第96話
小森翔太の影に泉天使あり。
驚くべき発言に驚きを隠しきれない小森。
しかし、彼の胸中は複雑であった。
(うげえっ……! ちょっ、いきなり何を言い出すのさ! たしかに占い師さんの言うとおり、一緒にいて楽しい、気の置けない女友達が一人いるよ? 泉さんのことでしょ? けど、この状況でその発言はマズいでしょ。なんか知らないうちに両端にいる女の子が元カノ・今カノみたいになっている中で、別に女がいるでしょ発言って控えめに言ってヤバ過ぎるんじゃない? いや、不徳はなにもないけどさ。というか、これ今どういう状況? 関係図ってどうなってるの? そもそも両脇が偽装恋人っておかしいよね)
「君が影で仲良くしている女の子の生年月日ってわかる?」
「「「「君が影で仲良くしている女の子⁉︎」」」」
ここ一番の強ワードに異口同音で驚きを示す四人。
全員の目玉が零れ落ちそうになっていた。
それぞれの心情を覗いてみよう。
まずは夏川雫。
(やっ、やややっぱり翔太くんってモテるってことかしら⁉︎ たしかに彼の魅力を語り出したら八時間はぶっ続けなんて楽勝だけれど……そっ、そう言えば!)
どうやら彼女は何かを思い出した様子。
(健吾の指示で翔太くんショッピングに誘ったとき――)
『夏川さん以外の女の子もいた方が良いと思うんですけど』
『えっと……それじゃあ僕の方で見繕いましょうか』
『遊びに誘える女の子がたくさんいるってことかしら⁉︎ とんだ女たらしね!』
(――というやり取りがあったわ。しまった! 油断してたわね夏川雫!!! 人権すら大金を叩いて手に入れることができる大富豪なら翔太くんはすぐにペイされるほど欲しい男の子。彼の隣を虎視眈々と狙っている女豹なんてたくさんいるはず! なんという盲点、未熟! 高嶺さんしか見えていなかった自分が憎いわ! これからはもっと気を引き締めないといけないわね)
案の定、恋愛偏差値は小学生レベル。
特に大富豪の件においては、この光景を娯楽として眺めている神々が『そんなやついねーよ!』と満場一致であった。
次に高嶺繭香。
(ふざけんじゃねえぞ!!!! 私というものがありながら……なんなら夏川にまで言い寄られておきながら、気の置けない女が別にいるだぁッ⁉︎ マジでふざけんなし!!! もういい、もう吹っ切れた! こうなりゃ私無しじゃ生きていられない身体にしてやるよ!)
あくまで占いということを完全に忘却してしまっていた。
小森翔太に影で仲良い女友達がいることを疑っていなかった。
それは彼女自身が無意識にあり得る話だと思い込んでいるからに他ならなかった。
小森に惚れるまでの高嶺ならそれに気付けたはずだが、彼女もまた恋に翻弄され始めた一人と言えよう。
さらに砂川健吾。
(ふざけんじゃねええええええええええええええええええーっ!!!! 天使か? 天使のことだな、おい! 一緒にいて楽しい、気の置けない女友達だぁ⁉︎ マジでふざけんじゃねえぞ! つーかよ、それって下手すりゃ小森の三股無双を意味してるんじゃねえか⁉︎ なんでこいつがこれだけモテてんだよ! ヒモ男適性あり過ぎんだろ! もしかして俺は本当にとんでもないやつを相手にしちまったのか⁉︎)
未だに小森翔太という人間像を把握しきれていない様子。
ヒモ男に草食系、ロールキャベツ系に肉食系、コロコロと変わり過ぎである。
このまま行けばいずれは《魔王》かもしれないと誤解する可能性も大いにあるだろう。阿呆か。
最後に小森翔太。
この場で最も頭を回さなければ行けない人物になっていた。
(ええええっ⁉︎ いやもう本当に占いに来てからの三人のテンションに追いつけないんだけど! なんで僕占い師さんの一言で背後に『ゴゴゴ……!』とドス黒いオーラを纏いながら睨まれなくちゃならないのさ⁉︎ みんなの内心が謎すぎるんだけど⁉︎ おっ、落ち着け僕。一人ずつ考えてみるんだ)
足りない脳みそを振り絞りながら、
(一番分かりやすいのは繭姉だよね。対外的には僕たちは恋人ということになっているんだから、ここで冷静だと僕たちが(ストーカー撃退のための)偽装カップルということを夏川さん達に勘付かれてしまうかもしれない。ナーバスな問題だけに演技に熱が入ってもおかしくない。同じクラスメイトで女の子は噂好きだからね。ダブルデートに行ったんだけど、ぎこちないというか嘘っぽいんだよねー、みたいな噂が立てばストーカーを色んな意味で刺激させかねない情報になる)
(夏川さんはやっぱり砂川くんのプレイがある手前、僕に仲の良い女友達がいることは都合が悪いのかもしれない。なにせ彼は僕に夏川さんを寝取られるかもしれない、という危険なスリルで興奮する変態。なのに間男役の僕が別の女の子にうつつを抜かしてしまったら、プレイどころじゃないからね。砂川くんと一度終わりかけた夏川さんからすれば、ようやく見つけた一筋の光明が消えるようなもんだよね)
(で、砂川くんは前述の通り、僕により目覚めさせられた性癖があるから(文字にすると凄いね⁉︎)女友達がいることに憤りをい感じている、と。責任を取って寝取らせに付き合えってことかな? おっと、突然鳥肌が。自分で思考しておいておもわず悪寒が走ったよ。意識を保てていることが奇跡だ。いずれにせよ僕が取るべき行動は――)
一度瞳を閉じて不器用ながら演技のスイッチを入れる小森。
まるで汚染された聖杯のように災いをもたらす占い師の口を閉ざすため、机をドンッと叩き、
「黙れ」
その光景はまさしく『黙れドン太郎』
(なんか突然口調が荒くなったんだけど⁉︎ それも一番無害そうな男の子だったのに! えっ、何このカップルたち! なんかもうこれ以上占うのが怖くなってきたんだけど!!!!)
しかし、小森翔太の言動に衝撃を受けたのは占い師だけでなく、
(((なぜかキレ始めた⁉︎ もしかして逆鱗に触れた⁉︎)))
やはりギャグのような状況が出来上がっていた。
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