第149話

―――もう求めにも応じられなくなってしまうっ。




 心で叫ばなければならないのが辛かった。




「これですか?これを、孔に塗ればいいんですか?アシュラフ様の部屋にも同じようなのがありました」




 ミオは、小机に手を伸ばそうとする。




「待って。何をそんなに焦っているの?それに、さっき言いかけた言葉は何?じゃないと……の次。何か大切なことを言おうとしたんじゃないの?」




 涙が目に浮かぶのを見られないように、ミオは枕に顔を伏せた。すると、ジョシュアが肩に口づけてくる。




「これだけで、僕は幸せだよ。苦手なら一生しなくてもいい」




 見上げると、涙で霞む視界の中で愛おしい人が微笑んでいるのが見えた。




 ここが潮時なのだろう。




 別れを告げなければ。




 死ぬ前に繋がりたい。




 そして、すんなり別れたいなんて贅沢だったのだ。




 ミオは溢れ出す涙を拭いながら、上半身を起こした。




「じゃないと、の次を言ってもいいですか?滋養剤の効き目が切れてしまう、と言いたかったのです」

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