第7話 花言葉

 学校の二時間目の放課後。緑化委員会の仕事で、中庭に咲いているお花に水をあげているときのこと。


 花壇に咲いているお花は、ジャスミン、パンジー、カーネーションといった色とりどりなお花が咲いている。


 僕は本以外にも、こういう自然に触れ合うのが好きということもあり、緑化委員会に立候補した。


 そして、お花にはそれぞれ花言葉がある。例えば、アマリリスなら『おしゃべり』や『内気の美しさ』の意味がある。他にもたくさんのお花たちに、ユーモアな意味が添えられている。


 お花に水をあげている最中、視界の端から綺麗な足取りでここに訪れてくる。


「こんにちは、柳木さん」


 僕の耳もとから、可憐な女の子の声が聞こえた。視界の端から覗くと


「お花に水をあげているんですか?」


 黒髪の美少女がそこに立っていた。「はい」と返事をした僕の隣に彼女が立ち寄る。


「緑化委員会の仕事で花の水やりをしているところだよ」


「そうでしたか」


 彼女は、花壇に植えられている花の方に目を向ける。


「柳木さんは、どんなお花が好きなんですか?」


「うーん……」


 お花に水をあげながら、しばらく考える。


「少し難しかったですか?」


「言われてみると、どんな花が好きなのか考えていなくて」


「そうですね……でしたら、花言葉なんていうものはご存知ですか?」


 彼女は、彼がホースで水を飛ばしている方向と逆の方に視線を変える。


「では、あの花なんてどうでしょう?」


 彼女が指を指す方に彼は目を向ける。


「ストックだね」


「よくご存知なんですね」


 緑化委員会の仕事を通じて、花に触れ合う機会が増えてから興味を持ち始めて、花の名前を覚えたそうだ。


「あの花に込められている意味には、『豊かな愛』や『永遠な愛』があるんです」


「こんな身近に咲いている花には、素敵な意味が込められているんだね」


「はい、私達が普段目にしてないものでも、美しいものが転がっているんです」


 そして、彼は少し思考をする素振りをする。


「何か思いつきましたか?」


「……うん、カンパニュラって言う花なんてどうかな」


 カンパニュラの名前はラテン語の意味する語句に由来し、花の形が釣り鐘に似ているからである。英語では、bell flower だそうだ。


「確か、『感謝』や『誠実』って言う意味が込められていますよね」


「日頃からお世話になっている人に対して、感謝を込める意味では、この花がぴったりかな」


「そうですか、素敵です」


「…ううん、大したことじゃないよ」


 その最中、彼は水やりを終えホースにつながっている蛇口を捻り、水を止め、道具を学校の倉庫にしまうと


 その間彼女は、花壇に咲いているお花を愛おしく見るような目で眺めながら、彼の帰りを待つ。


「緑化委員会の仕事もおもむきがあっていいですね」


「そうだね」


 そして、中庭を後にした二人は教室に向かう。

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