第107話 骸の黒姫
「ご主人様!?」
「待て、ソラ!」
突き飛ばされた俺の身体を庇い、手に白銀の光を集めて
怪我はない。それに、
『ウグッ…ガッ!』
「何だ!? 何が起こっている!?」
『熱イ…身体が熱イ……何かガ………湧き上がっテ…』
外部からの魔力は感じない。彼女の内側から力が膨れ上がっている。まるで自分の身体を作り変えているよう。
これはまさか―――
「進化か!?」
魔物の進化。一定の条件を満たすと魔物は上位種に進化する。進化先は魔物自体や周囲の環境によって変わる。その進化が今
「そうでした。忘れていました。
俺たちが
『キャハッ! キャハハハハ!』
狂気と歓喜を孕んだ笑い声が響き渡る。しかし、すぐに苦悶に満ちたうめき声に変わる。
『くっ……ガッ! お、お願い……ワタシを殺シテ!』
黒い炎の瞳を燃やしながら、必死に懇願してくる。
『キャハ! これ以上意識が…保てそうにないノ…キャハハ! 意識が引っ張られル…だからお願イ! ワタシを殺シテ!』
キャハハハハ、と無意識に笑い続ける。進化することで、魔物の破壊衝動が自我を飲み込み始めているらしい。
「ソラ。どうにかならないのか?」
「助ける方法は一つ。お嫌いでしょうが無理やり契約を行ってください。彼女の衝動は余分な力のせいです」
契約してできた繋がりを通じて、余分な力を俺が引き受ければいいってことだな。簡単だ。
無理やりは嫌いだが、今回は仕方がない。俺が気に入ったんだ。彼女はなんとしても助ける。
その前に、万が一の対策もしておこう。
「イル! 力を貸してくれ!」
『なんだ、
俺の傍に幼女のような老女のような不思議な女性が顕現する。コロコロと姿が変わる女性だ。
「すまん! 彼女の心を守ってくれ」
『んっ? リッチの
『ふむ。契約か? ならば良かろう。主様の寵愛を受け、
「ありがと。よし! やるぞ!」
イルが両手を向け、
そして、俺は契約の魔法陣を敷く。魔法陣が光り、
普通なら、お互いの同意がなければ契約はできない。物凄い抵抗と拒絶だ。
でも、今回は膨大な魔力で無理やり契約を施す。
『ウガァッ…!?』
『案ずるな。受け入れろ』
イルが囁く。
苦しみに悶える
契約の魔法陣が輝く。後は最後の仕上げだ。
「っ!」
俺は自分の指を軽く斬り裂いた。血か少し溢れ出す。光り輝く魔法陣に一滴垂らした。
魔法陣が赤い光をあげる。赤い鎖が飛び出し、俺と
新たな使い魔が加わった感覚が訪れる。契約完了だ!
それと同時に膨大な魔力が俺の中に流れ込んでくる。彼女の痛みも苦しみも悲痛な叫びも伝わってくる。
『
『で、デモ…』
『安心しろ。主様が守ってくれる』
『わ、わかっタ』
黒い炎の瞳が俺を見つめた。進化に必要な力のみを吸い取り、昇華して、必要ない余分な力は俺が引き受ける。
突如、激しい黒い光が放たれた。夜のような美しい黒い輝きだ。闇の輝き。
矛盾してるけど、そうとしか言い表せない。
黒い光が収まった。進化が終わったのだ。次第に靄が晴れていく。
進化が無事に終わり、宙に浮かんでいた彼女の身体がゆっくりと舞い降りてくる。
『くくくっ。少し操ってみた』
イルが楽しそうにクスクスと笑う。
操る? 一体どういうことだろう、と思ったら、すぐにその理由がわかった。
日光に全く当たったことが無い不健康そうな青白い肌。揺れる長い黒い髪。形の良いお尻に、徐々に見える可愛い胸のふくらみ。薄い茂った秘密の花園。
宙から降ってくる
イルの仕業だ。全く。なんてことをしてくれるんだ!? けしからん! 全くもってけしからん!
俺はゆっくりと降ってきた彼女の身体をお姫様抱っこをして抱きあげる。
目を閉じている彼女は、幼さを感じるが、とても美しい顔立ちをしていた。
「やあ。大丈夫かい?」
目を瞑っていた少女の瞼がゆっくりと開いた。美しい黒色の瞳だ。その夜のような美しい黒い輝きに、俺は思わず見惚れてしまう。
パチパチと目を瞬かせて、じっと俺の顔を見つめた。
「フェッ!?」
「おはよう。
「オ、
黒髪の少女はキョトンと首をかしげた。意味が分からないらしい。そう言えば、記憶はないって言っていたな。名前も付けないと。
「今日から君は俺の使い魔になった。よろしく頼むよ、
「は、はいデス! そ、その…よろしくお願いシマス! そして、助けてくださってありがとうございマシタ!」
「気にしないでいい。俺が君を気に入った。ただそれだけ。俺の我儘だ。使い魔になっても強制することはないから、好きに過ごしてくれ」
「………」
「あれっ? どうした?」
腕の中の少女が固まったまま動かない。自分の身体をじっと見つめ続けている。
何度か声をかけてやっと我に返った。進化の後遺症か?
彼女の青白い顔が徐々に真っ赤に染まっていく。
「は、裸…」
「裸? それがどうした?」
美しい艶やかな黒髪の少女が、
「なんでワタシは裸なんデスカァァァアアアア! いやぁぁああアアアア! 見ないでぇぇええええエエエエ!」
パシィィイイイイイン、と小気味良い音が響き渡り、俺の頬に灼熱の痛みが迸った。真っ赤な紅葉の跡がくっきりと残る。
俺は頬の痛みに耐え、進化して
状況が混沌だ。カオスだ。
「えっち! 変態! スケベ! いやぁぁああアアアア!」
再び、パシィィイイイイイン、という音が響き渡り、反対の頬にも灼熱の痛みを感じた。
うぅ…いちゃい…。頬が痛い。とても痛いです。
でも、実に眼福でした。ありがとう!
最後は締まらなかったけれど、俺は新たな使い魔と契約し、ローザの街を襲っていた《
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