えぴそーど1♡モナ

キーンコーンカーンコーン。

二時間目の終わりを告げるチャイムが鳴る。

「えー、ここは×は省略してくっ付けて書きます。そうするとこれは3×xという意味になるので……」

中途半端な所だったからか、先生は気にせず解説を進める。

「せんせー、もうチャイム鳴ってますけど?」

誰かがそう言うと、みんなが賛同の声を上げる。「はいはい」なんて素直に聞いちゃう先生。

「あ。分からない」

眼鏡がずるりと傾く。そして手からはぽろりとシャーペンが落ちる。コロコロりと机の上を転がり、ノートの谷間で止まった……。



「ふつーあそこで止めるかなぁ?どうせ次の授業では説明端折るんだよ……せっかくなら最後まで終わらせてくれれば良かったのになぁ」

「わはは、モナってほんと理解力無いよね!見た目は眼鏡っ娘で頭良さそ〜なのに」

休み時間。親友の潤(なみだ)ちゃんと水道の前で駄弁っている。これは毎日の日課って感じで、何気に学校に居る間でこの時が一番楽しかったりする。

「何それ嫌味?」

なーんて言っちゃうけど、これも仲良いうちの弄り合いっていうのは重々承知。

「まっさかー」

目を細めてにやりと笑う潤ちゃん。今日も可愛いなぁ……☆

「あ、やっば!そろそろ三時間目始まるよ?」

「次は理科だっけ?教室移動面倒くさいなぁ」

「急ご!」

私達は慌てて教室に走る。「廊下を走るな!」とか注意されたけど、それどころじゃないんだって!

科学の先生怖いから、遅刻したらバチボコに叱られる!


私の名前は、月宮(つきみや)モナカ。よく某お菓子?って言われるけど、両親はそれを意識した訳ではないそう。

性格はちょっと(いやかなり?)馬鹿で、眼鏡を掛けてるからか見た目と中身が一致しないねってよく言われる。特技はクレーンゲームで、家には景品のストラップやアクリルアイス、ぬいぐるみやフィギュアがたんまりと有る。そろそろ断捨離しなさいって怒られてるところなんだ。

頭が悪く鈍臭いのでスポーツと勉強は苦手。特に苦手なのは、数学と国語と英語、それから水泳とバスケ。

「科学は面白いから好きだな」

薬品等が並ぶ棚を眺めていたら不意に口に出ていた。

「月宮!」

すぐさま先生の怒号が飛ぶ。


そして、私の最近の密かな悩みは、「自分には何の取り柄もない」ってこと。

あーあ、私にも何か一つだけでも取り柄があればなぁ……。



「きゃー♡ツツジ先輩かっこいー♡♡」

放課後グラウンドの方を通ると、背後から黄色い声が聞こえてきた。びっくりして振り返ると、フェンスの前に固まる女子生徒達。どうやらバレー部が走り込みをしているみたいだ。

ツツジ先輩かぁ。確か三年生の人だよね、名前は聞いた事ある。バレー部は普段体育館で練習してるんだよね。体育館は危ないから部活の関係者以外は立ち入り禁止みたいだし、ツツジ先輩の練習姿を見られるのはこの時しかないって事だよね。大人気のカッコイイ先輩が練習してたら、そりゃみんな観戦するよね。


「そこのあなたっ!ツツジ先輩ファン倶楽部に入りませんかっ!」

「ひぃ!?」

ずいっと顔を近付けてくる女子生徒。私の眼鏡と彼女の眼鏡がこつりとぶつかる。そのあまりの迫力に、私は後退る。

「今興味深そうに見てましたよね!?会費は無料ですよ、入りましょう」

彼女の分厚いレンズの奥の瞳がきらりと光る。

「いや、その、えっと…………ごめんなさい!」

何故か頭を下げて私は走り去った。

何あれ!宗教の勧誘?うちにもたまに来るけどあんな感じだったよぅ、怖いなぁ……。

「はぁ。」

ツツジ先輩がちょっとだけ羨ましい。私にも何か一つだけ得意な事があったら、あんな風にかっこいいって言ってもらえたのかな。

「クレーンゲームなんかが出来たってなんにもならないよね」

自己嫌悪。


とぼとぼと校庭の端っこを歩いていると、ポケットに鍵が入っていない事に気が付いた。

「あれ?いつもここに入れてるのに……」

まさかどこかに落としたとか!?困ったなぁ、この時間に帰っても家には誰も居ないから家に入れないよ……。

「落し物箱見てみるかぁ」

自分の間抜けさに溜め息を吐いて、私は校舎の中に入った。


中学校に入学して早二ヶ月。もう一年生も部活に入れる時期なので、友達はみんな思い思いの部活に入部している。潤ちゃんだって吹奏楽部に入ったらしくて、この間「モナも吹奏楽部入ったら?先輩達厳しいけど楽しいよ」って誘ってくれた。当然私が楽器なんて弾いたら近隣住民の方々からクレームが殺到するので断った。


ツツジ先輩かっこいいからバレー部入ってみようかな?いやいやスポーツは苦手だし、球技なんて水泳の次に苦手だからだめだなぁ。

じゃあ美術部は?小学生の時図工の先生に苦笑いされたし「画伯だね」って散々弄られて泣いた記憶しかないからナシナシ……。


「あーあ、私にも出来る部活ってないかなぁ、初心者大歓迎って言ってるけど、私が入ったらみんな嫌な顔するんだろうな……ん?」

その時私の目に飛び込んできたのは、他の委員会や生徒会のポスターとはひと味違う蛍光色のポップアップだった。

まるで浮き上がっているかのような立体的な丸文字に、ポップなハートや星柄。そして何より気になるのは、


「『未来部』……?」


その部の名前だった。

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