第89話

 ミオは、水たばこ屋でカードゲームに興じていた地元の男たちの話を思い出した。新王の情夫は変わった目の色をしていると。




 それは、サミイのことなのではないだろうか?




 だとしたら、どうしてアシュラフが一方的にサミイを遠ざけているのだろう。




 それにジョシュアと相手をしてもらえとは、どういうことだ?




「何も分からないっ、て顔してるな?」




 アシュラフが、ミオの顔を覗き込んできた。




 窓辺の椅子まで連れて行かれ、無理やり座らせられる。椅子には手すりに金銀の細工、座面と背もたれには赤い生地が張られていた。座り心地はいいが、居心地は悪い。




 向かいの椅子に座ったアシュラフが足を組んだ。同じ顔をしていても冷え冷えとした目をしていて、ミオはぶるっと身体を震わせた。




「寒いのか?」




 アシュラフは、羽織っていた薄いショールを脱いでミオに渡す。




「王宮は、至るところに水を引いている。身体を冷やし過ぎないよう気をつけるんだな。お前、名はミオと言ったか。どこに住んでいる?」




 ジョシュアとよく似た顔の、とても冷たい心を持った人だと思った矢先に、優しさを見せられ戸惑う。




「……港町サライエです。ラクダを使ってお客様に砂漠の旅を提供しています」




「そういえば」




 アシュラフが、自分の顎を擦った。




「サライエには一人『白』がいると報告を受けていたな。お前がそうだったのか」




「ご存知なのですか?」




「ああ。王宮は『白』の調査をしている。どの都市に何人住んでいるかまで調査中だ。最終的に、『白』全員を王宮に召し上げる予定だ」




「現王は四年前の開国に続き、『白』までも。ありがとうございます」




 礼を述べると、




「現王?……ああ、父のことか」




とアシュラフの返答が一瞬、遅れた。


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