第127話 見覚えのある男

「うむ……これはカウントもいらんわな」と鈴木会長。


「お主の言う通り、響を貸してやる。強くせよ」


「あぁ、そりゃもう……おたくに儲けさせてやるさ」


「それと――――」


「それと? なんだい?」


「名義貸しと言っても、月謝は払えよ」


「うわぁ、金にがめつい!」


「ふん!」と鈴木会長はドアを開けると、待たせていた練習生たちを中に入れた。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


「それで、お前はどこまで付いてくるつもりだ?」


「え? 聡明さん、今日から僕の師匠でしょ?」


「……今日、何かを教えるという事はないぞ。 お前はダウンしたんだ。頭部のダメージを抜くまで――――」


 そう言いかけて、聡明は言葉を切った。


 近くに荒々しい声が聞こえてくる。


「あれ、喧嘩ですかね? 聡明さん、見学でもしていきますか?」


「いや」と短く答えた。


「はいはい、そうですよね。喧嘩に興味がなさそうですから」


「いや、声の具合……喧嘩ではなく一方的に危害を受けてる――――行く」


「え? 聡明さんってそういうタイプ? 正義感が強いですか? うわぁ、合わないわ」


 そう呟く響を置き去りにして聡明は駆け出そうと――――しかし、それに待ったをかける人物が現れた。


「お久しぶりです、花 聡明さん」


 気配もなく現れた男。しかし、聡明には見覚えが……いや、ある。


 ただ、どこで見たのか思い出せない。


「誰だ?」


「おや、忘れましたか……悲しいですね」


「……」と聡明は無言。 それから、「急ぐので」と背を向ける。


「いやいや、ここは俺たちに任せてください。ほら……」と男は指さした。


 人気のない公園の奥、小柄な少年が、複数人に囲まれている。


 どうやら、カツアゲのようだ。 しかし、それに向かって行く少年がいた。


 少年は、何やら一言、二言、彼等に声をかけた。


 聡明の位置からは聞こえない。 しかし、挑発して激高させた。それだけはわかる。


 こんどは少年自身が、4人に囲まれる事になった。


 1対複数の喧嘩。


 素人なら、まず打開は望めない。 格闘技をやっていても難しい。


 だが少年は、大柄と言えない体で1人目を突き飛ばした。


 そこから見て取れる圧倒的なフィジカル。 まるで重戦車だ。


 殴る―――― 蹴る―――― それでは止められない。


 当たれば弾き飛ばされる。 走っている車に殴りかかっているようなもの……


 あまりにも一方的に4人を倒してみせた少年。 いつの間にか、さっきまで聡明に話しかけていた男が少年の横に移動していた。


 何かを少年に話しかけ、次にカツアゲされていた側の少年に近づいていた。


 




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