第139話 帝都完成。 後は住人だが・・


「どうだい、テツ。 気に入ってもらえたかな?」

アニム王は疲れた様子もなく話しかけてくれる。

「アニム王・・これだけのものをパッと作ってしまわれるとは・・いや、それよりもすごくきれいな街ですね」

どんな言葉を並べていいのか、俺にはわからない。

「まぁ、基本を作っただけだがね。 後は、住んでくれる人が建物などを増設、改築してくれればいいのだが・・」

・・・

アニム王、住人が来るのかどうか不安なんだな。

俺はアニム王の寂しそうな笑顔を横に見ていた。


「ルナ、本当にありがとう。 素晴らしいダンジョンだよ。 前の帝都でも、あれほどのダンジョンは持っていなかった」

「気にするな」

ルナは微笑みながら答える。

「それにしても、いい街ができたな」

ルナも街を眺めて言う。


「アニム王、ダンジョンってそれほど必要なのですか?」

俺は聞いてみた。

作る前にもダンジョンのことを言っていたからな。

「テツ、この星では魔素を利用しないからわからないだろうね。 魔素の循環、供給源というか、そういう役目を果たすのだよ」

「魔素の供給源ですか・・」

俺はただオウム返しに答えた。


「そうだね・・ダンジョンには階層に応じて魔物が現れ、深い階層ほどレベルが高い魔物が存在する。 魔素が濃くなるからだ。 そして、自然界に存在している魔素などをダンジョンが取り込み魔物を作っている。 その魔物を狩ると魔石が取れる。 まぁ、簡単に言えばそんなシステムだが、魔素の循環維持には必要なわけだ。 魔素が地上などで溜まり過ぎると魔物の暴走などが起きる可能性があるからね。 それに魔石などはいろいろ使えるだろ? そういった供給源になるのだよ」

アニム王は言う。

「なるほど・・」

「それで、ルナにダンジョンを作ってもらうと、60階層もあるダンジョンができたんだ。 深いところの階層には、濃い魔素が溜まるから貴重な魔石も取れるようになるだろう」

アニム王は本当にうれしそうだ。

ルナも喜んでいる。


「以前の帝都では、40階層クラスのダンジョンしかなかったからね。 とはいえ、それでもすごいのだけれど・・ルナ、本当にありがとう」

「アニム、だから気にするなと言っている」

ルナも笑いながら答えていた。


しかし、あの山・・見た目にはそれほど高くない山なんだが。

俺がジッと山を見つめていると、アニム王がそれに気づいたようだ。

「どうしたんだい、テツ」

「いえ、あの山に60階層もあるダンジョンが入っているのかと思うと、どういった規模になるのかなと考えていました」

俺はそう答える。


「テツ、ダンジョンはいわば異空間につながっていると言えば、わかりやすいかな。 拡張空間ともいえるけど・・」

「異空間・・」

俺も納得した。

「それに各階層はとても広く設定されていて、どこかに次の階層に行く入り口が設定されているはずだ。 冒険者や兵士の訓練によく使われているからね。 まぁ、命の危険は伴うけど・・」

・・・

アニム王・・命の危険ってサラッと言ったよね。


アニム王はすぐに顔を引き締めて前を向いた。

「後は、住人だが・・」

目線を落とす。

俺も言葉をかけづらい。

「アニム王、すみません。 私が勝手な妄想で変な発言をしてしまって・・」

もしかして、俺が住人は転移する場所がないから、神のアイテムボックスか何かで保管されているんじゃないだろうか、などと言ったから・・。


「テツ、気にすることはないよ。 どのみち、私が住むところはそのうちに作ろうと思っていたところだからね」

俺はアニム王を見つつも、こんな素晴らしい都市ならどんな感じの街だったのだろうと思ってもみた。

「アニム王、帝都というのはどんな感じの街だったのですか?」

「帝都は・・いいところだったよ」


アニム王が少しだが、自分のいた帝都のことを話してくれた。

地球でいうような内燃機関は存在しない。

すべて魔法で動く機関で活動している。

移動方法は、変な話だが個人の身体能力によるものだという。

転移システムもあったらしく、遠くへ行く時や物を運ぶ時などには利用していたようだ。

宇宙航行システムも完成されていて、恒星間の旅行なんかもあったという。

すごいな。

星の外へ出る以外には、大きな乗り物を必要ともしない。

街並みも、今見ているような整然とした街並みで、いろんな人種が行き交うにぎやかな街だったようだ。

住人もそれぞれルールを守り、セキュリティも厳格に機能していたという。


聞いていて、俺の気になったのは税システムだ。

現金はアニム王の国ではほとんどやり取りがなかったみたいだ。

個人個人にライセンスカードが付与されて、すべてではないが行動が記録される。

そして、国民はどんなものでも、やり取りがあれば、その6割を国が税として持っていく。

4割がその人の個人の純粋な収入になるという。

俺がそこで、それでは少なすぎるんじゃ・・と突っ込むと、続きがあった。


税として取られた6割から、国が運営するために6割ほどを回収。

残りをすべての国民に分配するのだそうだ。

だから、お金を稼げば稼ぐほど収入は増えるし、それほど稼がなくても基本的に収入はある。

自分の好きなことをして安心して暮らしていけるというわけだ。

どこかの国に教えてやりたいと思ったほどだが、取り入れるには長い時間がかかるだろうな。

・・・

・・

そんないろんなことを、珍しくアニム王が話してくれた。

結構な時間が経過したんじゃないかと思ったが、1時間くらいしか経過していなかった。

ルナたちも面白そうに聞いてくれていた。


「そうですか・・とてもいいところですね」

俺の言葉にアニム王は寂しそうに笑う。

すると、塔のある方向からザワザワとする雰囲気を感じる。

!!

「魔物か?」

そう思って俺が索敵をしようとする前に、アニム王が否定した。

「ダンジョンがあるところでは、氾濫でも起きない限り魔物が地上に来ることはないよ。 それに街に結界を作っているからね。 魔物は入って来れないよ」

そんなものまで設置していたのか。

さすがだなアニム王。


「しかし、あの方向は神殿の・・」

そうアニム王が言葉を発していたら、人がゾロゾロと見えだした。

!!!

「・・あ、あぁ・・・」

アニム王は震えながら人の出てくる方向を見ている。

そして、とても嬉しそうな顔をして涙を流していた。

それで俺は理解した。

アニム王の国民なのだろうと。

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