第18話 デート②

 彼が自販機に寄って、二人分の飲み物を買い、ベンチに戻る途中に胡桃さんがベンチに腰掛けて座っているところを見て


「もしかして、休憩中ですか?」


「そうですよ」


 彼女の手元には遊園地で販売しているチュロスがある。


「あっ、もしよかったら一口どうです?」


 彼女の食べかけのチュロスの先端を僕に向ける。


「いえ、結構です」


「そこまで警戒しなくても大丈夫ですよ」


 彼女が食べかけではない端の方を手でつまんで、彼に差し出す。


「いや、その……」


「こういうことで記事にはしないので安心してください。なのでこれは私からの気持ちと思って食べてくれればそれでいいです」


 そして、摘んだチュロスの端を彼の手の平に乗せる。


「もし食べたくなければゴミ箱に捨てるなりしてくれて構いませんよ」


 そう言われた彼は、彼女の厚意を無下にはできないと思い、手の平のチュロスのかけらをパクッと食べた。


「どうですか?」


「美味しいです」


「それはよかったです」


 ここの遊園地のチュロスは映画館のチュロスよりもいろんな種類がある。


「気に入ったのなら全部あげますよ」


「それは遠慮しておきます」


 そして、彼女の頭にいつの間にかネコ耳のヘアバンドをつけている。


「そういえば、私の頭につけているヘアバンドには気がつきましたか?」


「はい」


「可愛いですか?」


「可愛いです……」


 いろいろと警戒することはあるが、ここは普通に答えた方がいいのだろう。


 彼女の身につけているネコ耳は、彼女にとって相性がよく、可愛いく見える。


 また、その様子を見れば、胡桃さんは胡桃さんで遊園地を楽しんでいるようだ。けど、密着取材の方は大丈夫なのだろうか?


「胡桃さんは休憩が終わった後も密着取材を続けるんですか?」


「はい、続けますよ」


 やはりまだまだ続けるそうだ。


「もう少し食べてから後を追って行きますね」


「そうですか……」


 彼はここを離れて、彼女のところに向かう。





「もう、今まで何してたの?」


 彼女は帰りの遅い僕にぷんぷんのようだ。


「ごめん、トイレで遅くなっちゃった」


「それならいいけど」


 彼女に買ってきたお茶を渡して再びベンチに座る。


「そろそろお昼の時間だね、どっかの店に寄ってお昼ご飯にする?」


「そうだね、ちょうどお腹空いてきた頃だからね」


「じゃあ、柳木君はどこのお店に行きたい?」


 彼女がカバンから遊園地の地図を取り出し太ももの上に広げて彼女と一緒に見る。


「ここはどうかな?」


 彼が指を指したのは、中華料理屋だ。


「柳木君は中華料理が好きなの?」


「うん、小さい頃からずっと好きだよ」


「ふ〜ん、とりあえずここにしよっか」


 僕達は、ベンチを立ち中華料理屋まで足を運ぶ。そして、歩いている途中にヘアバンドの屋台を目にした彼女は


「あっ忘れてた、一度ここの屋台に寄っていい?」


 彼女が並べてあるヘアバンドを手にして、お会計を済ませてからこっちに戻ると


「どう、似合ってる?」


 買ったイヌ耳のヘアバンドをすぐさま頭につける。


「似合ってるよ」


 そして、彼女が袋からもう一つのヘアバンドを取り出し


「これ、柳木君の分だよ」


 そう言われて渡されたのは、彼女とお揃いのペアルックだ。


「せっかくだからつけてみてよ」


「これを僕が?」


「うん」


 ここは仕方なく彼女に合わせてつけてみることにした。


「……やっぱり変だよね」


 と僕が感想を残している隙に


「すごく可愛い!」


 彼女がスマホで僕の写真を撮っている。


「ちょ、姫菜さん、いきなり写真は……」


 彼女のスマホに自分の手を覆い被さるようにする。


「むー、いいところだったのに」


 プライベートで自分の顔を残すのはなるべく避けたい。


「ならこれでどうだ」


 彼女が連写機能に切り替えて彼の顔を撮る。


「……姫菜さん、僕はもう降参です」


「ふっふっふー、もう降参かね」


「はい……」


「では特別にこの写真を送ろう」


 僕のスマホに届いたのは、遊園地に入ったところで胡桃さんに撮ってもらった写真で、後で送ると言ったものだ。


「これはさっきの」


「私のお気に入りの写真だよ」


 彼女がこれを見て、嬉しそうに眺めているのを思い出す。


「柳木君もこれを見て気に入ってくれるといいな」


 彼はスマホの画面をしばらく目を向けて、その後で彼女の方を見る。


「ありがとう、大事にとっておくよ」


 彼女にお礼を言って


「うん、じゃあ手を繋いで一緒に行こう」


 僕達は再び店を目指して歩き始める。





 そして、中華料理屋に着いて店の中に入り、店員に案内された席に座る。


「中華料理屋に来るのは久しぶりだね」


 彼女は机の上に置かれているメニュー表を取り、一通り見て


「どうしよう……」


 ここの中華料理はどれも四川料理で全てのメニューが辛いの一色だ。


「柳木君って辛いものは食べれる?」


「ある程度なら食べられるよ」


「そっかー」


 彼女がレトルトカレーを食べるときの辛さで例えたら、甘口しか食べられない。なので彼女にとっては厳しいものだ。


 二人はラーメンを選んで、店員に頼んでからしばらく待つと、その料理が机の上に運ばれてくる。


「う、かりゃしょう……」


 一度、目の前のラーメンのスープを一口すする。


「やっぱりかりゃい」


 彼女の口から辛さが広がる。


「もし無理だったら、僕が全部食べようか?」


 彼女が食べられず、お金だけ払っていくのはさすがにまずいと思い。


「後で僕が姫菜さんの頼んだ分まで払うよ」


「ううん大丈夫、最後まで頑張って食べてみる」


 この辛さに対抗して懸命に食べ続ける彼女は、途中で「かりゃい」と言いながらも頑張っている。


 この絵面を見ると、一枚の写真に収めたくなるほどの可愛い一面だ。


 しばらく時間が経つ頃にはようやく麺と具を食べ尽くす。


「あともう少しだね」


「うん」


 最後に残った汁を飲んで完食した。


「お疲れ様」


「頑張って食べたよー」


 僕と彼女は無事食べ終え、ひとまず舌を水で癒しながらここにとどまることにする。





 店を出た後は、彼女と歩きながら地図を見る。


「ここの謎解きゲームなんてすごく面白そうだね」


 遊園地の地図には謎解きゲームがピックアップされている。ここに参加したほとんどの人は解けきれずにタイムアップする程かなり難しいようだ。


「時間内にクリアした人には豪華景品があるみたいだね」


 その豪華景品には旅行券や金券などがある。


「もし旅行券が当たったら二人でどこかに行きたいね」


 そして、会場まで足を運び、受け付けのところまで二人で並んで待つ。


「なんかこうして待っている間もすごく楽しいね」


「うん」


 だんだんと列の前へ進むと、受け付けを担当する係の人に遭遇する。


「では次の方はお入りください」


 その人の指示通りに中へ入ると


「こんなところで会うのは奇遇ですね柳木君」


「胡桃さん?」


「あれ?もしかして写真を撮ってくれたさっきの人?」


 まさかこんなところで彼女と会うとは思わなかった。


「あの、もう少し離れても良かったのではないですか?」


「いえ、せっかくなのでこういうこともいいのではないかと思いまして」


「それだと僕が困ります」


 このままの状態で彼女にバレないか不安。


「けど安心してください、ちゃんとバレないようにはしますから、それに鉢合わせただけなので」


「必然の間違えでは?」


「それよりも時間内に早く解かないと景品がもらえなくなっちゃいますよ」


 彼女がこう言って僕をからかっているように見える。


「分かりました……」


 こうして三人で一緒に謎を解くことにする。





「ここの問題はどう思いますか?」


 何やら変な形をした図形だ。


「うーん、どういう意味なんだろう?」


 二人は頭を悩ませている。


「あ!もしかして、こういうことかな」


 彼は解いた謎を彼女達に説明すると


「うん、たぶんそうだよ」


 彼女達はそれに賛成し、入り口前で渡された紙にその答えを記載する。


「さすがですね、柳木君」


「たまたま気づけただけですよ」


「この調子で頑張れば全部解けそうだね」





 しばらく謎を解き続けること一時間が経って、出口で待っているスタッフに紙を渡す。


 そして、答え合わせが終わりスタッフが紙と景品を手に持って来て


「おめでとうございます、全問正解です。よってこの景品を送らせていただきます」


 渡された景品は旅行券だ。


「すごーい、旅行券をもらえたよ」


 この旅行券は再来年の夏に使えるのだそう。


「でもまだまだ先のようですね」


 この時間はあっという間に夕方の四時を回った。

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