文豪がらみの文学紀行
羽太
かわひがしへきごとうをさがして
碧梧桐の墓ってどこにあるか、みなさんご存知でしょうか。
わたしは知りませんでした。
というかそもそも碧梧桐ってなんか俳句のえらいひとだよなとかこどものとき家にあった『学習まんが学ぼう俳句』みたいなアレで読んだなとかそのおかげで「赤い椿白い椿と落ちにけり」は椿見るたびおもいだすけど赤が先か白が先かだいたい忘れてるとかまあそんなくらいの知識しかなかった。
あとたぶん字が特徴的らしい碧梧桐。
よくそのへんの古い店に掛軸かかってたり看板の字書いたりしてる気がする。
よくそのへんのひとんちの床の間に掛軸かかってる武者小路実篤よりは日常用品的にレアキャラだよなくらいの認識しかないわたくし出身は国文学科です。以下よろしくお願いします。
で、フォロワーさんくらいしかご覧になりそうもない記事で実はもなにもないんですけどひともすなるぶんごうとアルケミストというものも実はわたくしやっておりませんでどういう仕組みであのイケメンたちがうまれてどういう流れでどういう敵と戦ってるのかもさっぱり知りませんで、だからついこないだ件のゲームに登場したという俳句界の双璧についてもTLに流れてくるふたりのどちらがきょしでどちらがへきごとうなのかもいまだに区別がついておりません。
ただなんか知らんけど流行ってる。
のは知ってる。
なんか知らんけどもしかしたらうちのTLだけかもしらんけどへきごとうときょしのコンビめっちゃ流行ってる。
赤い椿白い椿と落ちにけり的にみんなぼとぼと落ちている。
椿ってひとの首みたいに落ちるとか言ってむかしの武士はきらったそうですけどわたしにはよそごとながらTLのみなさんがいい笑顔できょしとへきごとうに首落とされているように見えるんでさすが俳句のえらいひとは表現力がちがうねとかなんとかまあなんかそんな感じでぼんやりとTLをながめている今日この頃です。眺めてるけど区別はつきませんすみません。
という前フリだけですでに長大ではございますがつまりそういうわけなので、ほんならわたし大阪人やしよその地域の文アル好きフォロワーさんが大阪来られたときになんかおすすめできるものがあったらいいなあとかそもそも自分の趣味的にもあらためて近場であれこれ見に行けるものないかなあとあるときぼんやり検索してたらみつけてしまった史跡巡りがご趣味の男性のその義理の息子さんが公開されていた「舅の文学碑探訪録」的ホームページ。に書かれていた「碧梧桐の墓は大阪府枚方市にある」の文字。
碧梧桐の墓は枚方にある。
なんで?
北河内が生んだ文豪なんてまたよしなおきくらいですけどなんで?
いやうそやけどこないだも芥川賞とったり直木賞とったりする北河内民続出してたんでそれはうそですけどむしろ平安の時代から文学史に名を残す北河内ですけどいやそれはええねんけどすいません適当なこと言っておもしろくなるかなとかおもいましたけどごめんあんまりおもしろくなかった。
のはいいとして大阪に碧梧桐の墓があるなんていままで聞いたことないわあのひと松山のひとちゃうの大体こちとらもの知らずなりに史跡巡りはきらいじゃないので枚方にあるアテルイの首塚(なぜかある)も漢字を伝えた王仁博士の墓(なぜかある)も行ったことあるけど碧梧桐の墓なんて真剣に初耳やわそもそもそれどこにあんねんとグーグルマップ先生に聞いてみたら大阪から奈良にいく山越えの道沿いだった。
わかるひといますか。
あのぼろぼろのラブホがあるとこです。
ガソリンスタンドの脇の畑になんでか馬がいるとこです。
なんでや。
なんなら一時期そのへん毎日のように仕事で車走らせてたわ。
めっちゃ普通の霊園やわ。
ということで行ってきました碧梧桐の墓。
本題まで長かったですね。
ここからもっと長いよ。
事前情報によると碧梧桐の墓は東京と松山にあって、枚方にあるのは東京にもともと分骨されていたものを移したのだそうです。
東京にはお墓はあるけどお骨はない。
つまり枚方には知られてないけどお骨がある。
さすが俳句のえらいひとは違う。舎利のように分骨されたというならきっとさぞかし地元では崇められているに違いない。聞いたことないけど。
お気づきでしょうがわたしはほんとうにまったく俳句のこともへきごとうのことも知らないので二つ名とかわからんので「俳句のえらいひと」という乱暴な表現で今後も押し通してゆく所存です。
いつもは車で(前を通り過ぎて)行くのですが今回はレポをしてみようということで電車とバスで行きました。
うそです車がたまたまなかった。
大阪に土地勘のないあなたでも安心★JRとバスの乗り継ぎかつバス停を降りて5分くらい歩けば着きます。
バスたぶん1時間に2本くらいなんで気をつけてね。
で。
このお寺、というかホームページ見てもらえればわかるでしょうがめっちゃ霊園です。
霊園。
ちなみにホームページには碧梧桐のへの字も見あたらない。
みなさんの不安をむやみに煽らないよういままでその事実を伏せておりましたが、そう、お寺のホームページには碧梧桐のへの字も書かれていない…なんならお寺という雰囲気もあんまりない…霊園…めっちゃきれいな霊園…でも近所に「氷室」という地名があってたまたまバス停のそばにあった看板によると「日本書紀の時代ここは朝廷の氷室だった」と書かれていたりしてなんかわからんけど歴史は古い。どうにもよくわからない。ちなみにあたりは古き良き日本家屋の連なる集落だったりコンビニだったりバイク屋だったり郵便局だったりです。典型的な近畿の山越え道。
霊園と書かれた(明記されている…)看板の矢印に従い歩きます。
美しく舗装されたアスファルトの坂道の脇にプレハブの建物があり、さらにその隅には「墓地分譲中」と書かれたテントのなかでスーツ姿のお兄さんがポン菓子をつくっている。
碧梧桐の女たちよ、愛する男とおなじ墓(たぶん)に眠るならいまがチャンスだ。
ところでこの霊園、あちこちに関係者以外立ち入り禁止ってめっちゃ貼ってる。
めっちゃ貼ってる。
ここはもしかして特定の宗教的なものものしいなにかなのか…いやでも大阪市内でもよく看板見るし…ホームページでも700年代にどうとか書かれてたし…
とおもいながらとりあえず坂道をのぼろうとしたらプレハブからまた別のスーツ姿の男性が笑顔で飛び出していらした。
スーツ姿の、わりといかつめな、こわもての男性が笑顔で飛び出していらした…うなぎのぼりの立ち入り禁止感。
「こんにちは! お墓まいりですか?」
とめっちゃすてきなスマイルでお尋ねになられたのでお散歩に来ましたとも言えずそもそも散歩するような場所でもなく困りはてたわたくし、5秒ほど逡巡した結果素直に答えました。
「碧梧桐の墓があるそうなんで見に来ました」
わかっていた。
そんなこと言ったらその営業スマイルがこわばるの、わたしわかっていた。
だから言いたくなかった。
だって何回も言うけどお寺のホームページに碧梧桐のことなんて載ってないもの。
「碧梧桐 墓」で検索しても松山のしか出てこないもの。
そして失礼ながらこちらのナイスガイは碧梧桐とかご興味なさげなタイプとお見受けするナイスガイだもの…。
だいたい実際問題なんで松山藩士だった河東さんちの墓が分骨とはいえ北河内にあるんだわたし正直その話聞いたとき碧梧桐が三高時代橋本(京阪の境にあった遊郭ですよ)にでも持ってたお馴染みさんが彼の没後あとを弔う者も絶えた東京のお墓(すいません適当なこと言いました実際は知りません)から形見にと引き取ったとかそういうメロドラマ的ななんかでもあるんかとおもったくらいだ。
そしてこわばる笑顔のナイスガイに「そういうことは本堂で聞いてください」とうながされ、歩きはじめるわたくし。
へんな客(ですらない)で、すまない…。
ふたたび坂道を登ることしばし、左手に豪壮な洋館、そして巨大な黄金の…あれなんて言うんですかねスライムみたいなもったりしたかたちの屋根…の乗った建物が見えてきました。
黄金スライム屋根の建物、本堂って書いてある…。
そんでその本堂の玄関のところにロマンスグレーに決めたナ●ワ金融道みたいなたぶん70代ダンディがタバコをふかしてらっしゃる…。
上を見ても坂道は続いておりおそらくその先にはめっちゃ広大な霊園が続いていることをわたしは知っている。だって京阪電車の中吊り広告で見た。知ってる。
独自調査、むり、絶対。
ということで意を決してロマンスグレーに声をかけることにしました。
しかし素直に「碧梧桐の墓を見にきました」と言えば不審がられるのはさっきの経験で身に染みた。
さっきの営業マン風ナイスガイならともかくたぶんこちらのロマンスグレー(まつかたひろき似)はお寺の…ご住職…たぶん…わからんけど…とりあえず年を重ねた方にへたな隠しだてなど効かぬは必定。
ではどうするか。
わたし言いました。
「図書館から来たんですけど、こちらに河東碧梧桐の墓があるそうですね」
わたしのだいすきな映画『K-20』で高島礼子扮する偽シスターが「教会の方から来ました」といって強引にターゲットの家に入り込む場面があるんですけどいやそれが別になんだとは申しませんけどもしこちらをお読みのかたがわたしとおなじ手を使われるのならこのお寺の500メートル先くらいに図書館があるのでへたすると「うちのシマにはそんな者はおりません」と言われてしまう可能性があるので気をつけてください。
ということで意を決してかようなことを申し上げたわたくしにロマンスグレーからの一言
「お墓の今の名義人おわかりになります?」
リアル墓参になってきた
いやそもそもリアルに墓参りなんですけどいやなんていうかわかりますかそのへんの兼ね合い。
ていうかその名義人むしろ違う意味でも知りたいけどなんでここにお墓があるのか謎すぎるから知りたいのは山々だけどそれはもう個人のプライバシーの領域だしっていうか
「なんかこう…俳句のえらいひとってくくりでお墓がなってたりしないんですか…」
いいとしをした女のものの聞き方ではない。
だから言ったでしょ俳句のこと何も知らんから押し通すって…ほんとに押し通したんですよ…。
「ないですね」
ロマンスグレー、にべもない。
「いまは個人情報とかもうるさいから、名義人がわかって確認できたら教えることもできるけどねえ、あとはお墓のなまえひとつずつ見ていくくらいかなあ、墓地はこことあとみっつあるけど」
へきごとう先生が厳重なプライバシー管理の下に眠ってらっしゃる(仮)ということはよくわかりました。
あとにべもないとか言ってすみませんロマンスグレー氏、いろいろ教えてくださってとても親切な方でした。
とりあえずなにもしないまま帰るのもつまらないので、ロマンスグレー氏に許可をいただきさらに坂道を登ること数分。
頂上にたどり着いたわたしが目にしたものは、A〜Mブロックに分かれた広大な墓地公園でした。
そして耳によみがえるロマンスグレー氏の言葉。
「墓地はこことあとみっつあるけど」
とってもきれいに整備された墓地公園でした。
それゆえにずらりと見渡すかぎり並んだ墓標のなかからただひとり名前もさだかではないひとを見つけだすというのは愛ゆえにしかできないことであるとわたしは悟りました。
ごめんつまり見つけられんまま帰った。
いや無理ですって。
あんなリアルウォーリーを探せ、素人には無理ですって。
ということで、もし我こそは碧梧桐の女なり! 幾千万のなかから愛する彼のひとを見つけ出すに苦ならん! という方がいらっしゃいましたならぜひご一報ください。
お寺の行き方などレクチャーいたします。
以上、仕事の愚痴などで日々TLのみなさまにご心配をおかけしていること恐縮至極のわたくしが、なにがしかのお役にたてればとこのたび頑張ってレポしましたのでどうぞよろしくお納めください。
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