第92話

「お連れしました」




と消え入りそうな声で言うサミイに対し、アシュラフは、「随分早かったじゃないか。俺に遠慮しなくてよかったのに」と、ミオと話をしていたときより態度を悪くする。




 ミオはジョシュアの姿を見て、弾かれたように立ち上がった。駆けだそうとすると、アシュラフがミオの首に腕を回して阻んだ。




「アシュラフ。その子を返してくれ」




 詰め寄ってくるジョシュアを、アシュラフは胸に手についてドンッと押しのける。




「こいつは、『白の人』の輿に乗り込んで狼藉を働こうとしたヤツだ」




「僕を追いかけてきただけだ」




「あんたが『白の人』とも知らず、地下資源を不正に調査したせいで捕まったと思い是正しに駆けつけたようだが、周りはそうは見ない。こいつは、いつ処刑されたっておかしくないんだ。俺の命令一つでな」




 ジョシュアが、腕組みをし静かな声で言った。




「まるで、君が王のようだね」




「父が寝付いて長い。おかげで、いろんなことをやらされているんだ」




「どおりで、いくら王宮を探し回っても姿が見えないはずだ」




 すると、アシュラフはハハッと笑い、サミイは顔を伏せる。




「腰を悪くしていてな。もう三、四年になるかな」




「では、見舞に行かないと」




「十年前に王宮を引っ掻き回して出て行ったあんたになんか、会いたくないと思うけどな」




 会話が途切れ、部屋が険悪な雰囲気に包まれた。




 やがて、アシュラフが目をギラつかせ口を開く。




「一年前、結婚式の招待を受けるとあんたから連絡があったとき、俺は仰天した。代理の人間を寄越すだろうと思っていたからな。




 絶対にこんな国に来たくないはずのあんたが、阿刺伯国に来る決意をしたということは、英国女王から、密かに命令を受けたんだろうと思った。だから、英国商船がサライエにやってきたときから、あんたを部下に張らせていた」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る