第三十六話 二人の固有陰陽術式

 俺はすぐに脚のホルダーから一枚のお札を取り出し、指で挟む。

 そして、明力をお札に集めていく。

 『はらたまえ、きよめ給え』

 それと同時に、両腕にも明力を集める。

 『全域氷結ぜんいきひょうけつ 救急如律令きゅうきゅうにょりつりょう

 詠唱が完了し、お札が光の膜となって両腕を覆っていく。

 これでまだ発動したのは二回目だけど、このままの調子ならいけるな。

 落ち着いて、腕に集めた明力を形にしていく。

 拳を覆い、腕を守るイメージ。頑丈で柔軟性のある籠手ガントレットを!

 そして、光の膜が徐々に剥がれていく。

 そこには白と青を基調とした不恰好な籠手ガントレットが出現する。

 『固有陰陽術式 氷晶陰陽拳ヘイル

 俺の陰陽術式が完成する。

 半年間、桜と共に固有陰陽術式を作ってきた。二日前に一応、形にすることはできた。

 その時の紅蓮先生との組み手で威力も確認済み。  

 これで俺の準備は終わった。あとは桜だな。

 ふと、桜に視線を向けると詠唱を始めるところだった。

 『はらたまえ、きよめ給え。豪焔必中ごうえんひっちゅう 救急如律令きゅうきゅうにょりつりょう』 

 桜の両腕からいくつもの糸状の紅い焔が出現する。

 そして、徐々に焔が桜の手の先に集まっていく。まるで糸で物を紡ぐように。

 『固有陰陽術式 爆焔豪弓ラヴァ

 桜の手の中に焔の弓が出現する。

 「とりあえず、2台の足を止めます!」

 サッと桜は弓を構える。左手で弓を構え、右手で弓のつるを引く。

 弦を最大限引き切ると、そこに焔の矢が現れる。

 桜の右手が弦を離す。すると、弓はボウォォォ!と音を立てながら勢いよく放たれる。

 たしか、桜の矢の速さは焔の火力と直結しているって言ってたな。

 焔の威力が強ければ強いほど、スピードも上がる。

 矢が放たれてから数秒後、数キロ離れた鬼から爆発が起こる。

 数キロ離れているのに爆風がここまで伝わるなんて、どんな威力してるんだ…。

 俺も負けてられないな。桜が作ったこの隙を見逃さない。

 俺と先生は明力操作で一気に加速し、鬼に迫る。

 鬼に向かっている間も俺たちの上を桜の焔の矢が凄い音を立てながら過ぎていく。

 鬼の形が正確にわかる距離まで来た。

 巨大な蜘蛛が二体。蜘蛛といっても、そこに人間の上半身がくっついていて、タランチュラの様な見た目だけど。

 俺は走ってきた勢いをそのまま使い、鬼の腹に殴りかかる。

 桜の攻撃で動きが鈍く、すんなり俺の拳が鬼の腹にめり込む。

 俺が殴った場所はたちまち氷に覆われる。

 やっとだ、やっと陰陽師として戦えてる!

 俺は拳を強く握り、そのまま同じ場所を数回殴る。

 氷の部分が広がりながら、パキッパキッと音を立てながらその部分が砕けていく。

 だが、鬼も傷をすぐに修復し攻撃をしてくる。

 俺はその場から離れ、距離を取る。

 俺がもといた場所は攻撃で抉られる。一撃でもくらえば明力操作を行なっていても、骨にヒビがはるな。

 今更だけど、人としての感覚が壊れてきている気がするな…。

 紅蓮先生はもう片方を相手にしているから支援は望めない。 

 だけど、桜の矢の攻撃がまだ続いているし勝てるかも。

 桜の矢の攻撃は威力は下がっているけど、数がさっきの倍以上の数が飛んできている。

 俺も負けてられないな。

 俺は明力操作を行なった。普通の明力操作ではなく、明力を体外に出すためのものだ。

 俺の固有陰陽術式は明力を使い、氷を作る。

 敵に拳が触れた瞬間に、腕にある明力を氷にして相手を凍てつかせている。

 その術式を使って体外に出た明力をそのまま氷にすることができる。

 体外に出た明力の形を斧に変え、それを氷に変えるとどうなるか?

 答えは単純、氷の斧ができる。

 だから俺は、体外に出た明力を日本刀の形に変えていく。

 頑丈で鋭く、滑らかに。徐々に氷へと姿を変えていく。

 そして俺の手には、透き通った薄花色うすはないろの刀身が握られる。

 だが、俺は刀なんて使ったこともないしまともに切れる気がしな。

 だから、あいつに力を借りよう。いつも夢の中に出てくる俺の相棒に。

 俺は鬼の攻撃を避けつつ、陰陽連から支給されたインカムを耳にはめる。

 このインカム、耳にはめるだけで自動で電源が入り、個人の電子生徒手帳のAIに繋がる様になっている。

 マジで凄い技術だと思う。

 「夜桜、今すぐぬらに電話をかけてくれ!」

 『了解しました。』

 だが、この後が問題だ。初めてぬらが電話をくれた時、その番号に掛け直してはみた。

 だが、ぬらが出ることはなかった。

 その後も、日をあけてから数度こちらから電話をした。

 数回は出たが出ない時の方が多かった。

 なんでだろう?よくわからない。

 これでぬらが出てくれなかったら、刀で戦うのを諦めるしかないな。

 いや、別に拳で戦えばいいだけだけど、やっぱり日本刀ってかっこいいじゃん?

 ぬらに電話を繋いでる間、鬼の攻撃を避けつつ何度か刀を握ってない方で殴って凍らしたし、この刀いらなくね?

 ぬらと電話が繋がった後に出せばよかったかな…。

 『おお、かなた。どうした?』

 「やっと繋がった!ぬら、共鳴率を上げてお前の動きをトレースしたい、できるか?」

 『ってことは、今の武器は刀か?わかった。今の共鳴率で可能だ。前やったみたいに形代に触れろ。あと、刀はあと数ミリ伸ばしといてくれ。』

 「わかった。」

 俺は鬼から距離をとり、形代に触れる。

 それにしても、共鳴率についてはわからないことが多い。

 ぬら曰く、某ロボットアニメのシンクロ率に近いそうだ。

 だが、最大で何%まで上がるのかぬらも知らないらしい。

 ぬらは今共鳴率が何%なのかだいたいわかるって言ってたな。なら今は何%なんだろう?

 このトレースだって正直出来るか不安だけど、刀使えたらかっこいいじゃん!

 前と同じく、形代に触れる。身体が理解した。ぬらの剣術を。

 これがトレース。なんか一種のわざマシンみたい。

 でも、これで刀が使える。

 俺は足に力をいれ、一気に踏み込んだ。

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る