一回戦

 マッチング結果が発表され、席に着いてプレイマットを敷いて暫くすると対戦相手がやってきました。挨拶を交わし、マリガン(手札入れ替え)を行ってお互い開始の合図を待ちました。


 そして合図が来て、試合が始まります。


 マリガンの時点で相手がレベル1のSG(スパイス・ガール)を落としていたのでCXの一つが門(ゲート)であることはわかりました。そして2種類レベル1対応を入れるデッキは中々存在しないので、これで相手が金塊デッキである可能性はかなり低くなりました。さらに、片方が1の対応ならもう片方は3の対応である可能性が高いため、残りのCXは風、ストブ(今にも落ちてきそうな空の下で)である可能性が高いです。彼の場合はGER(ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム)対応の風でした。無難なところでしょう。


 序盤はお互いまずまずの立ち上がりでしたが、レベル1になってから私がコケました。相手が風をトリガーしてダイレクト面を作り、そこの4点が入りました。そこからずるずるとダメージレースに負けていき、私のターン開始で私が3-3の時に相手が3-0で、更に相手の山札が二十枚後半程度という薄さで中にCXが7、8枚あります。到底このターンに仕留めきれるものではありません。


(ああ……負けか)


 そう思いました。また、一回戦で負け。まどマギタイカプの時がフラッシュバックしました。所詮自分はこの程度。自分はどこにでもいるありがちなモブ・キャラクターの一人。でもまあ、気が楽か。負けるのには慣れている。どうせ負けるならさっさと負けてさっさと帰ろう。ここから家に帰るには時間がかかるし。余裕を持って帰れるじゃないか。


(まるで接待だな)


 そう思いながらも、せめてやれるだけのことはやろうとレベル3プロシュートを出して無謀にも詰めに行きました。自分の回復が細く、また、相手がGERの対応を使えば間違いなく次のターンは来ないと確信したからです。


 まずレベル3のブチャラティでダイレクト。4点。通るわけないじゃん。思わず笑ってしまいそうでした。今の自分が滑稽に思えて、こんなにも無謀なことをして。ああ、情けないなあ……。


 4点、通りました。


 驚きました。しかし、これはカードゲーム。WS。そういうこともあります。たまたま偶然山札の上から4枚にCXがなかっただけ。むしろ4枚の中にCXがなかったことで残りの山札からCXが捲れる確率は大幅に上がりました。次はキャンセル。その次もキャンセル。ああ……嫌になるなあ。


 プロシュートでアタック。CXコンボ発動。4点。


 ゲームが終わりました。――え?


「その山すごいことになってません?」


 思わず口に出して訊いてしまいました。今思うと余計なことを言ったと思います。


 対戦相手は苦笑いしながらも山札を表に返して見せてくれました。そこにはCXの大行列。WSプレイヤーなら度々目にする光景でしょう。しかし、それが今だとは。


「ありがとうございました。頑張ってください」


 対戦相手はそう言って去りました。この時、勝って嬉しいというよりも、申し訳ない気持ちの方が大きかったです。順当にいけば負けていたのは私でした。


「……」


 いつもとは違う風が吹いている。なんとなくそう思いました。






 

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