくるからだ。

 黒い骨はとても硬い。だから、闇を斬り裂く。ゴムを斬るような感触。そして、呪いが剣すら侵食して呑みこもうとする。大量の手が伸びてくる。気持ち悪い。

 肩の関節の部分を斬り裂いた。巨大な骨の腕が落下する。


「おいおい。再生するのかよ……」


 肩や腕から闇が噴きだし、浮き上がって癒着していく。斬り裂いても無駄らしい。もう嫌になる。

 俺は剣を仕舞い、巨大な棍棒を取り出した。勢いよく振りぬき、髑髏スカル呪魂カースの巨体をぶっ飛ばす。壁に激突して、土煙で見えなくなった。

 その隙に、俺はアルスのところに戻る。


「魔法も物理攻撃も効きが悪いですね」

「どうやって倒すの?」

「さあ? ちまちま攻撃するしかないですね。普通の髑髏スカルなら消し飛ばせる威力で攻撃したのですが、あの通りピンピンしてます」

「うっそぉ……」


 壁に激突していた髑髏スカル呪魂カースはあまりダメージを受けていないようだ。ムカデのように壁に張りついている。大量の足でダメージを分散させたのだろう。

 眼窩に広がる闇が俺たちの姿を捉え、魔法を放ってくる。やはり狙いはアルスのようだ。


「……アルストリアさん。本当に何もしてませんよね?」


 俺は魔法を防ぎながら、仮面の下で赤い髪の女性にジト目を向ける。


「だ~か~ら~! 何もしてないってばぁ~!」

「おっと。来ますよ。集中してください」


 巨体なのに素早い動きで迫りくる髑髏スカル呪魂カース。俺は地面を蹴って飛び上がり、棍棒で上からぶん殴る。

 髑髏スカル呪魂カースは即座に巨大な手で防御をした。衝撃で地面がクレーター状に罅が入る。


「コイツ、ダメージを受け流しやがった! 不味い!」


 俺の攻撃を受け止めたのは右手。左手は、もう既に攻撃に移行していた。巨大な黒い骨が横から迫りくる。

 間に合わない!

 咄嗟に腕で防御をする。しかし、巨大な手だ。ナイフのように鋭利な指が、俺の腕を呪いながら斬り裂き、俺はあっさりと弾き飛ばされた。


「ぐはっ!?」


 痛い。壁にめり込んだ。パキッと何かが割れる音がした。骨折でもしたのだろう。全身が痛い。でも、休んでいる暇はない。髑髏スカル呪魂カースが悲鳴を上げているアルスに迫っている。

 俺は壁を蹴り、棍棒で髑髏スカル呪魂カースを殴り飛ばした。


「大丈夫ですか、アルストリアさん」

「え、ええ。大丈夫だけど、貴方は? って、腕が!?」


 腕? おぉ! 片腕の肘から先が無くなっている。血がドバドバ出ている。

 なるほど。道理で激痛を感じていたわけだ。アドレナリンが分泌されているから、思ったほど痛くはないけど。

 斬り裂かれた腕は……髑髏スカル呪魂カースの闇に喰われたか。仕方がない。生やそう。

 俺は魔法を発動させたり、使い魔の力を借りたりして、瞬時に手を再生させる。

 瞬く間に再生した腕を見て、アルスが紅榴石ガーネットの目を見開き、軽くドン引きしている。


「ねえ、貴方人間?」

「失礼な。ちゃんとした人間です」

「普通の人間は腕なんか生えないんだけど」

「……私は人間です」

「今、一瞬だけ間があったんだけど」

「気のせいです」


 自分でも少し疑ってしまったではないか。俺は人間のはず。

 今はそんなことを考えている時ではない。髑髏スカル呪魂カースの巨体が起き上がる。相変わらず気持ち悪い動き。足が人間の腕や手の骨だから余計に。


「受け身を取りましたか」

「受け身? モンスターが?」

「ええ、他にも衝撃を受け流したり、あの髑髏スカルは明らかに戦闘慣れしています」

「でも、ここはダンジョンだよね? そんなに戦闘慣れする? ボスモンスターだし」


 そう。それが問題なのだ。アイツは何故か戦闘経験が豊富なのだ。

 戦闘を繰り返し、憎悪を募らせ、呪魂カースに進化したのかもしれない。でも、ここはダンジョンのボス部屋なのだ。

 ふと、アルスが何かを思い出す。


「そう言えば、シャルさんが言ってなかった? ダンジョンの入り口の監視員が殺されたって」

「犯人は捕まっていない……まさか、この髑髏スカルは!?」

「可能性はゼロじゃないよね?」

「ええ、あり得ますね」


 犯人がダンジョン内で死んで、不死者アンデッドモンスターとして蘇る。ダンジョンは魔力が豊富だから、モンスター化する可能性はある。ダンジョン内を彷徨い、モンスターを殺して、憎悪を溜めて進化する。

 不思議空間のダンジョンで起きないとは言えない。この場所で絶対無いとは言い切れない。


「例えそうだとしても、攻略法は見つかっていないんですけどね」

「だよねー。あのさ、コアを壊せないの?」

「壊したら倒せるかもしれませんが、今の仮説が正しいのなら、この髑髏スカルはダンジョンが自ら作り出したモンスターではありません。アイテムがドロップしない可能性があります」

「なにそれ。コアを壊したら髑髏スカルの心臓が手に入らないかもってこと? 絶対に壊しちゃダメだからね!」

「わかってますよ」


 難易度が跳ね上がったな。

 んっ? ちょっと待てよ。コアを壊しても、解呪するアイテムは俺が持ってるよね? 世界樹の果実とか不死鳥の涙とか。なら、壊してもよくね?

 まあ、一応依頼だから、それは最終手段にしておこう。

 髑髏スカル呪魂カースはまだ元気そうだ。カタカタと骨の音が響き、不気味な囁き声が聞こえる。闇に浮かぶ顔が叫んでいる。

 俺は両手を髑髏スカル呪魂カースに向けた。片手は漆黒の、もう片方は純白の光が宿る。それを一気に放出した。


「《混沌の衝撃カオス・ブレイク》」

「きゃぁあああああああ!?」


 背後からアルスの悲鳴が上がった。吹き飛ばされないように俺の身体にしがみつく。視界が目もくらむ純白と漆黒に染まった。でも、髑髏スカル呪魂カースの気配は消えない。

 続けて、空中に巨大な塊を二つ出現させた。


「《太陽よザ・サン》! 《月よザ・ムーン》!」


 灼熱に燃える黄金の太陽と冷たく凍える銀色の月だ。太陽と月が輝きながら、ゆっくりと一つになった。一瞬だけ、灼熱と極寒の衝撃波が吹き荒れた。


「《エクリプス》」

「いやぁあああああああ! 熱い! 冷たい!」


 髑髏スカル呪魂カースとは違う美しい漆黒の球体に、骨の巨体が呑み込まれた。中で髑髏スカル呪魂カースが暴れているが、全て蝕の球体が吸収する。


「《溶岩の巨角杭ラーヴァ・ステイク》」

「あっつ!? 熱い熱い熱ーい!」


 地面から燃え滾るオレンジ色の溶岩の杭が何本も飛び出し、蝕の球体ごと髑髏スカル呪魂カースの身体を貫く。溶岩が体の内側から焼き尽くす。


「《夜の女神ニュクス》」

「えっ? 何も見えない! 真っ暗!?」


 世界が闇に包まれた。何も見えなくなったアルスが悲鳴をあげる。

 俺は一人、闇の中を歩き、死を凝縮して作り出した巨大な大鎌を一閃した。

 闇が晴れると、身体を両断され、真っ二つになって倒れ伏した髑髏スカル呪魂カースがいた。まだ完全に倒してはいない。でも、明らかに弱っている。


「……倒したの? やった」


 視界が戻り、目をパチパチと瞬かせて、アルスが安堵の息を吐いた。

 その油断した一瞬の隙に、髑髏スカル呪魂カースが反撃を仕掛けた。

 体を構成する闇が噴きだし、大量の手となって殺到する。

 攻撃のためにアルスの傍を離れたのが仇になった。大鎌で闇を斬り裂きながら、懸命にアルスの下に向かおうとする。でも、間に合わない。


「アルスッ! 逃げろ!」

「きゃぁあああああああ!?」

「アルスッ!?」


 闇の手がアルスの手足を掴み上げ、空中に固定する。そして、彼女の腹部から、ドロッとした闇が溢れ出した。


「えっ? 呪いが勝手に……あぁぁあああああああああああああ!?」


 抑え込んでいた呪いが活性化し、アルスが苦痛の叫びを上げる。


「いやぁぁああああああああああああああ!?」


 磔にされ、呪いの痛みに悶え苦しむアルスを、闇の手が押し寄せて、包み込んだ。















<シリアスな雰囲気がぶっ壊れます。雰囲気に浸りたい方は、しばらく以下を読むのはお控えください>












===============================

黒「フフフ。夜の女神ダッテ。ウフフ……」

作「今日の『徹〇の部屋』ではなく『乙女の部屋』のゲストは、嬉しそうにニヤニヤしているニュクスさんです!」

黒「こんにチハー! 出番が少ないニュクスデース!」

作「前回もたくさん感想が寄せられ、読者様は察しておられましたね。収拾がつかなくなったと。その通りでございます! これからもヒロインが増える予定なので、どうしようかと悩んでいます!」

黒「感想の返信が遅れてごめんなサイ。馬鹿な作者に代わって謝罪いたしマス」

作「この『乙女の部屋』では、補足だったり、キャラが雑談するコーナーにしたいと思います。さて、まずはシランが考えついた髑髏の正体、これは間違いです!」

黒「読者様にはお分かりだと思いますが、第175話に出てきた人たちが、ギルドの監視者を殺し、中に鍛えたモンスターを放り込んだだけデス」

作「そして、赤を狙う理由、それは痛めつけた人の特徴だったからです! 詳しくは175話を!」

黒「描写したほうがわかりやすいので、2020年5月30日に加筆したそうデスヨ」

作「親龍祭に候補となる人物たちが集まります。予想してみてくださいね!」

黒「そう言えば、173話で運び屋が錬金術師メイカと言っていましたが、何故メイカなのか気づきましタカ? これも175話に出ていマスヨ。メイカは本当の名前ではありまセン」

作「今回はこんな感じですかね。ニュクスさん、最後に一言!」

黒「あの~、出来れば、ワタシが上様に痛みを与えられているシーンを……」

作「ありがとうございましたー! 次回のゲストは残念皇女と有能メイドを予定しておりまーす! お楽しみに!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る