第163話 戸塚師騎対リンドウ・クロ ③

 瞬時の攻防。


 カウンター

 

 師騎の拳には打ち抜いた感覚が宿った。


 完璧と言いきれるタイミング。打ち抜いた箇所は顎。

 

 リンドウが、どれほどの耐久力を有してもダウンは免れないだろう。


 事実、リンドウは下半身が消滅したかのように腰から落ちていく。


 だから、気づかなかった。 


 リンドウの目にハッキリとした意識が残っている事を――――


 立ち関節。 師騎の腕にリンドウの腕が絡み付いていく。 


 その技は脇固め。

 

 固定された腕が素早く上に伸ばされれば、靭帯を痛めかねない。


 さらにうつ伏せに倒されれば、脱出は不可能な関節技となる。

 

 師騎は技から逃れるために前に飛ぶ。そのまま、空中で回転すれば脇固めは極らない。


 だが、仰向けに倒れた師騎。その腕を持つリンドウ。


 次の関節技へ一方的に移行できるのはリンドウだ。

 狙いは腕十字固め。

 

 師騎は腕を伸ばされるのを防ぐため、腕と腕を強く組む。

 

無理やり伸ばそうするリンドウ。


 互いに絡み合い関節を狙い合う寝技の攻防。


 一瞬の隙。 立ち上がろうする師騎。


 だが、先に立ち上がっていたリンドウが膝蹴り(テンカオ)を直撃させた。


 いや、違う。顔面を直撃されたはずの師騎が動き続ける。 


 脚を掴むと捻りを加えてヒールホールド。


 再びヒールホールドの攻防となる。 2回目となればリンドウも容易にエスケープできない。


下から倒され、師騎のヒールホールドが極ると思われていた。


 しかし、倒れたリンドウも師騎の脚を掴み、彼もまたヒールホールドを狙いに行った。


 ギチギチと音が聞こえて来そうな極め合い。

 

 どのくらい膠着時間が経過したのか?


 嫌がり、逃げに転じたのはリンドウだった。

 

 師騎が捻りを加える方向に逆らわず、体を回転させ、踵をロックしている師騎の腕を自由な脚で蹴る。


 ロックが緩む。 ヒールホールドが極らない方向に逃げ続け、関節から逃げきった。


 師騎の技が解かれた。

 

 互いに立ち上がる。 両者から深い疲労が感じられた。


 長時間の寝技は大きくスタミナを消費させる。


 鍛えぬかれた両者ですら、自然と口が開き、肩が上下している。

 

 こういう時は気を付けねばならない。


 普段なら、決定打にならないボディブローでも試合を決めかねない一撃へ変化するのだ。


 足をうまく動かない。


 ――――だが、行く。 師騎は覚悟を決める。


 みれば、リンドウも同じような表情している。


 互いにゆっくりと近づき――――


 打撃勝負。


 足を止め、ディフェンスは最低限。 相手の拳が、顔を擦れて行く。


 何発かは直撃。 意識は失われない……はず。


 記憶は飛んでる。 汗が飛ぶ……その汗は赤い。


 流血、師騎だけではない。いつの間にかリンドウの額も切れている。

 

 それでも止まらない。両者は――――


 だが、それはいつまでも続かなかった。


 互いに集中しているために背後から迫る影に気づかなかったのだ。

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