第421話 冒険者



あ、そういえば自分の成長につながるもの。

後で考えれば、どんな困難も絶妙のタイミングで用意されている自分の課題だという話を聞いたことがある。


その時にはなんで自分だけと思うが、自分が成長して振り替えると、奇跡と思えるようなことがたくさんあるという話だ。

あの嫁は俺にとっての課題なのかもしれない。

だからこそ今の俺があるのか?

あの嫁がいなければ、今のこの俺はない。

だがなぁ・・だからといって、感謝の気持ちは今のところ1ミリも起こって来ない。

俺がまだまだ成長できていないだけか?

俺は片手を天井に向けて拳を握る。

そんなことを大人はみんなわからなくなるのかな。

いや、それを自覚しないように周りに文句を言っているんだな、そう思う。


俺は軽く目を閉じる。

今さら嫁に対する感情はない。

そう客観的に自分を見ると、腹立たしさも起こって来ないが、今さら一緒には生活はできそうにもない。

関係を切ることは簡単にできる。

だが、それを切ってしまったらダメなんだろうな。

そんな気がする。

そのモヤモヤを持ち続けることが俺の成長につながり、全体として高い次元に行けるのではないだろうか。

・・・

わからない。

俺の頭の中にはいろんなことが浮かんでくる。

楽しいことよりも、嫁に言われたショックなシーンが無音映画のように流れる。

うぅ・・やっぱ、あのクソ嫁、ダメだな。

とりあえずは、今のような形で生きていくしかないだろうと。

ま、結論なんて最後までわからないが、今のままでいい。

俺はそう思うと眠っていたようだ。

・・・・

・・

時間は6時。

かなり寝たんじゃないか?


俺にしては寝過ごした感じだ。

洗面所へ行き顔を洗い、リビングでコーヒーを淹れる。

家のドアをノックする音が聞こえる。

コンコン・・。

ドアを開けてみると、フレイアが立っていた。

「おはよう、テツ」

フレイアがにっこりとして言う。

うぉ、眩しいぞフレイア。

「お、おはよう、フレイア」

俺は挨拶をしてフレイアを中へ入れた。


「どうしたんだ、フレイア」

俺はコーヒーを飲みながら聞いてみる。

「うん、テツがまたどこかに行ったんじゃないかって思って・・」

フレイアがソワソワしながら言う。

「すまないな、フレイア。 もうどこにもいかないよ。 これからもよろしくな、相棒」

俺はそう言ってフレイアの両手をギュッと握る。

フレイアがまっすぐに俺を見て、涙をボロボロ流していた。

「・・うっぅ・・うん。 うん・・」

その後、フレイアをなだめるのに少し時間がかかった。


フレイアが教えてくれた。

王宮やギルドでは邪神王の撃退後の処理作業で忙しそうな感じだという。

1週間くらいはギルドも火急の用以外は事務処理に向けるようだ。

それに、王宮からは俺たちに褒賞があるという話もある。

なるほど。

昨日、俺はそのまま帰って寝たのでわからなかったからな。

・・・・

・・

「テツ、それでこれからはどうするの?」

フレイアが聞いてくる。


俺は思っていたことを伝えてみた。

邪神王の復活の時にあった聖櫃というか遺跡というか、建物。

あの衝撃でも吹き飛ばされていなかった。

それにまさか山の中にあんなものがあったとは驚きだ。

昔から霊山と言われているくらいだから、何かあるのかも、くらいにしか思っていなかった。

アニム王に当初言ったように、まずは剣山の遺跡を見てみたい。


「あぁ、俺はまだまだ世界を知らない。 それに邪神王の復活のところにあった遺跡みたいなもの、あれの調査もしたい。 また、魔族や精霊族、他の街なども回って回ってしてみたいね。 後、ゼロにもお礼にいかなきゃな」

俺がそう答えると、フレイアが笑いながら言う。

「フフ、テツは冒険者というわけね」


冒険者・・やっぱりいい響きだな。

俺がその言葉を頭で繰り返していると、フレイアが俺を見つめて言う。

「テツ、邪神王の中にいたときなんだけど。 テツの気持ちが手に取るようにわかったわ」

俺はドキッとした。

フレイアは続ける。

「テツが私を大切に思ってくれているんだって感じた。 うれしかった、本当に。 でも、テツって何か欠けてる感じもしたの。 それが気になって・・」

フレイアが寂しそうな顔で俺を見る。

「欠けているか・・そうかもしれないな。 俺には人間性が欠けているんだろうな」

俺の言葉にフレイアが首を振って言う。

「ううん、違うの。 私の言葉が悪かったわ。 その欠けている感じ、その・・その欠けたところに、私ではダメかな?」

フレイアが下を向いてモジモジしている。


おい、フレイア。

その仕草、グッジョブ!!

いや、そんなこと考えるから欠けてるのだろうな。

「フレイア・・ありがとう。 それよりも、既にフレイアは俺の中にしっかりとはまっているよ」

フレイアがパッと顔を上げて俺を見つめる。

「ほんと? テツ、ほんとに? もう1度言って!」

フレイアが言う。

「・・あのね、そんな恥ずかしい台詞、繰り返せるわけないだろ」

俺がそう言っても、フレイアは俺の手をギュッと握って見つめたままだ。


Help me!!

だ、誰か!!

俺の心の声が聞こえたのかどうかわからないが、ドアをノックする音が聞こえてきた。

俺の率直な感想・・助かった。

「は、はーい」

俺は返事をしながらドアのところへ行き、開ける。

「おはようございます、テツ様」

ポーネがいた。

ギルド受付以外では見ないが、こうやってみると結構かわいいな。

俺がそう思って見ていると、俺の背後で負の感情が溢れている感じがする。

チラっと見たが、フレイアが黙って椅子に座ってこちらを睨んでいるようだ。

あんた俺の思考が読めるのか?

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