第87話
「あの、ここは。アシュラフ様がいるということは王都なのでしょうか?」
「ああ。お前とジョシュアは三日前にここにやってきた。随分と身体が弱っていたから、サミイが付きっきりで看病した。後で礼を言え」
王都は、阿刺伯国の北西部にあり隣国との国境も近い。大河沿いにあり、緑が豊かだ。
ミオは、王都は初めてだった。
肥沃な大地は多くの恵みをもたらし、市場には売りきれないほどの食べ物が溢れているという。重要な祝賀を控え、王都の賑わいは最高潮に達する勢いだろう。
「助けていただき、ありがとうございました。あの、ジョシュア様は御無事ですか?会うことはできますか?」
すると、アシュラフは綺麗な形の眉を吊り上げた。
「まだ、自分の立ち場がわかっていないな。お前は『白の人』を殺そうとした人間なんだぞ」
「そんなっ。俺はジョシュア様に会いに来ただけで……。ジョシュア様が阿刺伯国の地下資源を不正に調査し、王宮の兵士に囚われたと聞いて、いてもたってもいられなくて」
「ああ。そうだな。あいつは、勝手に人んちの庭を穴ぼこだらけにしやがった」
アシュラフから見れば、一日早く生まれているジョシュアは兄にあたる。だが、口調はぞんざいなものだった。
「ち、違うんです。砂漠キツネを見たいと言ったジョシュア様に、こんな面白い言い伝えがありますよと黒い水の話をしたのは俺です。ジョシュア様は興味を持って、確かめただけで、不正に調査したわけではありません」
間もなく王になろうとしている青年に意見するのは恐ろしかった。でも、ジョシュアを守りたかった。
アシュラフは、ぶっと吹き出し腹を抱えて笑い出す。
「聞いたか、サミイ。十年経っても、ジョシュアの人たらしの腕は健在だ」
サミイは無言だった。
ひとしきり笑ったアシュラフは、ミオの手首を掴んで寝台から引きづり出した。驚いて止めに入るサミイを、アシュラフは煩わし気に払う。
「触るなっ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます