第119話
「ひ、ひどい。ジョシュア様」
どもりながら怒るマデリーンの顔が、染料で染めたように赤く変わる。
「初めて声を聞いた」
とアシュラフはポカンとする。だが、すぐ気を取り直して長椅子の上に木箱を置くとミオの手から本を取り、マデリーンに渡した。
「これ、返す」
「あ、……の」と、マデリーンはまた黙ってしまう。立っているだけで迫力のあるアシュラフを怖がっているようだ。
それを見て、ジョシュアが言う。
「ホームシックになると思って、いいものを持ってきたよ。部屋に入れてくれないか?」
すると、マデリーンはミオとサミイをチラッとみて俯いてしまった。
「ああ、知らない人がいて緊張しているんだね。こちらがミオ。そしてこちらがサミイ」
とジョシュアが紹介する。
「マデリーン様、こんばんは。ミオと言います」
「私はサミイです。もしかしたら、ご不快な思いをさせているかもしれません」
「不快?いいえ」
とマデリーンがびっくりしたように首を振った。
「これ、組み立てると西班牙の無敵艦隊になるんだってよ。一緒に作らないか?」
アシュラフが、今度は木箱を手に取り渡すとマデリーンが小さく頷いた。
部屋の中に通される。マデリーンの召使いがやってきて、ランプを灯していった。
ジョシュアが、絨毯の上に木箱の中身と設計図を広げる。
「やたら専門的だな」
アシュラフが、設計図を見て言った。そして、マデリーンのことを気にしながら隣に座ると、彼女はジョシュアの方に逃げて行こうとした。
「マデリーン。そこに座っていて」
ジョシュアはマデリーンを押しとどめ、部屋の隅に佇むサミイを呼ぶ。
「サミイ。君はアシュラフとマデリーンの間に」
「えっ?ジョシュア様、そんな……」
「いいから。マデリーンは妹しかいないから、アシュラフみたいに豪快な迫り方をしてくる男性に慣れていないんだよ。君はクッション代わりだ」
「いいぜ。サミイ、来いよ」とアシュラフが肩をすくめながらサミイを呼び、サミイは戸惑いながら二人の間に座った
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