第100話

 砂川の質問に占いコーナーの雲行きが怪しくなる。

 高嶺繭香が恋人を「翔ちゃん」と呼んでいるところを察するに、翔太というのは地味面の平凡な少年を指している。

 むろん、まだ名前を確認していない占い師にとって、砂川の名前が翔太ということも十分に考えられるが、一人称が「俺」であることを踏まえると、可能性は低い。わざわざ翔太と言ったあたり、砂川のことではないだろう。


 頭がこんがらがりそうな占い師は、

「ごめんなさい。その前に名前を確認していいかしら」

「砂川健吾」「夏川雫よ」「デビットソン田中です――ごめんなさい、小森翔太です」「高嶺繭香です」


 デビットソン田中。

 危険を察知した小森なりの精一杯の抵抗であったが、占い師も含めた全員が鋭い眼光を飛ばされて本名を口にしてしまう。


 なにせ占い師が四人の顔と名前を認識するということは、砂川が(対外的には)元カレ・元カノの小森と夏川の相性を質問したということ。

 もう意味がわからない。何よりデビットソンを名乗った小森はくだらないギャクを口にする男だと認識されていた。いたたまれない!


 もちろん占い師の謎は深まるばかり。

(……ん? んんん? デビットソン田中と台風ストーム夏川は元カノ・元カレの関係よね? で、現在は砂川くんと夏川さんが付き合っている――えっ、ちょっと待って。なんで砂川くんは言わば恋敵であるデビットソンと今カノの相性を聞いているのかしら? 嫉妬……ということかしら。やはり昔の男を意識して相性を? ん? んんん?)


 いまいち砂川の真意が読み取れない占い師。

 視線を上げれば恥ずかしそうに両手で顔を隠し、プシューと湯気を放つ夏川と両目を剥き、怒りと驚きを隠さない高嶺、口から魂が抜けていく小森の姿が目に入る。


 質問した張本人に限っては緊張の面持ちで答えを待つ始末。

「えっと……それじゃ小森くんのカードを表向きにしてもらえる?」

 もはや占い師まで緊張してしまっていた。一体、彼が抜いたカードには何が描かれているのか。


 この場にいる全員の生唾を飲み込む音が響く。

「「「「「ゴクリ」」」」」

 ゆっくりと捲られていくカード。


 なんとそこに描かれていたのは――、


 

 

















 ――であった。

 それが指し示すのは、


「これは⁉︎ さては優柔不断ね? それが災い――修羅場を招くと見ていいでしょう。無自覚に女の子たちの心を掻き乱しているかもしれないわね。、まさしく渦のような目まぐるしい事態を招くかもしれないわ――女難の相も捉え方を変えれば色んな異性を引き寄せるということ。しかも異性の方がすさまじく濃いせいか――それこそカルピスの濃いやつよ、無味無臭のなんの変哲もないただの水と表現しても過言じゃない小森君によって薄まり、ちょうどいい濃さになるから、もちろん夏川さんとの相性も抜群――というより誰とでも合うタチが悪いタイプよ! もちろん影で仲良くしている女の子もその一人だわ! 地味面のくせに主人公補正バリバリじゃない!」


(なんかめちゃくちゃヤバいカードを引いちゃったんですけどおおおおおおおおおおおおおおおおっー!!!! というか、急に饒舌⁉︎ 僕のターンだけ超具体的じゃない⁉︎ 何これ! 最後には地味面のくせに主人公補正バリバリとか言われちゃったよ⁉︎)

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